資金調達で加速する日本農業、効率化と海外展開で事業拡大

資金調達で加速する日本農業、効率化と海外展開で事業拡大

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KEPPLE編集部

目次

  1. 海外輸出で事業拡大、農業を「儲かる産業」に
  2. 修行期間を経て、身近だった農業領域で起業
  3. ビジネスとして成立する農業に
  4. バリューチェーンが“太く”なれば産業が盛り上がる

農産物の生産から販売までを行う株式会社日本農業がシリーズCラウンドにて、第三者割当増資および融資による約42億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回のラウンドでの引受先は、農林中央金庫、慶應イノベーション・イニシアティブ、日本政策投資銀行、オイシックス・ラ・大地など12社。融資における借入先は、日本政策投資銀行など10機関。
今回の資金調達により、設備投資や人材採用の強化による事業規模拡大を目指す。

海外輸出で事業拡大、農業を「儲かる産業」に

日本農業は2016年創業の農業スタートアップだ。りんごやさつまいも、いちごなどの園地を自社運営し、生産から選果、販売まで一気通貫で行う。

生産拠点
農業という泥臭いイメージのビジネスながらも、従業員の平均年齢は36.3歳と若い。2022年度には、グループ売上高35億円を達成した。2023年度は約50億円の売上を見込むなど、事業を順調に伸ばしている。

その事業成長を支えているのは「海外輸出」と「高い生産効率」だ。

農産物の出荷先を人口減少で消費の縮小する国内のみに頼っていては、需要が限定的となってしまう。経済成長、人口増加の続くアジアを中心とした海外に販路を拡大し、国産の青果を輸出する点が大きな特徴だ。

また、日本の高品質な青果物を海外で大規模に販売するため、生産効率の高い栽培方法を積極的に取り入れている。りんご栽培には「高密植栽培方式」を採用。日本で一般的な栽培法の約3倍の収穫が可能になるという。

りんご栽培の様子

収益性を高める栽培法として世界的に広がる高密植栽培方式(写真:日本農業提供)

さらにバリューチェーンの効率性を高めるべく、調達資金の一部は高機能な選果機の導入に充てる。人材採用の強化と並行して、取り扱う各品目の生産・販売規模を拡大する考えだ。

日本の農業ビジネスの課題や今後の展望などについて、代表取締役CEOの内藤 祥平氏に詳しく話を伺った。

修行期間を経て、身近だった農業領域で起業

―― 創業のきっかけを教えてください。

内藤氏:両親が新潟出身で、幼い頃から農業は私にとって身近な存在でした。いつかは農業に関わる仕事がしたいと思っていて、そのためにはまず日本の農業を知らなければいけない。日本だけではなく海外の農業も知らなければいけないということで、学生時代はアメリカへ留学したり、ブラジルや日本の農業法人で働いたりしていました。

その中で感じたのは、日本の農家はすごく美味しいものを作る一方で、ビジネス的な観点が不足しているということです。そこでまずはビジネスの経験を積もうと、マッキンゼーで農業系の案件を中心に携わり、日本農業の設立に至りました。

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ビジネスとして成立する農業に

―― 日本の農業に不足するビジネスの観点とは?

バリューチェーンが効率化されていないのは一つの課題だと思います。国内の市場が伸びていない中、国内の供給を増やしても単価が落ちてしまうだけです。その中で、減反政策に代表されるような供給制限が行われてきた結果として、バリューチェーン全体の効率化が進まずに海外と比べて生産性が低くなってしまっています。

農業ビジネスを手掛ける海外企業だと、フィリピンではバナナ、ニュージーランドはキウイなど、農産物の海外輸出量を増やすと同時に効率性を高めることで成長するパターンが典型的です。

これまでは、日本の農産物の輸出先として挙がるアジアの所得が高くないために、一部の層に向けて高級フルーツを輸出する程度に留まっていました。今ではアジア諸国の経済成長を背景に状況は変わってきていたものの、販路拡大に踏み切れていなかったのです。

―― 海外への販路拡大が重要なのですね。

売り先を海外に広げたとしても、単価がいきなり何倍にもなることは基本的にありません。それでも、国内で販売するよりも単価を高く設定できます。日本産青果の需要が高まる海外への輸出を目的に、生産量を増やす動機にもなるのです。

例えば、一般的なりんごの栽培法では1ヘクタールあたり20トン収穫できるところを、高密植栽培の場合は60トン収穫できます。なぜほかの農家がこうした栽培法で大量収穫しないかといえば、国内だけでは供給が増えすぎて単価が下がってしまうからです。需要の限られた国内ではなく、市場の伸びている海外に販売していくことが大きなポイントです。

バリューチェーンが“太く”なれば産業が盛り上がる

―― 資金調達の背景や使途について教えてください。

現在、売上の8割を占めているのがりんごです。青森県全体の生産量の3%程度を取り扱っています。「輸出」という観点では一定のシェアを得つつも、青森のりんごの取扱量をさらに増やし、突き抜けていかなければいけません。

また、足元ではりんごに注力しつつも、他の品目を仕込んでいきます。他のビジネスと異なり、農業は植えてから収穫できるまでに結構な時間を要します。これらを同時並行で進めるために、農業に対する関心の高い事業者から資金調達を行いました。人材採用も強化します。

―― 農業には人が集まりにくいイメージがありますが、御社は急速に組織を拡大しています。

やはり農業に関心のある人は潜在的に多いのかなと思っていて。一方で、そうした人々が農業に関わることのできる働き先は意外とないのです。

日本には多くの農業法人がありますが、家族経営が多く、外から入ってきた人にとってはキャリアパスも見えづらいことで結局離職につながってしまうのではないでしょうか。

ただ、農業は今まさに産業に変革が起きている状況です。すごくおもしろい。こうした環境にワクワクを感じてくれる、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが集まっています。

従業員数の推移
―― 今後の長期的な展望を教えてください。

これからの3年で重要なのは、りんごでリーディングプレイヤーになって産業を良くしていくことです。そのうえで、日本農業という社名を掲げたからには、さらに大きな規模で果樹以外の品目の取扱もぐっと伸ばしていくのが目標です。

現在は、日本で収穫した果物をアジアに売るという商流を築き上げています。そうではなく、そもそも海外で大規模に生産をしてそのまま海外に売るような、世界を股にかけたバリューチェーンの構築をこれからの20年で実現したいと考えています。

農業のバリューチェーンを構築する上で、農家や企業の役割は非常に重要です。米国やニュージーランドでは、企業が非常に大きな役割を果たしています。我々も、企業の農業参入サポートや投資のアドバイザリー業務を行っていますので、農業参入に興味のある企業は、ぜひお声がけいただければと思います。

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