介護の新基準、24時間対応の在宅介護サービス普及で変える老後ケア

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KEPPLE編集部

在宅介護領域のサービス開発・提供を行うスリーエス株式会社がシリーズAラウンドにて、第三者割当増資による3.3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回のラウンドでの引受先はマネーフォワードベンチャーパートナーズ、ニッセイ・キャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、ANRI、ANOBAKAの5社。

今回の資金調達により、プロダクトの新たな機能開発と定期巡回サービスの事業所拡大を目指す。

効率的な定期巡回サービスの提供を支援

スリーエスは、在宅介護の一種である定期巡回サービスを提供している。一度の滞在時間は15分程度で、一日に複数回訪問して食事や服薬、排泄などの身体介護を中心にサービス提供する形だ。

訪問介護と異なり、夜間や緊急時を含めて24時間対応する。夜間・緊急時の対応ができないことへの不安から、施設系サービスの利用が増える中、高齢者の在宅介護ニーズに応えるサービスとなっている。現在は、東京都の板橋区と江東区に事業所を設置してサービス提供している。

多くの業界で人手不足が叫ばれる中、定期巡回の事業者には、訪問ニーズを見極めて利用者への支援を最適化することが求められる。スリーエスは自社開発のシステムを活用し、訪問スケジュールの最適化や記録業務を削減することで利益率を高めている。

2023年10月には、同社の効率的な定期巡回サービスの提供を支えるシステムを「PORTALL」として提供開始した。スマートフォンにインストールすることで、訪問記録や連絡などの情報を集約し、職員や家族、ケアマネジャー間の情報格差を解消する。

サービスイメージ
蓄積したデータをもとに巡回プラン策定を効率化することで、職員が利用者と向き合う時間を創出するほか、職員の働きやすさ向上に貢献する。

今回の資金調達に際して、代表取締役CEO 千田 桂太郎氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

夜間・緊急時も利用できる在宅介護サービス

―― 在宅介護の現状や課題について教えてください。

千田氏:高齢化が進む中、自宅で最期を迎えたい高齢者は7割を超えます。一方で、介護度が高くなるほど在宅介護サービスの利用比率は減少し、施設系サービスの利用が増加しています。 要介護5の人が受ける介護サービスのうち、在宅系のサービスが占める割合は約26%と、ニーズに対してギャップの大きい現状は課題です。

エンドユーザーの課題
高齢者の立場に立つと、施設での生活は夜間や緊急時のサポートが充実している反面、自分の生活リズムで過ごしにくいことがあります。訪問介護は自宅で介護を受けることができますが、夜間や緊急時の対応ができないため、結果的には、より安心できる施設での介護を選択する傾向にあります。

在宅介護の一種である定期巡回は、夜間も含めた24時間訪問と緊急時の訪問が可能です。高齢者の課題を解決するポテンシャルが高いにも関わらず、定期巡回サービスの提供は介護保険総費用のうち0.7%のみに留まっています。定期巡回の事業所も約1100と少なく、今後さらに増やしていく必要があります。

―― 定期巡回サービスの普及はなぜ進んでいないのでしょうか?

一般的な施設、通常の訪問介護やデイサービスなどは、介護法人にとっては成長市場で、馴染みのあるこれらの3事業を中心に成長戦略を描いていたという背景があります。また、ただでさえ人手が足りない中で、夜間や緊急時に対応可能な体制を構築し、定期巡回サービスを運営することが困難であると考えられている点は、事業所が少ない要因の一つです。

さらに、事業所の数が少ないことで、要介護者やその家族が定期巡回について知らないこともあります。なぜなら、ケアプランを作成して介護サービスを紹介するケアマネジャーへの浸透も不十分で、これまでに利用経験がなかったり、利用したくても近くに事業所がないことから、定期巡回の紹介がされないことも珍しくなかったためです。

スタートアップスカウト

―― 創業のきっかけについて教えてください。

医療IT企業のエムスリーに新卒で入社し、その後東北復興を支援するNPOで活動をしていました。起業への関心はもともとありましたが、さまざまな考えに触れる過程で、高齢化に関する課題をテーマとして解決に貢献したいと考えたことが、創業の大きなきっかけです。現場を回るうちに介護業界が構造的に抱えている課題を実感し、介護領域での事業展開を決断しました。

当初は、質の高いケアを提供したい施設と介護職員とのミスマッチをなくすため、採用支援を行っていました。また、介護保険外の訪問介護事業を展開していたこともあります。これらの事業をきっかけに、定期巡回を行う企業や職員の話を聞く機会に恵まれ、多くの人の課題を解決できるのではとの思いから定期巡回サービスを始めました。

高齢者のあらゆる課題解決に取り組む

―― 資金調達の背景や使途について教えてください。

プロダクト開発の強化や事業所の拡大が主な目的です。PORTALLはこれまで、主に単一の事業所を運営する企業向けの機能開発を行っていました。今後は、複数の事業所を管理する法人に対しても価値提供したいと考えています。経営分析やケアマネジャー向けの営業支援機能など、より事業者の売上増加に貢献するような機能の開発を予定しています。

またこれから2年以内には10事業所程度の新設を予定しており、それに伴って100名程度の介護職採用を計画しています。

―― 今後の長期的な展望を教えてください。

日本の介護業界では、定期巡回サービスの普及が十分ではありません。定期巡回サービスに参入する企業が多くない段階では、当社自身が成功事例を示していくことが重要だと考えています。まずは板橋区と江東区を中心に事業所を拡大し、2028年には約80事業所の展開を計画しています。

その上で、全ての高齢者が、すべての地域で「在宅生活」という選択肢を選べるようになるためには、これから10年で、約1000社ほどしかない定期巡回事業者を4000社程度まで増やす必要があると考えています。

そのために当社の介護サービスを広げるとともに、多くの介護法人がこの領域に参入してきた際には、PORTALLの提供に加えて、プロダクト単体での支援が難しい部分はBPO等も提供しながら支援します。これらの取り組みにより、多くの地域をカバーできるようになるはずです。

また、高齢者が抱える課題は介護領域だけではありません。当社が目指しているのは、高齢者の生活の中で感じる、多くの負を解消する会社になることです。将来的には、顧客基盤やデータを活かして、例えば介護の後に来る終活や相続など、今後はライフエンディング領域での事業展開を考えています。高齢者や、そこに付随するさまざまな課題を解決していきたいと思います。

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