株式会社日本XRセンター

Potlatch, inc(本社:米国カリフォルニア州、CEO:小林大河、日本支社:株式会社日本XRセンター)は、現実空間とデジタル体験を融合させた「XRアトラクション」の開発・運営を手がけるスタートアップだ。
2025年8月には中野ブロードウェイに直営店をオープン予定で、XRゾンビシューティングアトラクション「Zombie Storm」を中心とした新しいエンターテインメント体験を提供する。
同社は6月、XTech Venturesをリード投資家として、ユナイテッド社、複数のエンジェル投資家より、約1.1億円のシリーズA資金調達を実施。これまでの累計調達額は約2.4億円に達した。
日本・インド・サンフランシスコの3拠点でグローバルにXRコンテンツを開発するPotlatchが描く、今後のXRの展望とは。代表取締役の小林大河氏に話を伺った。
現実と仮想をつなぐ“ロケーションXR”という挑戦
──事業概要を教えてください。
小林氏:私たちが提供しているのは、「XRアトラクション」と呼ばれる、これまでにない没入型のエンターテインメントです。従来のVRとは違い、現実の風景をそのまま見ながら、そこに3Dキャラクターが現れる。不思議でワクワクするような体験を届けています。
たとえば、東京ドームシティで展開中の常設XRアトラクションでは、Meta社製の最新デバイス「Quest 3」を装着して体験がスタートします。ただその場で映像を見るだけではなく、実際に自分の足で現実空間を歩きながら進行していくのが特徴です。
プレイヤーは現実のゲートを通過することで、まるで次元を超えるように仮想世界へ入り込み、物語の中へと没入していきます。そして体験のクライマックスを迎えると、再び現実の世界へ戻ってくる——そんな流れになっています。

この構成自体、世界的にも類例が少なく、完全に新しい体験価値を生み出そうとする試みといえます。実際、アジア最大級のXRカンファレンス「AWE Asia」では、最優秀賞をいただくことができました。
その背景にあるのが、当社が強みとする「現実世界が見えるMR(複合現実)技術」です。これは、従来のように全てが仮想になるVRとは異なり、現実の景色をそのまま見ながらバーチャル要素が重なって表示されるというもの。空間そのものの広がりを感じながら没入できるこの体験は、当社ならではの技術といえるでしょう。
ロケーション型XRに特化している点も、私たちの大きな特徴です。VR業界では以前から「鶏が先か卵が先か」のような課題がありました。家庭用VRは機材が高額で、設置や設定にも手間がかかるため、誰もが手軽に楽しめる環境とはいえません。その結果、ユーザーが増えず、コンテンツ投資も進まないという悪循環が生まれていました。
その点、ロケーション型であれば、高価な機材を個人で買わずとも、高品質な体験が誰でも気軽に楽しめます。欧米ではすでに広く普及しており、日本でもようやく市場の立ち上がりを感じ始めているところです。
──海外でもロケーション型XRの動きが活発な印象です。
海外の事例で特に注目されているのが、アメリカの「Sandbox VR」です。同社はアンドリーセン・ホロウィッツなどから累計170億円以上を調達し、世界60カ所で年間45億円もの売上を記録しています。20分で約9000円という高価格帯にもかかわらず、高い人気を維持しているのは驚異的です。
目を引くのは、その成長スピード。2016年の創業以来9年で60店舗を展開し、さらに今後3年で280店舗を追加する計画を掲げています。年間100店舗というハイペースな出店からも、ロケーションXR市場がコロナ禍を経て本格的な拡大期に入ったことが示されています。
ただし、Sandbox VRの技術は優れているものの、赤外線カメラを多数設置するなど、1部屋あたり数千万円かかる設備投資が必要です。日本の価格帯には適していません。
そこで私たちは、20分2000円から2500円という日本市場に合わせた価格帯を維持しつつ、MR技術を活用して、Sandbox VRでは提供できない新しい体験を提供しています。これが、私たちの差別化ポイントです。
──エンタメだけではなく、VRトレーニング事業も行っていますね。
VR研修といった形で、大企業を中心に提案しています。
たとえば、JALさんのグランドハンドリング業務。これは航空機が空港に到着してから出発するまでの間に行われる地上支援作業全般で、とても重要な業務なんですが、かなりの肉体労働で人手不足も深刻です。しかも飛行機は昼間に運航するため、研修は夜間に行うしかない。でも、働き方改革の影響で夜勤の研修が難しくなってきています。
そこでVRの出番です。時間や場所に縛られず、いつでもどこでもトレーニングできる仕組みがあれば、こうした現場の課題を解決できます。実際、ヨーロッパではルフトハンザやアシアナ、KLMといった航空会社がすでにVRトレーニングを導入していて、私たちはそうした海外事例をもとに、JALさんにフィットしたソリューションを提案しています。
トレーニング事業は大企業が中心となるので、レベニューシェア型でも、従来のライセンス販売型でも、お客様の体制に合わせて柔軟に提案できるのが強みです。最近では、VRデバイスだけにとどまらず、工場や空港を3Dで再現する「デジタルツイン」の技術にも取り組んでいて、よりリアルに近い仮想環境でのトレーニングが可能になっています。
また、コスト面での優位性も大きなポイントです。VRトレーニング事業では、従来500万円以上かかっていた制作費を、当社では約5分の1で抑えられます。機体の型式ごとに異なる訓練が求められる航空業界などでは、スケーラブルに対応できるこの技術が、非常に現実的かつ有効です。
事業はエンタメとトレーニングの2軸で行っていますが、売上ベースの事業規模としてはエンタメ事業の方が大きくなっています。今後も直営店舗の売上が寄与してくれば、来年はエンタメ7割・トレーニング3割程度の売上になっていくと見込んでいますね。
現地での壁と、日本企業との出会いが導いたXRへの道
──創業の経緯を教えてください。
シリコンバレーでの挑戦が、創業の原点になっています。前職ではM&Aアドバイザーとしてさまざまな業界に関わる中で、企業成長のダイナミズムを肌で感じましたが、自らも世界に通用するようなスケールの事業を立ち上げたいという思いが募っていきました。

