CO2回収技術の社会実装を目指すカーボンクライオキャプチャー、インキュベイトファンドから6000万円を調達

CO2回収技術の社会実装を目指すカーボンクライオキャプチャー、インキュベイトファンドから6000万円を調達

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カーボンクライオキャプチャー株式会社は、インキュベイトファンド株式会社を引受先とする第三者割当増資により、シードラウンドで6000万円の資金調達を実施した。同社は、高濃度CO2排出源からのCO2分離・回収に特化した独自技術を用いて、プラントの開発・設計・導入を手がけるスタートアップである。

回収対象とするのは、濃度10万ppm以上のCO2を排出する天然ガス田、バイオガス施設、発酵工程など。従来のDAC(Direct Air Capture)技術とは異なり、エネルギー効率の高い高濃度源へのアプローチを行う。代表の一ノ瀬泉氏は「濃度の低い空気からCO2を取るよりも、濃度の高い排出源から取る方がはるかに合理的。少ないエネルギーで大量に回収できる」と述べる。

CO2分離システム
CO2分離システム(画像は公式HPより)

同社が開発する技術の核は、市販のPDMS(ポリジメチルシロキサン)ゴムを吸収材として用いた「低温吸収型CO2回収技術」である。これは、従来用いられてきたアルカリ水溶液による化学吸収と異なり、物理吸収をベースにしており、再生時に高温の加熱を必要としない点が特徴だ。CO2を吸収した後の再放出も低エネルギーで可能なため、プラント全体の運用コストを大幅に削減できる。

この材料選定に至るまでには、一ノ瀬氏が20年近くにわたり取り組んできた分離技術の研究背景がある。「これまで活性炭やゼオライトなど、多孔性材料での試行を重ねてきたが、耐久性の問題で実用化には至らなかった。PDMSはありふれた素材だが、耐久性とコストのバランスに優れ、かつ冷却・加圧条件下での吸収性能が良好だった」とし、2021年頃から本格的に事業化に向けた準備を開始したという。

ポリジメチルシロキサン(PDMS)、新開発のCO2吸着剤
ポリジメチルシロキサン(PDMS)、新開発のCO2吸着剤(画像は公式HPより)

このCO2回収技術は、すでに焼酎メーカーなどで実証に入りつつある。南九州では、鹿児島大学と協力し、地域資源循環の一環として商用プラントを建設中だ。発酵由来のCO2を回収し、ビニールハウスでのCO2施用やドライアイスへの変換を通じて地産地消のエコシステム構築を目指す。初期プラントは年産200トン規模で、12月の稼働を予定している。

ビジネスモデルとしては、CO2の直接販売ではなく、「CO2を製造するプラント自体の開発・導入」に収益源を置く。一ノ瀬氏は「CO2は資源である」と位置づけており、産業用ガス・ドライアイス・溶接・医療・食品冷却などの用途を前提に、高純度(99.9%以上)のCO₂製造が可能なプラントを提供する。「タンクローリーで輸送可能な高純度CO2でなければ市場に乗らない」という実用性の視点を持ち、経済性と機能性の両立を追求している。

同社のバリューチェーン(画像は公式HPより)

資金調達後の使途については、6割がプラント建設費、4割が人材採用・活動費とされ、銀行融資も併用して規模拡大を狙う。人材面では、エンジニアや事業開発担当者など、装置設計から顧客対応までをカバーできる中核人材の採用を急ぐ。

海外展開については、マレーシアの国営石油会社Petronasが主催する「PETRONAS FutureTech 4.0」アクセラレータープログラムに採択されており、東南アジアでの天然ガス田開発に向けた現地企業との連携も進行中である。CO2含有比率が高く未開発となっているアジアのガス田は全体の60%を超えるとされており、同社の技術が開発を加速させる可能性がある。

将来的な展望としては、水素製造における副生成CO2の回収や、液化炭酸ガスの製造と販売による多角的な事業展開を視野に入れる。特に水素社会の進展とともに、副産物として排出されるCO2の処理需要が拡大することを見据え、「水素とCO2の同時価値化」を目指している。

創業メンバーは、いずれも研究バックグラウンドを持つ技術者で構成されており、CTOは九州大学の元学生、CSOはマレーシア出身の共同研究者。一ノ瀬氏は「自らが実験し、失敗と試行錯誤を重ねた結果として生まれた技術でないと、本気で社会実装に挑む動機にはならない」と語り、研究者起業ならではの思想が貫かれている。

「ディープテックには、目新しさではなく、骨太な技術基盤が必要。大量生産や低コスト化、長期耐久性といった地味な課題こそが本質的な競争力を生む」と語る一ノ瀬氏の言葉は、短期的な流行に左右されがちなテック業界において一石を投じるものだ。

今後、カーボンクライオキャプチャーは国内外での商用プラントの展開を加速しつつ、水素社会や天然ガス開発といった中長期のエネルギー政策にも深く関与していく構えだ。高濃度CO2回収という独自の切り口を武器に、脱炭素化に向けた現実解の一つとして社会実装を進めていく過程は、ディープテックスタートアップの成長モデルとしても注目される。

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