海外投資家には短期利益ではなく市場ポテンシャルを示せ──ログラス 伊藤 駿 氏

海外投資家には短期利益ではなく市場ポテンシャルを示せ──ログラス 伊藤 駿 氏

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KEPPLE編集部
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スタートアップの動向を理解するうえで欠かせない要素である資金調達。2024年のスタートアップによる資金調達総額は8097億円(※プレスリリース情報に基づく速報値)で前年比15.5%増となり、対前年で落ち込んだ2023年から回復し、2022年比でも増加した。

2024年を反映するトレンドの一つに、国内スタートアップによる海外投資家からの大型資金調達がある。また、海外投資家から資金を調達した上位10案件の内(国内投資家も含まれる)、5件がSaaS関連企業だった。

クラウド経営管理システムを手がけるログラスは、2024年7月にシリーズBラウンドで70億円の資金調達実施を発表。

Sequoia HeritageとALL STAR SAAS FUNDを共同リード投資家とし、米マサチューセッツ工科大学の資産運用会社であるMITIMCo、米国VCのMoore Strategic Venturesといった海外投資家、および複数の国内投資家が参加した。本ラウンドは、同社にとって初の海外投資家からの資金調達となった。

海外投資家からを含む資金調達上位企業の表
2024年の海外投資家を含む資金調達上位10社のうち、5社がSaaS企業となった(ケップル調べ)

資金調達などのスタートアップの動向について、株式会社ケップルは調査レポート「従業員数から読み解く国内スタートアップの現在地 2024」を発行。レポート内では、海外投資家からの資金調達を実施した企業のCFOへのインタビューを実施した。

その中から今回は、ログラスでCFOを務める伊藤 駿氏に「ミドルステージにおける海外投資家からの資金調達」について聞いた内容を紹介する。

事業を伸ばしているトラックレコード
これから伸びていく理由を数値で説明できる

1. 資金調達に向けて

——海外投資家からの資金調達を意識した理由、経緯を教えてください。

伊藤氏:会社としては1年程前から今回の調達に向けて検討を始めていました。長期的な事業計画を考えた時に、50〜60億円の調達が必要という認識がある中、国内投資家だけでは調達しきれない。少なくとも海外投資家にリードしてもらう必要があり、グローバルで調達できるCFOの募集がかかりました。そうした経緯で私が入社したのが、2023年12月です。

——今回が初めての海外投資家からの調達ですが、最初はどのように接点を持つのでしょうか?

今回の調達に入っている海外投資家は全部で3社(Sequoia Heritage、MITIMCo、Moore Strategic Ventures)ですが、Sequoia Heritageは、既存投資家のALL STAR SAAS FUNDからの紹介です。1年程前になりますが、この時は積極的に探しているというよりは出会いがあれば繋がりましょう、といったフェーズでした。残りの2社は2024年4月ごろで、こちらもALL STAR SAAS FUNDの繋がりです。その他にも、全部で10〜15社程度の海外投資家とコンタクトを取りました。最初は日本人の方が在籍されている海外ファンドや日本に投資実績のあるVCを重点的に当たりました。

2. 海外投資家について

——コンタクトしてみて、海外投資家の反応はいかがでしたか?

日本に投資したい海外投資家が増えていると感じました。特に、日本に拠点がない、日本語スピーカーがいない投資家が関心を寄せていることです。これは、日本のスタートアップエコシステムが成長してきている認識が広まっているからだと考えています。最近では、大手企業で活躍した人がスタートアップに転職したり、難関大学出身者が新卒でスタートアップに入社した話もよく聞きます。また、政府の補助金などもあり、日本のスタートアップが環境として良い状態になってきている認識がベースにあるように思います。

その上で、米中関係などの問題で米ファンドは中国への投資が難しく、米国ではSaaS業界自体が伸び悩んでいる。そういった中で、日本は景気も悪くないし、スタートアップも底上げされている印象がある。今投資するなら日本じゃないか、伸びしろがあるんじゃないか、と考えているのではないでしょうか。また、今は国内外問わず投資家のお金が余っていて、良い会社にお金が集まっている状態です。我々も結果的にその仲間に入れたと考えています。

——海外投資家からの資金調達を実施できた要因は何だと考えていますか?

