株式会社おてつたび

短期アルバイトと旅を組み合わせたマッチングプラットフォーム「おてつたび」を運営する株式会社おてつたびが、2024年4月にシリーズAラウンドのファーストクローズとして総額2億円の資金調達を実施した。出資にはKDDI、ANAホールディングス、グローバル・ブレイン、ゆうちょ銀行系ファンドなどが参加している。
今回の調達によって大手企業との連携強化や人員・プロダクト体制の拡充を進めるほか、プロダクト戦略顧問として元マクアケ取締役CTOの生内洋平氏を迎え、プロダクト面での強化にも乗り出す。
同社は2018年創業。短期アルバイトと旅を組み合わせたマッチングプラットフォーム「おてつたび」を運営している。2019年1月にサービスを開始し、2024年4月時点で受け入れ事業者数は全国1,900箇所超、登録ユーザーは70,000人を超えている。サービスの特徴は、都市部を中心とした旅行者が現地で短期間働くことで滞在費の一部をまかなう仕組みにある。受け入れ先は宿泊業、農業、地域イベント、商店など多岐にわたり、仕事内容も調理補助、清掃、荷運び、農作物の出荷作業など多彩だ。旅行者は給与とともに地域での交流や体験を得られ、事業者は短期の人手不足への対応や、外部からの情報発信、関係人口の増加を期待できるとしている。
代表取締役CEOの永岡里菜氏は三重県尾鷲市の出身。地元での人口減少や事業者の苦境を目の当たりにし、「地方の良さや働く機会へのアクセス構造そのものを変えたい」という思いから起業した。永岡氏は大手イベント会社での企画・運営、農林水産省関連事業の推進、フリーランス経験を経て、2018年におてつたびを創業した。その後、都市部の若年層を中心にサービスを広げてきたが、近年は多様な働き方を求めるシニア層の利用も増加している。
同社が参入する「スポットワーク」市場は、短期・単発人材マッチングの分野にあたる。この分野は近年、テクノロジーの進展や企業側の柔軟な人員ニーズを受けて急成長している。エン・ジャパンの調査(2023年)によれば、スポットワーク利用経験者の約7割は30代以下で、特にZ世代にニーズが強い傾向がある。また、コロナ禍以降、ワーケーションや多拠点居住といった新しい働き方・旅行スタイルへの関心が高まっており、地域をまたぐ柔軟な働き方が注目されている。一方で、従来のリゾートバイトや農業季節労働は仲介事業者による固定的なマッチングや長期拘束、ミスマッチのリスクといった課題も抱えてきた。おてつたびは「旅」と「労働」を組み合わせることで、地域課題への対応と体験の提供、関係人口の創出を同時に志向するサービス設計を特徴としている。
業界全体では、特に地方における労働人口の減少と高齢化が進み、宿泊業や農業、イベント運営などで季節・繁忙期ごとの人手確保が大きな課題となっている。観光庁の調査(2023年6月)では宿泊業の約8割が人手不足を「深刻」または「やや深刻」と回答している。さらに、インバウンド需要の回復や「観光立国」政策の進展に伴い、臨時人材への需要も高まっている。こうした背景から、同社は都市部の多様な人材プールを地方に流動化させる仕組みとして、デジタルプラットフォームによる即時マッチング体制の強化を進めている。この分野では既存の人材派遣会社やアルバイト情報サイト、地域特化型の派遣事業者なども競合するが、旅体験と短期労働の融合による関係人口の創出という側面で差別化を図っている。
今回の資金調達では、KDDIやANAホールディングスとの資本業務連携も発表された。KDDIは通信インフラや自治体ネットワークを生かした事業者開拓を、ANAは航空ネットワークや顧客基盤、営業拠点を活用した都市と地方の人流活性化および事業者利用拡大を想定している。これにより、全国規模での受け入れ事業者の拡大や、インバウンド対応を含むプロダクト開発、新機能の実装など、プラットフォームの進化に向けたリソースの投下が見込まれている。また、プロダクト戦略顧問として参画する生内洋平氏は、マクアケCTOや複数スタートアップの立ち上げ経験があり、今後のプロダクト戦略やUX改善、人員体制の強化に専門性を生かすとしている。
おてつたびは今後、プロダクト改善・受け入れ事業者の拡大・連携先企業とのシナジー強化に注力し、「旅版スポットワーク」という新たな就業体験を社会に定着させることを目指す。あわせて、地方での定住や二拠点生活といった派生ニーズへの対応や、既存の求人媒体・人材派遣業との競合状況にも注視していく構えだ。
画像はおてつたびプレスリリースより