newmo株式会社

2025年5月21日から23日、札幌で開催された「B Dash Camp 2025 Spring in Sapporo」。スタートアップ業界のキープレイヤーが全国から集まるこの招待制カンファレンスは、今回も活気に満ちていた。中でも議論が白熱したセッションが、「スタートアップ新時代の幕開け〜証券市場で今後求められるスタートアップ像と事業成長とは」だ。
このセッションでは、newmo CEOの青柳直樹氏、東京証券取引所 代表取締役社長の岩永守幸氏、セーフィー 代表取締役社長CEOの佐渡島隆平氏が登壇。モデレーターは、B Dash Ventures代表の渡辺洋行氏が務めた。各氏がスタートアップの今後の上場環境の変化にどう適応し、持続的な成長を実現するかについて活発な意見交換が行われた。本記事ではその様子をお届けする。
IPO市場の変化と新たな挑戦
渡辺氏:IPO市場のあり方が大きく変わると確信しており、それに伴ってM&Aや資金調達、起業の在り方も変わっていくはずだと考えています。この変化を「New Beginning」と捉え、キャピタリストとしても、こうした新しい流れにふさわしい良い会社を作っていきたいと思っています。改めて、今回のグロース市場見直しの背景など含めてお願いします。
岩永氏:東証(東京証券取引所)は長年、投資家と上場会社を巡って競ってきた大証(大阪取引所)と、2013年に一緒になりました。少し時間がかかりましたけれど、2022年にガラッと市場の区分見直しをいたしました。現物は東証、先物は大証でそれぞれ寄せました。その上で東証には従来1部、2部、マザーズがありましたけれど、プライム、スタンダード、グロースの三つに大別をいたしました。
今日、皆さんがご関心のグロース市場についてですけれど、日本では、以前からスタートアップ企業の成長の過程において、レイターステージでの資金供給差は多くない、諸外国に比べるとレイターステージでのファンドレイジングが難しいという声を頂戴していて、我々にとっても課題であると思っておりました。証券取引所における上場がエグジットの一つとして非常に重宝されておりました。データで見ますと、スタートアップ企業のエグジットの方法で、日本では8割がIPOです。2割弱ぐらいがM&Aです。
一方でアメリカでは、IPOが10%ぐらいです。 もう9割近くがM&Aです。株式市場がスタートアップに対して提供する機能については、非常に大きな政策の差があるということでございました。統合前から東証ではマザーズ、大証ではヘラクレスあるいはJASDAQというふうに言ってましたけれども、スタートアップ企業の上場基準はレイターステージの代わりにもなるように、引き下げてきたという経緯があります。できるだけ上場しやすくするということもありました。
そういう状況で、日本政府の方でも日本経済の成長をもう一度という思いで、スタートアップ5ヶ年計画というものを2022年に作っていただいております。その旗振りもございまして、区分の見直しに係るフォローアップ会議というものを設置をいたしました。メインは、PBR改革と言われる、プライムやスタンダードの会社に株価を意識した経営をやっていただくことがメインだったんですけれども、加えてグロース市場の機能を十全に発揮できるように、どういったことが必要なのかという議論をしていただいております。
グロース市場の現状と課題
岩永氏:そのグロース市場の現状についてですが、左側は毎年のIPOの件数です。大体100件前後で推移しています。右側の縦軸がグロースに上場した際の資金調達額、横軸が上場したときの時価総額です。黄色く帯をかけた部分が、時価総額が100億未満かつ調達額が10億円未満の会社のエリアですけれども、現在も、そしてかつてのマザーズの時代も、大体5割から6割ぐらいの大半を占めていたという状況です。
つまり日本では、規模の小さい企業の上場が多くを占めるということです。さらに申し上げますと、資金調達と同時に売り出しを行うパターンが多いと思いますが、資金調達の額よりも売り出しの方が大きいというIPOが、実は全体の6割以上あります。特にその傾向は最近増えております。 客観的に見ると、売り出しが主目的なのではないかというふうに思いたくなるような小さいIPOが多いというのが現状でございます。
今度は上場した後の状況についてですが、今グロースに上場していただいてる会社の時価総額による分布をお示しをしたものです。時価総額が現在40億円を下回っているという会社の割合が37%、40億は超えてるけど100億には至っていないという割合が35%、両方足して100億未満の割合が全体の7割を占めているというのが現状です。
下の段は、上場後の成長率を時価総額の増加率で見たものです。 2004年以降の上場会社は800社以上ありますけれども、中央値で見ると、1.11倍になります。新規上場をしたときに比べると時価総額が10倍以上になってる会社も5%以上ありますが、基本的にはそれほど大きく成長している会社の数は少ないということです。 小さく上場したのは良いけれど、そのままの規模であることが多い現状です。こうした会社の取引をしていただいている売買の主体は大体6割が個人投資家です。 逆に言うと、それらの会社は機関投資家の投資対象にならず、機関投資家が参加できていないのが実態です。
機関投資家の期待と投資基準の重要性
岩永氏:次のスライドは機関投資家の投資基準・大きさについて、どれくらいの金額以上が彼らの投資対象になるかということを示したものです。中小型株ファンドの投資対象について、社数ベースで見ると84%、ファンドの金額ベースで見ると97%が100億円以上じゃないと投資に値しないと、見ているんだということをこのグラフが示しています。
次のグラフは、IPOした会社が100億を超えるまでにどれぐらいの時間を要していたかという時間軸を示したものです。上場した時に100億を超えなかった会社は全体で7割ありますが、そのうちの同じく7割が、実は一時的なものも含めると100億を超えています。それらの企業のうち8割が、上場後1年以内に100億を一時的に超えており、その期間を5年に引き延ばすと9割以上が100億の水準をクリアしています。 つまり、上場後に成長する会社は、長い時間をかけてじっくりと成長していくというよりも、比較的短期間のうちに成長しているということがおわかりいただけるかと思います。
100億円の上場維持基準と企業成長の関係
岩永氏:そういう背景を踏まえまして、先月、フォローアップ会議に示した提案がこのシートに書かれております。私達としてはできるだけ早く、機関投資家の投資対象になるような規模に大きくなってほしいと思っておりますので、それに繋がるような環境整備や基準設定をしたいと考えています。市場では5年後100億という数字ばかり一人歩きしている気がしますが、私達は三つのパッケージで取り組みを行っていきたいと思っています。
一番左側の一つ目ですが、こちらは上場した後にしっかりと成長するような環境整備をする目的で、私たち取引所だけではなくて、引受証券会社、監査法人やVCなど様々な方々とまず認識を共有することを行い、その上で、これからIPOをする経営者に対して、業界一体となって働きかけをしていこうというのがこの取り組みです。
二番目、真ん中が上場していただいた会社に対する働きかけです。上場する時には、上場計画書、成長計画書を出していただいてますが、これを改めて、上場してから今に至るまでの成長の軌跡を分析をしていただいて、今後の成長目標やそれに向けた施策をアップデートして開示をしていただこうと思います。
特に機関投資家に対しても、各社がお持ちの自信を強くアピールしていただきたいと思っています。そのうえで、機関投資家の投資対象となるような規模になるための準備、あるいはそれを促すような上場基準を設定したいということです。
掲載企業