株式会社モカブル

“飲む”だけではない、新たなコーヒー体験を提供する株式会社モカブルが、創業ラウンドとして総額1.5億円の資金調達を実施した。調達した資金は、主力商品である「モカブル」の開発・販売強化や、北米法人の体制整備、さらには産地投資による持続可能なサプライチェーン構築に充てられる予定だ。
モカブルは、「飲む」ことが当たり前とされてきたコーヒーに対し、“食べる”という新しいアプローチを提案するスタートアップである。一般的なドリップ抽出では、コーヒー豆の約70%がフィルターに残ってしまうが、同社は豆をまるごと微粉砕し、サステナブルな植物油脂と組み合わせることで、香りや味わいをそのまま楽しめる食品として再構成している。

代表取締役の糸山彰徳氏は、「コーヒーは本来、香り成分や味わいの多くが豆カスに残され、捨てられてしまう。私たちはこの“もったいない”部分をフードとして活かすことで、より豊かな体験を提供したい」と語る。製品は見た目も口どけもチョコレートに似ているが、カカオを使わずコーヒー由来の成分を最大限に引き出しており、「香りの強さは一般的なチョコレートと比較しても優れている」と自信を示す。
商品は「ローステッド(コスタリカ産深煎り豆)」と「フルーティー(エチオピア産浅煎り豆)」の2種を展開。今後はさらなる高価格帯ラインの開発に加え、将来的には手頃な価格帯への展開も検討している。「セカンドブランドの立ち上げも視野に入れ、幅広い層に“食べるコーヒー”を届けていきたい」と語る。
販売チャネルも拡大しており、伊勢丹新宿店でのポップアップ展開や、ラグジュアリーホテルでの提供など、B2B領域にも注力する。「D2Cだけでなく、パティシエやホテルと連携し、料理・菓子・飲料への展開が可能な原材料としても提案していく」としている。

また、創業当初からグローバル市場を視野に入れており、2025年7月に設立された北米法人を軸に、今後は現地向けSKUの開発やブランド認知施策を加速する方針だ。「北米ではビーガンやサステナビリティへの感度が高く、我々の価値観と親和性が高い市場」と語る。
創業の背景には、糸山氏がサントリー在籍時に温めてきた構想がある。社内ベンチャー制度「FRONTIER DOJO」で採択され、数年にわたる試作と検証を経て、2025年にスピンアウト。独立後はスピード感ある意思決定や柔軟な人事制度を実現できる体制とし、「スタートアップならではの高速な仮説検証サイクルを回すことに最も注力した」と思いを述べる。
今回の資金調達には、Genesia Venture Fund 4号投資事業有限責任組合、サントリーホールディングス株式会社、みずほ成長支援第5号投資事業有限責任組合、Kconイノベーション1号投資事業有限責任組合の4社が出資に参加した。
中でもジェネシア・ベンチャーズとは、同社のアクセラレーションプログラム「イグニッション・アカデミー」への参加を通じて関係を構築。「資本以上に、社会や文化に価値を提供する姿勢に共感した」と糸山氏は語る。
将来的な資金調達については、「次回以降のラウンドでは日本に限らず北米や欧州、東南アジアなど海外ファンドとの連携も視野に入れている。特に北米市場での事業拡大には、現地のネットワークと理解が不可欠」と語り、今後は海外CVCやファンドとの接点強化を進める考えだ。
資金の使途としては、北米展開に向けたSKU開発、販路開拓、チーム拡充に加え、日本国内におけるブランド認知施策やフラッグシップ店舗構想なども含まれる。
モカブルは今後、「コーヒーを食べる」という新たな体験を単なる製品にとどめず、コーヒー文化の新しいスタイルとして根付かせていくことを目指している。香りや味わいを最大限に活かしながら、農園との協業や持続可能なサプライチェーンの構築にも注力していく。「農家とともに新しい品種の開発や投資を進めることで、コーヒー産業全体の課題解決にも貢献したい」と糸山氏は語る。
将来的にはIPOも視野に入れており、「自力で上場できる組織体制を構築し、2030年頃を一つの目標に据えている」と展望を明かす。北米を起点に欧州や東南アジアへの展開も視野に入れ、モカブルはグローバルな嗜好食品市場でのポジション確立を目指している。
「飲む」から「食べる」へという消費スタイルの転換を掲げる同社の成長戦略は、既存の飲料・製菓業界のバリューチェーンや市場構造に変化をもたらす可能性がある。今後、モカブルがどのように市場を切り開いていくのか、その歩みに注目したい。
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