クラウド型の経営管理システムは、海外の方が投資しやすいカテゴリーだと考え、それを意識した打ち出し方を行ってきました。マーケットが大きいので、よくProven Market(証明された市場)と言われますが、欧米では毎年100億円以上調達しているスタートアップがある成長市場です。日本は先進国で、上場企業のガバナンス改革など、経営管理システムが今後絶対に必須になる。そのトッププレイヤーが当社との認識を持ってもらえました。欧米ですでに成功しているビジネスモデルかつ成長市場という点で分かりやすかったのだと思います。

——評価額はどの程度から海外投資家の投資対象に入ってきますか?

海外投資家の最低の投資金額は500万ドル(約7.5億円)で、国内投資家からすると大型投資の分類に入ります。最低5,000万ドル(約75億円)という海外投資家もいますが、実際には10億円〜30億円程度が好まれています。そうすると評価額で3桁億円はないと、海外投資家には小さ過ぎます。

——海外投資家と国内投資家の違いはありますか?

国内と海外で大きな差は感じませんでした。調達金額が大きいため海外投資家を入れる必要があったのですが、海外投資家かどうかよりも、我々が重視していたのは、上場後も保有できる投資家かという点です。今回の海外3社はいずれも上場後も株を保有できます。彼らは、細かい数字やIPOまでにどうするかよりは、10年後、15年後の市場が十分に大きいのか、経営陣の能力は高いのか、などを重点的に確認していました。

——海外投資家から資金調達を行うメリット、デメリットは何でしょうか?

今回Sequoia Heritageのような、世界を代表する投資家から調達できたことで、他の投資家から、投資する価値のある会社と思っていただけるようになったことが最大のメリットです。実際にこれまで接点のなかった海外の投資家から連絡が来ています。また、経営的な部分できちんとウォッチしてもらえる点も期待しています。

デメリットで言うと、契約書の翻訳や時差のある中でのやりとりに苦労しました。日本語の契約書を正としたので、時間が厳しいなかで英訳を手配したり、海外送金も労力を要しました。また、Moore Strategic Venturesはイギリスに投資検討チームがあり、Sequoia Heritageはアメリカ西海岸、MITIMCoは東海岸なので、24時間ずっとやり取りしている状況は大変でした。

——海外投資家が国内スタートアップに期待していることは何だと思いますか?

日本には伸びしろがあるので、その市場で事業を成長させることです。海外展開をしてほしい、という投資家もいましたが、今回の海外3社は、日本のマーケットは十分大きいから国内で成長すればよい、というスタンスでした。

3. 今後について

——海外投資家からの資金調達を計画しているスタートアップへアドバイスをお願いします。

国内投資家でも同じことですが、事業を伸ばしているトラックレコード、これから伸びていく理由を数値で説明できることが重要です。一方で海外投資家から調達することが必ずしも良いとは言えません。マクロ環境の変化で一斉に手を引くリスクもあります。事業を成長させるための戦略を考え、あくまで手段として、国内、海外投資家の両方を見ていく必要があります。その上で、海外投資家からの資金調達が必要となった場合は、経験のあるスタートアップに話を聞いたり、既存の国内投資家の方々としっかり話していくことが重要です。また、海外投資家にネットワークのある国内投資家と繋がっておくと強いです。実際、我々もALL STAR SAAS FUNDからの紹介が大きかったです。

——御社の今後の展望を聞かせてください。

「良い景気を作ろう。」というミッションをもとに、事業を大きく、利益を出し、サステナブルな経営をしていきたいと考えています。IPOも目標ではなく、手段だと考えています。資金調達でも海外か国内かはあくまで手段です。状況に合った資本政策に柔軟にフォーカスしていきたいと思います。

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