製造現場の紙運用解消へ、帳票システム開発のミライのゲンバがシードで1.74億円調達
製造現場向け電子帳票システムを提供するミライのゲンバがシードラウンドにて、J-KISS型新株予約権による約1.74億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドでの引受先は、DNX Ventures、デライト・ベンチャーズ、ANRI、ユナイテッド、モバイル・インターネットキャピタル、GxPartners、三菱UFJキャピタルの7社。
今回の資金調達により、生成AIを活用した機能開発や組織体制の強化を目指す。
「現場の運用を変えない」電子帳票システム
同社が提供するAIを活用した電子帳票システム「ミライのゲンバ帳票」では、製造現場で普段利用している帳票のひな形をエクセル形式や画像形式で登録するだけで、自動的に電子帳票が作成される。従来の電子帳票システムやノーコードツールを利用するのと比べ、自分たちで帳票を設計する手間やツールの学習コストが低い。
現場の情報はタブレット上で手書き入力できるため、紙の帳票に書き込むのと同様の操作感で利用できる。キーボードを使った文字変換なども不要になるため入力の手間が少なく、立ち仕事などタイピングがしづらい環境でも使いやすいという。
記録された情報を可視化するダッシュボード機能も備える。データはダッシュボードで確認するほか、AIにデータの集計や分析を指示できる機能もクローズドβ版として実証実験を進めている。
β版のプロダクトとして2023年末に提供を開始した。すでに有償の導入実績もあり、2025年末ごろまでには250社への導入を目標としているという。
今回の資金調達に際して、代表取締役 佐藤 哲太氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
紙運用をなくすのは「簡単ではない」
―― 製造現場に電子帳票システムが必要な背景や課題について教えてください。
佐藤氏:世界一と言われていたころとは異なり、日本の製造業は今では労働生産性の低下が大きな問題となっています。その主な原因の一つが、現場における情報の記録がいまだに紙媒体で行われていることです。現在でも約70%の製造現場では紙帳票が利用されています。
製造日報などの帳票には、現場での人や物の動きや生産実績など、経営に関わる重要な情報がびっしりと詰まっています。これらの情報は自社だけでなく取引先にとっても非常に重要です。経営のために分析すべきデータであるにもかかわらず、紙のまま倉庫に山積みのような状態で保管されてしまっているのが現状です。
製造業では技能伝承が必要だと言われています。ベテランの知識やノウハウも実はたくさん記録があったとしても、紙であるために活用がされず、技術の継承が滞ってしまうような問題もあります。
現場から回収した紙帳票を、わざわざエクセルに転記したりスキャンしたりする作業が発生するなど、紙を使うことで生まれる非効率もあります。手書きでびっしりと書かれた紙帳票を毎日エクセルに転記することが間に合わず、とりあえず段ボールで保管しているだけの場合もあるほどです。
―― 電子帳票システムは以前から存在する中、まだこれほどの紙運用が残るのはなぜでしょうか。
製造現場には非常に多くの工程があり、一連の流れに数百名の作業員たちが関わっています。高品質な製品を作るために長年かけて確立された業務プロセスを変えるのは大変なのです。
帳票を紙からデジタルに切り替えることも、現場の効率化になりそうですが実現するのは簡単ではありません。工場それぞれで製造プロセスが出来上がっている中で「紙帳票だったからこそできたことができなくなる」という不安の声は多いのです。
また、作業員たちがマニュアルを読み込み、現場の運用に合わせたアプリケーションをノーコードツールで構築することも現実的ではありません。ただシステムを導入すれば解決するわけではないという問題の複雑さから、サービス導入が難しくなっているのではないでしょうか。
―― 創業のきっかけを教えてください。
新卒では、日本製鉄に入社しました。工場の改善活動や生産管理に携わる中で、ものづくりに魅せられていきました。感じていたのは、ものづくりの世界では「生産性を0.1%でも高める」といった積み上げ型の改善が多いこと。一方で社会に目を向けると、多くのイノベーションが生まれています。製造業は大好きでやりがいを感じつつも、一度業界を離れてAIやインターネットを活用したイノベーションについて学びたいと、ソフトバンクに転職しました。
ソフトバンクでは社内起業制度を活用し、AI開発に必要な良質な教師データを作成する事業を立ち上げました。その際に、この経験は製造業の課題解決に役立てられるのではないかと思ったのです。以前からいつかは製造業に貢献したいと思っていたこともあり、製造業の非効率性やデータ活用の課題を革新的なAIで解決しようと起業を決意しました。
AIを軸に機能開発を強化
―― 資金調達の背景や使途について教えてください。
今回株主となっていただいた投資家と出会ったきっかけの一つが、2023年に福岡で参加したB Dash Campです。出資に至らなかったとしても別の投資家をご紹介いただくなど、多くの出会いにつながり、今回の資金調達が実現しました。
資金の主な使途はプロダクト開発の強化です。現場の運用に合わせた手書きデータ入力や、既存の帳票をPDFで読み込んでAIが自動で電子帳票を作成する機能なども、今後はより複雑な帳票に対応させていかなければいけません。
実際にプロダクトを触ったお客様からは「これを待ってた」という反応をいただくこともあります。このプロダクトを少しでも早く、同じような課題を抱える方々に届けるための拡販も資金調達の目的です。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
私たちは現在、アナログな情報をデジタル化する技術開発に大きな力を注いでいます。この取り組みは順調に進んでいて、その先の2,3年後に注力しようとしているのがデータの活用や分析です。現場のデータをAIが自動的に分析してくれることで、エクセルでグラフを作る手間がなくなるようなイメージです。
製造業界を変えるポテンシャルのある新たなプロダクトは出来上がりつつある一方で、お客様からの多様な要求に対応するための人材が不足しています。採用の観点では将来的なCXO候補も含め、ゼロから新しいことに挑戦したい方や製造業界に興味、愛着のある方々と、共に製造業に貢献していきたいと思います。