ライフスタイル x ディープテック──超臨界CO2技術で挑むコーヒーの新たな楽しみ方

ライフスタイル x ディープテック──超臨界CO2技術で挑むコーヒーの新たな楽しみ方

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デカフェは嗜好品ではなく、仕方なく飲むもの──この通説に技術で挑み、新たなコーヒーの楽しみ方を提案する企業がある。

ストーリーライン株式会社は、東北大学との共同研究により、超臨界CO2流体技術を用いた独自のカフェイン除去技術「ZEN Craft Decaf Process」を開発。コーヒー豆本来の風味を損なわずにカフェインを取り除くことを目指す。

健康志向の高まりを背景にデカフェ(カフェインレス)市場が拡大する中※1 、ストーリーラインは、時間帯や体調、予定に合わせてカフェイン量を選ぶ「カフェインコントロール」という新たなコーヒー体験・ライフスタイルを提案する。

東京・日本橋の実証店舗「CHOOZE COFFEE」では、全メニューでカフェイン量を選べる体験を提供しながら市場データを蓄積。小川珈琲との業務提携により、2026年3月にオープンした都内店舗ではデカフェ技術を活用したメニューも展開している。

将来的には、自社開発のカフェイン除去装置をコーヒー生産国へ展開し、生産地でデカフェ加工を行う構想も掲げる。

代表取締役CEO/CDOの岩井 順子氏に、技術の独自性と事業構想を聞いた。

※1 市場調査会社Market Data Forecastによると、世界のデカフェコーヒー市場は2024年時点で約213億ドル規模であり、2033年には約322億ドル規模に達すると予測されている。

超臨界CO2と水分制御が支える、新たなデカフェ製法

──御社が取り組む事業について教えてください。

岩井氏: 東北大学と共同で、コーヒー豆の風味を損なわずにカフェインを取り除く技術「ZEN Craft Decaf Process」の研究開発を行っています。現在はラボスケールでの実証を終え、これから量産化に取り組む段階です。

製造したデカフェは実証店舗「CHOOZE COFFEE」で販売しています。

デカフェというと、以前はネガティブなイメージが強く、「おいしくない」「誰が買うの」と受け止められることもありました。私がこの事業を始めた頃は、そもそも「デカフェとは何ですか」と聞かれることもありました。

ただ、最近は市場が大きく変わっています。コンビニなどでも「デカフェ」や「カフェインレス」という表記を見る機会が増え、消費者がカフェインを意識するようになってきました。カフェインレスコーヒー市場の拡大に伴い、スペシャルティグレードなどの良質なコーヒー豆も原料として使われるようになってきました。一方で、本当においしい高品質なデカフェはまだ少ない。

そこには技術的な課題があります。

──デカフェ加工には、どのような技術的な課題があるのでしょうか。

既存のデカフェ加工には、いくつかの製法があります。

水抽出法などでは、生豆※2を水や溶媒に漬け込んで、カフェインを溶かし出します。また、従来の超臨界CO2法でも、前処理として温水に長時間漬けるなどして加湿します。

液体に漬け込むと、糖や脂質、酸など、コーヒーのおいしさを構成する成分まで溶け出してしまいます。さらに、長時間漬けることで豆が過剰に水分を吸い、乾燥させると豆がボロボロの状態になってしまいます。傷んだ豆は焙煎時に熱が均一に入りにくく、焼きムラの原因にもなります。

私たちの製法は、水に漬けないことが最大の特徴です。水に漬けないため、風味成分の流出を抑えられ、豆の過剰な膨張も起きにくい。結果として、処理後の豆も原料とほとんど見分けがつかない状態を保つことができます。

※2 生豆:焙煎する前の、生のコーヒー豆。焙煎で火を入れることで市販のコーヒー豆の状態になる。

画像:コーヒー生豆を液体に漬け込む従来の方法と、漬け込まない同社の方法による違い
コーヒー生豆を液体に漬け込む従来の方法(上)と、漬け込まない同社の方法(下)による違い。後者では生豆の色の変化が少なく、変形や割れが見当たらない。(画像:同社提供)

