ユニコーン企業を多数生み出すアメリカや中国に対して、日本はその数で大きく水を開けられている。スタートアップの成長なくしては、世界の上位国と肩を並べられない。この状況を打開する切り札となりそうなのが、デジタル証券による資金調達、STO(セキュリティ・トークン・オファリング)だ。
デジタル証券の発行・ライフサイクル管理プラットフォームを提供するSecuritize Japan株式会社のテックコンサルタント、大久保潤氏が全3回に渡り日米の資本市場の違いや日本の課題を解決するアイデアについて解説する。
前編・中編では、日本発のユニコーン企業の少なさについて、プライベート資本市場(Private Capital Markets、以下PCM)の状況から考えたアメリカとの比較検証や、セキュリティ・トークンで市場を活性化させるアメリカの事例を紐解いた。
最終回となる後編では、日本におけるセキュリティ・トークンの事例から、ユニコーン企業輩出への手がかりを考える。
日本におけるSTOの状況
大久保氏:前回事例をご紹介したアメリカほどではありませんが、日本においても、ST/STOの導入は進みつつあります。
【丸井グループの社債自己募集の例】
スタートアップの資金調達の例ではありませんが、2022年6月に丸井グループが、Securitizeのプラットフォームを活用して、公募自己募集型デジタル債にて、資金調達を行いました。(参考情報はこちら)
本調達のポイントは以下です。
・デジタル債(ST化した社債)の自己募集であり、丸井グループが直接自社顧客であるエポスカード会員向けに社債を販売した
・事業会社が、公募で社債を自己募集するのは日本初であり、これをSTの技術を使い実現した
・発行体による投資家の直接アクセス:投資家に直接アクセスし勧誘・販売・管理することで、資金調達と顧客エンゲージメントをかけあわせることを可能とした
・金銭以外での利払い:本募集ではエポスカード会員を対象にしており、リターンの一部をエポスポイントで付与する設計とした
・小口化により幅広い投資家にアクセス:デジタル債の利用により、従来小口化にまつわるコストの課題を乗り越え、本募集では申し込み金額を、従来の社債や株式に比べてアクセスしやすい金額(1万円)に設定した
日本から多くのユニコーン企業を輩出するためには
では、上記の丸井グループの例のような形で日本のスタートアップが株式で資金調達できる環境が整っているかというと、諸外国に比較して特に規制面において整っていない状況です。
日本からユニコーン企業を輩出するためにも、日本のPCMについての規制改革によりスタートアップが資金調達をしやすい環境を作るべき(一方で同時に、発行体側には、調達金額や利用規制に応じたディスクロージャーを義務付け、しっかりと中身があり有望なスタートアップに資金が集まる状況を作る)かと考えています。その上で、STOの導入を促し、PCMにおけるデジタル完結した、効率的な資金調達・二次取引が可能な環境を創出することで、日本におけるPCMは活性化され、日本経済の現況を打開する一つのきっかけになると考えています。
一例ですが、以下のような施策を打つことで、日本のPCMはもっと盛り上がっていくのではないでしょうか※。
・日本版Regulation A+の創出
募集上限を100億円(米国のRegulation A+の7500万ドルを参考に)とする登録免除規制の創出。一方で発行体には、現在の株式型クラウドファンディングよりもしっかりとしたディスクロジャーを義務付ける。
・日本版PCMプライマリマーケットプレイスの創出
PCMで募集中の案件を集めたマーケットプレイス。第一種金融商品取引業のライセンスで運営を可能とする。
・日本版PCMセカンダリマーケットプレイスの創出
PCMの投資家間取引を可能とするマーケットプレイス。プライマリ投資家は必要に応じてセカンダリマーケットプレイスにてSTを売却することが可能となり、プライマリ市場での次の投資にもつながる。流動性の低い未上場株式の取引実態を踏まえ、上場株式のPTS規制の範疇には含めない。
・上記マーケットプレイスの創出においては、STの技術を取り入れる。投資家保護および市場の公正性、コンプライアンスルールを低コストで担保し、効率的で競争力のある市場とする
※ 下記資料を参考。
「未上場株式市場」の発展による企業主体の資本調達(エクイティ・ファイナンス)の促進ー日本の成長企業の投資加速・個人資産の拡大と経済成長ー 2022年5月10日 経済産業研究所 田所創
つまり、規制改革とST導入の両輪で、効率的に資本を最適に配分することが肝だと考えています。我々SecuritizeもSTの導入促進を始めとし、さまざまな観点から、ユニコーン企業の輩出と日本経済の活性化に向けて貢献していきます。
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