その思いを胸に2020年にアメリカへ渡り、大学院でコンピューターサイエンスを学びながら、ゼロからプロダクト開発に挑戦しました。最初はBtoC向けのサービスを模索していたのですが、うまくいかず。転機となったのは、移民起業家たちの成功パターンを知ったことです。彼らがまず自国のコミュニティを起点に事業を構築している姿にヒントを得て、私自身も「日本企業を起点にしよう」と発想を転換しました。
その後、現地のインキュベーション拠点などで多くの日本企業と出会う機会に恵まれ、それがJAL様や東京ドーム様との取引にもつながっていきました。こうして現在の事業の原型が徐々に出来上がっていったのです。
――開発体制にも特徴がありますね。
チームは、日本人とインド人のミックスです。インドのチェンナイに6人のフルタイムメンバーと10人ほどのパートタイムメンバーがいて、社内のSlackは全て英語で運営しています。
弊社のNo.2はインド人で、彼は2016年からインドでVRアトラクションとVRトレーニングを手がけていた会社のCOOでした。コロナでその会社が潰れた際に、タイミング良く当社の立ち上げに参加してくれたのです。日本側には10年以上XR業界にいるクリエイティブディレクターがいて、彼がクリエイティブを統括し、インドチームが開発を担当するという体制をとっています。
アメリカ創業であるために、国籍や地域に縛られず、本当に優秀な人材を世界中から採用することができるという点が、非常に大きな強みになっています。
異業種と手を取り、XRを「場所」から広げる、Potlatchの共創モデル
──今後の資金調達について、どのような投資家との連携を考えていますか。
資金調達にあたっては、まず何よりも「XRという領域に対する深い理解と熱意を持っているかどうか」を重視しています。今回リード出資いただいたXTech Venturesのご担当者様は、まさにそうした方でした。東京ドームシティのXRアトラクションをご体験いただき、体験としての面白さだけでなく、この市場が持つ将来性にも共感していただけたことが大きかったと思っています。私たちが取り組んでいるのはまだ新しい領域だからこそ、未来を信じて伴走してくれるかどうかが重要になってくるはずです。
今後の調達においても、こうしたXRに対する理解と長期的な視点を持った投資家との連携は前提としたいですね。そのうえで、CVCとの協業を特に重視しています。当社は単に資金を集めるのではなく、事業を一緒に広げていけるパートナーを求めているためです。
たとえば、不動産や商業施設の分野での連携は非常に重要です。現在、XRアトラクションのモール出店を加速していくフェーズに入っており、集客力のある施設とのパートナーシップは、私たちの成長にとって欠かせません。そういった意味でも、事業シナジーが期待できるCVCと一緒に取り組むことで、よりスピード感のある展開が可能になると考えています。
──今後の展開について教えてください。
まずは、2025年8月にオープン予定の中野ブロードウェイ新拠点に全力を注いでいます。ここで現在のビジネスモデルをしっかりと体現し、説得力のある成功事例をつくることが、最初の大きなマイルストーンです。この拠点で成果を出せれば、全国100拠点規模の展開にも弾みがつくはずです。

また、アニメや漫画といった人気IPとのコラボレーションも並行して進行中です。私たちは、コンテンツ制作とロケーション運営の両方を担える体制が整っているため、IPホルダーにとっても魅力あるパートナーになれると考えています。東京ドームシティで共同制作したアトラクションについても、他のテーマパークへの展開も視野に入ってきました。
かつて挑んだシリコンバレーでは、結果を出すことができませんでしたが、その挫折があったからこそ、今の事業につながる視点が得られたと思っています。いまは「日本から世界を目指す」フェーズ。その一歩一歩を確かに刻みながら、私たちのプロダクトで世界に挑み続けていきます。
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