──「超臨界CO2」とプロセスについて、詳しく伺えますか。

二酸化炭素は、一定の温度・圧力下で、液体と気体の中間のような「超臨界」という状態になります。気体のように物質の隙間へ入り込みやすく、液体のように成分を溶かして運ぶ性質を持っているのが特徴です。

この超臨界CO2を生豆の入った容器に流し込むと、豆の内部にあるカフェインが超臨界CO2に移動します。

このとき、カフェインを豆の内部から表面へ移動させるには、一定の水分が必要です。従来のように豆を大量の溶媒に漬けるのではなく、前処理で必要な水分を与え、豆の含水率や水分活性、細胞の内外を移動する水分を精密に管理します。この水分挙動の制御技術を含めて、特許を取得済みです。

その後、超臨界CO2を水にくぐらせることで、カフェインは水に移り、カフェインを失った超臨界CO2は再び抽出工程へ戻されます。超臨界CO2の約90%は、このように循環利用できます。

つまり、豆から超臨界CO2へ、さらに超臨界CO2から水へと、カフェインを順番に受け渡していく仕組みです。従来のように豆そのものを水に漬けず、カフェインを回収する段階でのみ水を使うため、豆に含まれる風味成分が失われにくいことを確認しています。

ZEN Craft Decaf Process(特許取得済)の設備の仕組み(画像:同社提供)
ZEN Craft Decaf Process(特許取得済)の設備の仕組み(画像:同社提供)

現在、ラボスケールでの実証を完了し、安定した品質で製造できる目処がついています。今後、量産に向けてパイロットスケールの実証をしていく段階です。

店舗データから見えた、カフェイン量を選びたい消費者

──「カフェインコントロール」というコンセプトについて教えてください。

従来のデカフェは、カフェインを摂れない人が仕方なく飲むものという位置づけでした。妊婦さんや、睡眠障害で医師に止められている方などが、本当はコーヒーを飲みたいけれど、代用品として我慢して飲む。そういう位置付けだったと思います。

ただ、最近は少し違ってきています。健康志向が高まり、カフェインの摂りすぎを気にする人が増えています。私たちが特にターゲットとしているのは、これまでデカフェを買わなかった人たちです。コーヒーが好きで1日に4〜5杯飲むけれど、睡眠の質や日中のパフォーマンスが気になるビジネスパーソン。そういう方々が、時間帯や体調、次の予定に合わせてカフェイン量を選べるようにしたいと考えています。

カフェインは悪者ではありません。集中力を高めたり、眠気を抑えたりする良い面もあります。一方で、摂りすぎると眠れなくなったり、体調に影響したりすることもある。だからこそ、0か100かではなく、自分で調整できる選択肢が必要だと考えています。

CHOOZE COFFEEでは、全てのメニューでレギュラー、ハーフ、デカフェを選べるようにしています。体調や時間帯、その後の予定に合わせて選べるコーヒー体験を提供しています。

写真:日本橋のオフィスビルに入居している実証店舗、CHOOZE COFFEE
日本橋のオフィスビルに入居している実証店舗、CHOOZE COFFEE(画像:CHOOZE COFFEEウェブサイトより)

──実際に店舗でのお客さんの反応はどうでしょうか。

日本のデカフェ輸入量は全体の1%強と言われています。一方で、CHOOZE COFFEEでは、来店者の約45%がカフェインを減らした注文をしています。

デカフェとして提供するのではなく、「カフェイン量を選べます」という形で選択肢を提示する。すると、カフェインを減らす選択をする人が安定して出てくることが分かりました。

興味深いのは、男女差がほとんどないことです。なんとなくデカフェは女性が選ぶイメージを持たれやすいのですが、男性もカフェインを減らす選択をしています。また、午後にカフェインを減らす人が増える傾向はありますが、午前中にも一定数の人がカフェインを控えています。

