オンライン診療「ヤックル」で生活習慣病の治療体験を革新、累計2.2億調達で目指すブランド確立
オンライン保険診療サービス「ヤックル」を提供するアルゴスがプレシリーズAラウンドの資金調達実施を明らかにした。累計調達額は2.2億円となった(デットファイナンスによる調達を含む)。
今回のラウンドに参加したのはANOBAKA、ケップルキャピタル、ほくほくキャピタル、OKBキャピタル、オールアバウト、きらぼしコンサルティング、FLAG-41と個人投資家など。
今回の資金調達に際して、代表取締役CEO布川 佳央氏と共同創業者で取締役COOの牛嶋 洋之氏に、事業や今後の展望などについて詳しく話を伺った。
生活習慣病特化のオンライン診療 多忙なビジネスパーソンの助けに
―― 提供するオンライン保険診療サービスについて教えてください。
布川氏(写真中央):ヤックルは生活習慣病の重症化予防を目的としたサービスです。糖尿病・高血圧・脂質異常症・高尿酸血症といった慢性化しやすい4つの疾患に特化しています。
オンラインの診察で、患者は定期的な通院の負担を軽減しながら治療を続けることができます。口頭の診察だけでなく自宅で血液検査ができる検査キットも提供しており、尿検査への対応も予定しています。オンライン診療でありながらも、自宅で検査を受けられるからこそエビデンスに基づいた質の高い治療を実現できるのです。
牛嶋氏(写真右):サービスはLINEからご利用いただけます。診療時間は毎日18時から22時までです。予約は不要で、LINE上で事前に生活習慣病に特化した内容の問診に回答すれば、あとは診療をリクエストするだけでビデオ通話による診察を受けられます。現在の待ち人数もわかるので、混雑具合を確認してご自身のタイミングで診察にお入りいただくことも可能です。
診察後、薬は自宅での受け取りが可能です。院内処方を採用しており薬局を介さないワンストップでの処方も可能となっています。配送を待てない場合でも、お近くの薬局に処方箋をFAXで送り、受け取る院外処方にも対応しています。
―― ヤックルの提供を通じて、どのような課題の解決に取り組んでいるのでしょうか。
布川氏:40代や50代で健康診断に引っかかる人は多いですよね。一方で、人事や保健師から通院を勧められた人の中で、実際に通院する人は半分もいません。生活習慣病は命に関わる病気であるにもかかわらず、初期には自覚症状がありません。そのため通院を始めたとしても、ほとんどが半年や1年で治療を中断してしまうんです。60代や70代になって病状が表面化し、気づいた時にはすでに重症化していることも少なくありません。
牛嶋氏:日本には、糖尿病や高血圧など4つの疾患で治療中の患者が約1500万人います。自覚症状がある場合や、一度診断がついたものの通院していない推定延べ患者の数は約8000万人です。
ヤックル利用者の7割以上は40代と50代の男性です。都市部のビジネスパーソンのニーズが非常に高くなっています。また、離島や山間部、雪国など医療アクセスの難しい地域の高齢者の利用も目立ちます。最高齢は91歳で、ご家族のフォローを受けてご受診いただいております。
―― 企業向けの福利厚生としてもヤックルを提供しています。
牛嶋氏:少子高齢化や人口減少を背景に、国としても健康寿命を延伸しなければGDPが下がっていくと言っているわけですね。従業員の健康状態悪化は、生産性低下や病欠などによる企業損失につながります。採用が難しくなる中で、企業にとっても40代や50代の主要な働き手が健康を維持し、長く働き続けられるようにすることが重要です。
経済産業省は東京証券取引所と連携し、健康経営に優れた企業を「健康経営銘柄」として選定しています。また、経済産業省が支援する日本健康会議は、特に優れた健康経営を実践する法人を「ホワイト500」として認定し、企業の健康経営を後押ししている。株主や取引先からの評価が高まる経済合理性もあることから健康経営にスポットライトが当たり、従業員の健康管理に注力する企業が増えてきているのです。
―― ヤックルを始めようと思ったきっかけは。
布川氏:かつて自分自身が生活習慣病の治療を受けていたんですが、とにかく治療の体験が良くなかったんです。約10年にわたる治療の中で、診察を予約していても長時間待たされるうえに、医師とじっくり話すことができない。そう感じることが度々ありました。診察を終えても薬を受け取るために薬局へ移動しなければいけません。毎月こうして時間が取られるたびに、「この時間を仕事や家族との時間に充てられたら」と思っていました。
また、コロナのタイミングもありオンライン診療が盛り上がっていました。一方でその多くが自由診療で、保険診療はまったく脚光を浴びなかった。しかし、慢性疾患の継続治療をオンライン化することで、医療費の削減や地方と都心部の医療格差の解消に寄与できるはずです。資金や創業メンバーを集め、プロジェクトとして動かし始めたのが2023年ごろです。
保健適用のオンライン利用引き上げへ 安全性と効率性の両立目指す
―― 調達資金の使途について教えてください。
布川氏:今後1年から2年ほどのランウェイの確保を目的に資金調達を実施しました。事業としては継続率の向上が重要で、患者の再診率や満足度向上に向けたUI/UXの改善に取り組む人材の採用を進め、曜日ごとの混雑具合の傾向を可視化するなど、患者にとって使いやすいシステムにするための開発も強化します。
―― 事業の成長戦略について教えてください。
牛嶋氏:日本ではオンラインの自由診療経験率が約40%に達している一方で、保険診療のオンライン利用はわずか2%程度に留まっています。私たちは、まだパラダイムシフトが起きていない市場に挑戦しているのです。
2025年問題を目前に日本の保険医療の役割を適切にオンラインでも担うことは、国民全体の「健康寿命延伸」「医療費削減」などの解決の一助となると考えております。併せて、精密検査や手術といった直接医療の提供できないオンライン診療は、一般病院や特定機能病院との連携の強化も重要です。
現在は広告を中心としたマーケティング戦略を重視しています。各媒体を活用して患者さんとの接点を獲得するほか、企業や検査メーカーや生命保険会社、薬局などとのアライアンスを強化し、双方にシナジーをもたらす連携を推進することで事業の拡大を目指しています。
また、保健医療はお金で差をつけることが難しい市場です。「受診してくれたら1万円プレゼント」といったことができないわけですね。先行者優位が働きやすい。より良いあるべき医療体験を提供することでバイラル(口コミ)によって信頼を獲得し、「生活習慣病のオンライン診療といえばヤックル」と認識されるようなブランドポジションを確立しながら事業規模を拡大していきます。
―― 今後の意気込みをお願いします。
牛嶋氏:現在は主にビジネスパーソンが利用していますが、医療資源が少ないこともあり、地方で暮らす高齢者にとっても有益で社会性の高いサービスです。ビジネスとしてしっかり成立させたうえで新たな価値を生み、人々の医療との距離を縮めたいというのが私が持つ思いです。
布川氏:現在、日本の医療は大きな転換期を迎えています。効率の良い医療が必要な一方で、安全性も考慮しなければいけないのが難しいポイントです。それでも、特定の疾患に特化することで、効率的かつ安全な医療は実現できるはずです。私たちがリードランナーとしてポジションを作りながら、まずは2030年ごろのIPOを目指して一直線に走っていきたいと思います。