植物由来の有用成分を発酵生産するファーメランタ株式会社がシードラウンドにて、第三者割当増資による2億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドでの引受先は、Beyond Next Ventures、Angel Bridge、Plug and Play Japanの3社。
今回の調達資金は、研究拠点の整備、研究開発人員の増強による組織の拡大、基盤技術の強化に充て、生産収量の拡大を目指す。
天然化合物を人工的に生産する技術
同社は、合成生物学※を利用した独自の遺伝子導入技術により、植物由来の多様で複雑な化合物(二次代謝産物)を持続可能かつ安価に製造できる発酵生産プロセスを開発している。
※合成生物学:組織、細胞、遺伝子といった生物の構成要素を組み合わせて、本来の生物にはない新たな生命現象を人工的に作り出すことを目的とする学問分野。
大腸菌などの微生物に多段階(20個以上)の遺伝子を組み合わせることで、これまで植物からしか抽出できなかった天然化合物の成分を人工的に生成する。米国で研究が進んでいる分野ではあるものの、一つの微生物に20個以上の遺伝子の導入を可能にした技術は、他に類を見ない同社の強みである。
この技術により、既存の医薬品・化粧品・健康食品の原料や、精製の難しかった生薬成分まで健康増進に寄与する化合物の開発が可能となった。
同社は2008年、世界で初めて植物の二次代謝産物である「アルカロイド」を、微生物で発酵生産することに成功。アルカロイドは、鎮痛剤などの医薬品の原料となる物質である。他にも健康食品や化粧品に利用されるフラボノイドやテルペノイドなど、さまざまな化合物を生成することが可能だ。
石川県立大学応用微生物学研究室における15年以上の研究成果の蓄積を技術基盤とし、発酵生産により植物由来の化合物を高効率かつ安価に供給することを目指す。
今回の資金調達に際して、代表取締役CEO 柊崎 庄吾氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
有用成分の安定的な供給を実現
―― これまで、天然化合物の生産にはどのような課題がありましたか?
柊崎氏:人類はこれまで、健康増進や医薬品開発のために、天然化合物を有効活用してきました。しかしながら、天然化合物の素となる植物は基本的に農業によって生産されるため、栽培に時間がかかります。また、地域や天候によって大きく左右され、その年によって収穫量が変動するため流通も非常に不安定です。さらに、植物から抽出できる成分はごく少量であり、精製も困難で高いコストがかかります。広大な土地や大量の水、エネルギーが必要とされるため、環境負荷がかかることも課題として挙げられます。
当社の技術では基本的に発酵を利用し、微生物が増殖して数日で目的物質を生成できるため、常に短期間での生産が可能です。これにより、鎮痛剤の成分など市場規模の大きな領域にも貢献したいと考えています。
―― 事業化に至った背景を教えてください。
学生時代に国際協力に興味を持ち、ケニアでJICAの青年海外協力隊に参加しました。気候変動の影響を受けやすい暑い地域では農業が困難であり、栄養不足が問題となっていたことから、食糧や栄養に関する問題に関心を抱きました。
ちょうどその当時、植物由来の「アルテミシニン酸」という物質を酵母から生成することに成功し、抗マラリア薬が開発されたというニュースを知り大変衝撃を受けました。このような技術があれば農業に頼らず栄養成分だけを作れるのではないかと思ったことが、合成生物学に興味を持ったきっかけのひとつです。
その後、投資銀行でM&Aアドバイザーとして、主に資金調達の支援などを行っていました。消費財・小売のチームに所属し、発酵技術を持った日本の食品業界の方々が身近な存在でした。外資系企業に勤めていたため、特にアメリカなど海外の最新事例の情報提供も行っていました。世の中の流れは日々変化している一方で、日本ではあまり新しい取り組みが生まれていないと感じ、自ら何か新しい事業を始めたいと考え、研究シーズを探しました。
その後、政府による中小企業技術革新制度(SBIR)の研究開発の事業化支援プログラムに参加し、石川県立大学研究所で合成生物学研究に取り組む南、中川と出会いました。共同創業者となる二人と2021年頃から準備を始め、2022年にファーメランタを設立しました。
微生物の力でサステナブルな社会の実現へ
―― 資金調達の使途について教えてください。
より効率的な研究環境を構築するために、ラボの新設を行います。研究活動に必要な機器や材料の購入、実験実施に関わる費用など主に研究開発費に充てる予定です。
さらに、研究開発者の採用を強化します。求める人材としては、特に基礎生物学を専攻し、新しいことに挑戦したいという意欲のある方に参画いただきたいです。一つひとつのメカニズムを解明し、生命として機能するように微調整していく必要があるため、基礎的な研究のバックグラウンドを持ち、未知の領域を問題解決能力で切り開いているような研究者を、5名程度採用したいと考えております。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
直近の1年から1年半では、現在の研究を継続しながら、私たちの目標とする物質を植物よりも低コストで作り出し、高い収量を達成することを目指しています。
次の資金調達時には、試作プラントを建設し、スケールアップして商業化に向けた生産を行います。さらにその後は、大規模工場をつくり商業生産を開始することを計画しています。
共同開発においても積極的に事業会社との連携を進め、各企業に技術導入を促進し日本の発酵産業の活性化に貢献したいと考えています。
私たちは、微生物を活用してあらゆる物質を作り出すことのできる世界を実現し、サステナブルな生産方法を確立できる社会を築いていきます。
ファーメランタ株式会社
ファーメランタ株式会社は、合成生物学を活用し、植物由来の希少成分を微生物で発酵生産する実用化研究を行う石川県立大学発ベンチャー企業。 同社は、植物が持つ「アミノ酸などの一次代謝物を経て生物学的に合成される二次代謝物を生成する特別な能力」に着目し、微生物発酵プロセスで植物二次代謝産物(PSM)を製造する研究を行う。 同社は、合成生物学を利用した産業用人工菌株の構築技術のほか、目的物質の生産効率を向上させるための遺伝子の発現バランスの最適化などの技術の研究も行う。
代表者名 | 柊崎庄吾 |
設立日 | 2022年10月19日 |
住所 | 石川県野々市市末松3丁目570番地 |