転倒問題解決の新たな道筋、世界中の高齢者に安全を届ける

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KEPPLE編集部

高齢者の転倒による骨折を減らす、転んだ時に柔らかい床「ころやわ」を販売する株式会社Magic Shieldsが、第三者割当増資による2.3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回のラウンドでの引受先は、Carbide Ventures、ディープコアの2社。

今回の資金調達により、センサデータを活用した高齢者の転倒骨折問題の解決を目指す。

転んでも柔らかく、転倒骨折のリスクを軽減

「ころやわ」は、医療機関や介護施設内における転倒による骨折リスクを軽減する、転んだときに柔らかい床だ。普段の歩行時は硬く安定し、転倒した時には床が柔らかくなることで、転倒しても怪我をしないことをコンセプトとしている。

ころやわイメージ
2020年8月に販売を開始し、2023年3月時点で累計560施設以上の医療機関や福祉施設で利用されている。

今後は、一般的なフローリングと同じ厚みに減らした「ころやわフロア」の販売や各種「ころやわ」製品へのセンサの取り付けにより、転倒骨折を減らすための取り組みを加速する。

今回の資金調達に際して、代表取締役CEO 下村 明司氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

世界的な社会課題となった高齢者の転倒骨折

―― これまで、高齢者の介護や医療にはどのような課題がありましたか?

下村氏:現在、世界全体で高齢化が進んでいます。病気のリスクが医療や予防により減少する中、高齢者の転倒に関する対策はあまり進んでおらず、転倒骨折リスクは相対的に増加傾向にあり、世界中で社会課題となっています。実際日本でも、2000年以降高齢者の転倒骨折が2倍以上に増え、毎年100万人もの方が転倒骨折しています。高齢者の場合は何かにつまずいたり、すべったりしたことによる転倒以外に、何気なく歩いている中でバランスを崩してしまうことも少なくありません。加齢により反射や筋力、運動能力が衰えている高齢者にとって、転倒は日常に潜む危険なのです。

高齢者の転倒はかなりリスクが高く、骨折による歩行不能や転倒に対する恐怖感により出歩かなくなるなど、寝たきりや認知症、要介護状態になる原因にもなっています。転倒骨折による医療費や介護費も非常に大きく、ご家族の介護負担も合わせれば、日本では毎年2兆円発生しています。近い将来、大腿骨骨折者数だけでも2030年に29万人、2040年には32万人にのぼるとされており、医療費・介護費だけでなくご家族の介護負担もさらなる増加が予想されます。

ころやわイメージ
スポンジマットのような素材は床として利用できません。なぜなら柔らかくて転びやすく、車いすを使えないといった問題があるためです。フローリングは歩行には適していますが、硬いため、転倒した際の衝撃は大きく骨折リスクも高くなります。高齢者の体にスポンジを装着することもできますが、動きにくいため、着用を嫌がり利用は浸透していません。床の開発については、歩行時は硬く、転んだときは柔らかいものを実現する技術はこれまでありませんでした。

スタートアップスカウト

―― 創業のきっかけを教えてください。

大学ではロボットの研究に取り組んでいました。元々ものづくりが好きで、新卒でヤマハ発動機に入社し、レース向けのバイク開発に携わっていました。実際に自分自身がライダーとしてレースに参加することもありました。レース時は転倒も多いため、うまく車体をつぶして衝撃緩和する技術が重要なのですが、ころやわにはこうした技術が活かされています。

レースではどうしても事故が起きてしまいます。そうした状況を目の当たりにする中で人々を守る発明がしたいと思い、プライベートな時間を利用し、風の勢いで雨粒を全て吹き飛ばすバイクなど、さまざまなものを作っていました。続けるうちに、きちんとお金が回るようなビジネスにしなければ、世界中の人を守ることはできないと考え、グロービス経営大学院のMBAプログラムに通いながらビジネスを学びました。

大学院に通う中で、理学療法士で共同創業者の杉浦にも出会いました。彼は病院でリハビリテーション医療に従事する傍ら、病院経営や医療経済まで含めて見直さなければ、社会にとってより良い医療を提供できないという思いでMBAに参加しており、よく二人で高齢者の転倒に関してディスカッションをしていました。その後実際に事業化するタイミングで、世界中の人を守る魔法の盾をたくさん作りたいという思いから、Magic Shieldsという会社名で創業しました。

ノウハウを活かして高齢者の安全な生活を実現

―― 資金調達の背景や使途について教えてください。

これまで560以上の医療施設や介護施設へ「ころやわ」を提供し、抱えている課題も今まで以上に明確になってきました。また、開発を続ける中で、従来の「ころやわ」よりも厚みを抑えることにより、量産可能な素材開発にも成功しています。さらなる開発や顧客への提案を進めるために資金調達を行いました。現在18名ほどの組織ですが、開発や製造の人員を中心に採用を進め、今後25名程度の規模にまで拡大します。

―― 今後の展望を教えてください。

短期的には、厚みを抑えた新素材を、より多くの病院や施設で使っていただきます。加えてこの1年で、センササービスの実用化も進めます。転倒の多くが、誰も見ていないところで発生するといわれています。センサを活用することで、どこを強く打っているか、救急車を呼ぶべきなのかなど、必要な情報が得られるような仕組みを整えていきます。

高齢者の転倒骨折は世界共通の社会課題で、すでに日本以外の国からの引き合いもいただいています。現在、欧米の先進国を中心に、アメリカの大学病院などの医療施設で「ころやわ」の試験導入ができるよう準備を進めています。

高齢者の介護施設において、転倒に関連するさまざまな費用が発生しています。高齢者が転ばないように支えるための離床センサや、転倒後の事後処理、骨折して入院した際には、施設に毎月支払われる収益がなくなってしまうことなどです。場合によっては訴訟に発展するケースもあります。サブスクリプションサービスのような形で、施設向けにセンササービスなどを提供し、転倒にかかわる心配事を軽減、収益の改善に役立てていただくようなサービスの展開も考えています。転倒骨折に関するデータを収集し、自動車産業で培った衝撃緩和の技術も活かしながら高齢者課題に対して向き合うことで、世界の社会課題を日本から解決していきたいと思います。

株式会社Magic Shields

株式会社Magic Shieldsは、転倒時に凹んで衝撃を吸収する床材『ころやわ』などの製品を製造・販売する企業。 同社は、高齢者の転倒の際の大腿骨(だいたいこつ)骨折を防ぐために、通常時には硬く、転倒時には凹んで衝撃を吸収する床材『ころやわ』を開発・製造・販売する。同製品は、車いすやベッドなど重量のあるものを載せても沈まず、医療や福祉施設での導入実績を持つ。広いスペース向け組み立て式の『どこでも ころやわ』と、部分的な設置向け『おくだけ ころやわ』の2種類がある。

代表者名下村明司
設立日2019年11月22日
住所静岡県浜松市中区鍛冶町100-1ザザシティ浜松中央館B1F、FUSE
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