飲食店向けに野菜・果物などの食材配送サービスを手掛けるべジクル株式会社が、第三者割当増資による累計4億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドの引受先は、basepartners、ケップルキャピタル、三菱UFJキャピタル、小僧com、とっとりキャピタルなど。
今回の資金調達により、プロダクト開発の強化やサービス提供エリアの拡大に注力する。
非チェーン飲食店向けの業務用青果配送サービス
ベジクルは、主に非チェーンの飲食店向けに大田市場で青果を仕入れて配送している。飲食店は、インターネットやLINEなどから簡単に青果を中心とした食材を注文し、注文から最短約5時間で青果が届く。
小品種大ロット注文を前提とする大手青果卸と異なり、毎日少量ずつさまざまな種類の青果を欲する飲食店のニーズにも対応する。取扱い品目は1万種類以上と幅広く、多種多様な野菜を注文できるため、飲食店のメニュー差別化も後押しする。配送頻度を高めることに注力し、朝昼の配送や休日配送にも対応し、必要な時間に必要な量の新鮮野菜を届けられる点が特徴だ。
ベジクルでは、都心6区を中心とした40コースの配送網で自社配送をしている。注文状況に応じて毎日配送コースを組み替え、飲食店のランチ仕込み前の配送完了を目指す。
自社配送に対応していないエリアでは、農産物流通事業を手掛けるパートナーによる配送で対応。2024年2月時点では、首都圏全域への配送を行っている。注文情報集計などの事務処理はベジクルが行い、同社のシステムを通じてパートナーへ仕入れの作業指示を送る。パートナーとなることで、既存顧客からの注文処理などの煩雑な事務処理はベジクルに任せられるだけでなく、配送エリア内の新規顧客も獲得できる点が大きなメリットだ。
パートナーとの連携は2023年2月に開始。現在のパートナー数は10社を超え、今後もパートナーとの連携による配送エリアの拡大を目指す。
ベジクルは、現代表の池田 将義氏の祖父が1947年に創業した「日本青果」を源流に、家業から独立する形で2009年に設立された。さらなる成長を目的にエクイティファイナンスを実施するなど、コロナ禍以降を「第二創業期」と位置付けて取り組んでいる。
今回の資金調達に際して、代表取締役 池田 将義氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
注文情報のデータ化で生産性を向上
―― 青果流通に関する課題について教えてください。
池田氏:飲食店からの注文は、FAXやメール、電話などさまざまです。これらの注文に関する情報がデータ化されておらず、アナログで集計するため、従業員の負担が大きくなっています。業務時間が増えるだけでなく顧客の増加に対応できず、若手従業員も定着しづらくなってしまっています。
青果の注文情報をデータ化することには多くのメリットがあります。在庫管理や需要予測に使えるほか、会計にも活用できるんです。実は青果卸事業者は、発送対応などをした後に、会計に使う目的で受注情報をデータ化していることがほとんどです。この工程を先に持ってくることで、会計以外にもデータの活用ができます。
パートナーは、ベジクル側で集計された注文情報や作業指示を受け取るため、データ化ノウハウがなくても煩雑な事務処理の負担を減らし、スムーズにピッキングから配送までを行います。
―― 非チェーンの飲食店はどのような課題を抱えているのでしょうか?
飲食店は需要が回復している一方で、人手不足が顕著です。飲食店における準備作業でかなりの手間がかかるのは、野菜の下処理です。そのため、余裕を持って必要なタイミングで野菜が届けられる必要があります。
青果は大きいがゆえに、あまりに大量の野菜が届きすぎても収納場所が不足します。また、さまざまな種類の野菜を少量ずつ使いたいという飲食店のニーズに対応できる卸売サービスが不足しているのが現状です。ベジクルでは、1万以上の品種を取り扱い、配送頻度を高めることで飲食店の困りごとを解決しています。
これらは、購買力のあるチェーン店とは異なり、非チェーン店が直面する特有の課題です。ベジクルでは多くの種類の青果を取り扱っており、朝昼、そして休日も配送することで、これらの課題を解決しています。
―― 2009年に会社設立後、コロナ禍以降を第二創業と位置付けて取り組んでいます。
元々は、祖父が創業した会社(後に父が経営するスーパーマーケット運営会社と合併)で働いていました。有名スーパーでの勤務経験もあり、野菜に関する仕事にのめり込んでいきました。
しかし、大手スーパーと中小スーパーの売上では、何千倍もの差があります。この差を埋めるのは容易ではありません。一方で、青果流通の中でも、飲食店向けは大手と中小企業でそこまで差がついていなかった。自らの努力と時代の変化をうまく捉えることができればチャンスがあると考え、飲食店向けの流通に特化しようと考えました。
そして日本一の八百屋を目指すことを決意し、父の会社から独立し、ベジクルの前身となる司企業を立ち上げました。
中小企業として着実に成長する中で、第二創業を意識する大きなきっかけとなったのが、現取締役の岩崎との出会いです。短期的な利益だけでなく、中長期的な視点で日本一を目指すためには、外部資本を取り入れた成長が必要だという考えに至りました。ちょうど新型コロナウイルス感染症の流行が始まり厳しい時期ではありましたが、第二創業を進める決意としてベジクルに社名変更し、仲間を集めてきました。
日本一の八百屋へ
―― 調達資金の使途について教えてください。
パートナー向けシステムのさらなる高度化が資金調達の目的の一つです。現在は受注情報を集計してパートナーとやり取りする機能の提供が中心です。今後は、精緻な需要予測や各社の個別課題に対応できる機能開発など、全国のより多くのパートナーの業務が効率化できるようなプロダクトにしていきます。
その他にも、改善の余地が多く残されている物流センターのIT化や、全方位の人材採用にも今回の調達資金で投資していく計画です。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
当社が目指すのは、まず日本一の八百屋となり、人とテクノロジーの融合により業界を変革することです。そのためにも、現在10社いる提携パートナーを、2025年3月末までに30社に拡大することを目指しています。その先ではアジア一を目指します。
ベジクルを通じて得たさまざまなデータを、生産地へフィードバックすることも非常に重要です。高齢化に伴う農業人口の減少など、小規模農家にとって困難な状況が続いています。流通データを活用し、日本の野菜が持続的に流通できる環境を構築することで業界に貢献したいと考えています。
青果は大きくて重く、安くて腐りやすい、バーコードもないなど、流通にとって非常に難しい要素を備えています。この複雑な流通を最適化する解決策はまだ見つかっていませんが、私たちはこれらの課題解決に取り組み続けていきたいと思います。