店舗のお客様にアンケートを取ると、カフェインコントロールという概念を知った後、約7割が「カフェイン摂取への意識が高まった」と回答しています。さらに約9割が「カフェインコントロールを続けたい」と答えました。デカフェではなく、カフェイン量を選ぶという打ち出し方をすることで、これまでとは違う潜在ニーズが見えてきていると感じています。

──ご自身のバックグラウンドは、現在の事業にどのようにつながっているのでしょうか。

私は研究者ではなく、もともとコーヒー屋だったわけでもありません。前職では、戦略デザインという領域で、経営課題をデザインの文脈から解決していく仕事をしていました。

CHOOZE COFFEEも、店舗を何百店舗も増やしていくためのモデルではなく、新しいコンセプトを実証したり、データを取ったりする場として運営しています。デカフェは昔からある商品ですが、それをどうすれば新しい行動として広げられるのかを検証しています。

まずは生産国タイから、ASEAN市場見据える

──なぜ生産国での加工を目指すのでしょうか。

現在、世界のデカフェ加工はカナダやドイツの大手企業が中心です。たとえばアフリカで収穫された豆は、いったんドイツやカナダなどに運ばれてデカフェ加工され、その後、日本などの消費国へ届けられるケースが多い。非常に長い旅になります。

コンテナで長距離輸送される際に、コーヒー豆が高温環境にさらされることもあります。時間もかかるため、品質劣化のリスクもある。さらに、既存の大規模工場では一度に数トン単位で処理するケースもあり、品質にムラが出やすいという課題もあります。

私たちが目指しているのは、生産地に設置できる小型の装置です。生産者組合単位で導入できる、1ユニットあたり年間15〜20トン程度の処理能力を見込んでいて、既存のコーヒー精製施設の建物内に収まるサイズ感を目指しています。小ロットでの処理が可能であることで、トレイサビリティも担保され、高付加価値なスペシャルティコーヒーとの相性も良いと考えています。

写真:ZEN Craft Decaf Processのラボスケールの実証設備
ZEN Craft Decaf Processのラボスケールの実証設備(画像:同社提供)

生産国でデカフェ加工ができれば、現地で付加価値を生み出すことができます。豆をそのまま輸出するだけではなく、加工によって価値を高めてから輸出する。結果として、生産者や産地により多くの価値が残る仕組みをつくれると考えています。

──タイでも取り組みを進められているそうですね。

現在、タイでデカフェ加工拠点をつくる構想を進めています。具体的には、タイ王室が手がける事業体、ドイトゥン※3と連携を始めています。ドイトゥンの農家が生産する豆を使い、現地のバイオエタノール企業が排出するCO2を活用して、デカフェ加工を行うことを想定しています。

アジアには、デカフェ加工の拠点がほとんどありません。タイでは、生豆の輸入に高い関税がかかるため、外からデカフェ豆を持ち込むことが難しい状況があります。一方で、ASEAN域内では関税がかからないため、タイでデカフェ加工ができれば、域内に流通させやすくなります。 

現在は、ドイトゥンの豆を使って日本でデカフェのサンプルを作り、品質評価を重ねています。苦味や風味のバランスを見ながら、現地チームとカッピングを行い、品質についてディスカッションを続けている段階です。

豆の品種や産地、標高による硬さの違いによって、温度、圧力、CO2の流量、処理時間などを調整する必要があります。産地ごとに最適なレシピを作成していく予定です。

※3 ドイトゥン(Doi Tung):タイ王室の庇護を受けるメーファールアン財団が運営する地域開発プロジェクト。タイ北部チェンライ県でコーヒー生産などを通じた地域開発に取り組む。

──今後の展望を教えてください。

現在はデカフェ豆の販売が中心ですが、将来的にはロイヤリティ収入や協業収益を得るモデルも見据えています。

今後は、量産化に向けて資金調達を進め、日本とタイで並行してパイロットスケールの設備立ち上げを目指します。その先には、アジア各地の生産国へ技術と装置を展開していく構想があります。

「代用品」としてのデカフェから、「美味しく、カフェイン量を選ぶ」という新しいコーヒー体験へと変えていきます。その技術と仕組みを、生産国にも広げ、価値を創出していきます。

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