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注目のPPAスキーム
2050年までに脱炭素社会を実現するにあたり、再生可能エネルギーの普及が急務となっている。日本では2010年代に太陽光発電の市場は急速に拡大したが、その後2016年にフィードインタリフ制度※1が改定され、近年は縮小している。一方で、PPA(Power Purchase Agreement)※2、電力販売契約が注目されている。契約終了後は設備を譲り受けることが可能で、CO2排出量の削減に直接貢献できることが特徴だ。
矢野経済研究所※3が2022年10月に発表した調査によると、国内のPPAの再生可能エネルギー導入サービスの市場規模は2021年度の38億円から、2025年度に350億円、2030年度には700億円に成長すると予測されている。
スタートアップ5選
株式会社シェアリングエネルギー
企業HP:https://sharing-energy.co.jp/
主に戸建ての屋根上に、太陽光発電システムを設置するPPAサービス「シェアでんき」を提供する。ユーザーは初期費用なしで太陽光発電システムを設置でき、15年間後に無償譲渡されるまでメンテナンス費用もかからない。同社は、発電した電力をリーズナブルな価格でユーザーに提供し、それ以外の余剰電力から売電収入を得る。2024年4月時点での契約者数は1万7000件以上、ハウスメーカーやビルダーなどシェアでんきの普及支援パートナー1600社以上。
2024年4月には、シリーズBエクステンションラウンドにて東芝テック、三菱UFJ信託銀行、K4 Ventures(関西電力グループ)、住友商事、AGキャピタル、TIS、八十二サステナビリティファンド、GMO VenturePartners、信金キャピタル、日本海ラボ(日本海ガス絆ホールディングスグループ)などを引受先とした第三者割当増資による40億円の資金調達を実施した。
株式会社SOLAR POWER PAINTERS
企業HP:https://s-p-painters.com/
物に塗ると光に反応して電気を作り出すインク、「発電インク」を開発する。あらゆる材質や形の物体など、発電させたいものに塗るだけで太陽光パネルを作れる。そのため、一般的な太陽光パネルと比べコストを1割以下に抑え、環境負荷も減らす。インクは半導体と金属両方の特性を持つ物質と、電気伝導性の高い高分子化合物から作られる。研究レベルでは既に完成しており、今後はメーカーと連携して、透過性の特性を生かして発電機能を持った窓ガラスやビニールハウス、フィルムなどの製品に展開する予定だ。
2023年に各種機能別インク、2024年には多層式塗布インクの製品化、そして2027年までには発電効率を10%に高めることを目標に掲げる。今後は全国の高専や学生とも連携し、需要に応じた発電出力やインクの透過性などを追求していく。発展途上国などを含め全世界の人に電気を届けることを目指す。
2023年4月には、グローカリンクを引受先とした資金調達を実施した。
ヒラソル・エナジー株式会社
企業HP:https://www.pplc.co/
東京大学発のIoT技術「PPLC™-PV」と独自開発のAI技術を組み合わせ、太陽光発電所の発電性能を向上するサービスを提供する。
先端技術とデジタルソリューションを活用し、太陽光発電所の事業的価値と社会的価値の最大化を目指し、発電所の性能再生事業、集約化運営を推進する百年ソーラー事業、そして太陽光発電関連のDXソリューションを提供する。パネル1枚単位で遠隔で異常を探知し、メンテナンスを行うことで発電効率の改善や発電ロスの削減を実現する。
2024年3月には、シリーズBラウンドにて三菱UFJ信託銀行、脱炭素化支援機構、常陽銀行、八十二インベストメントなどを引受先とした資金調達を実施した。2024年5月には、プレミアム電力データ提供サービスを開始した。
株式会社OPTMASS
企業HP:https://optmass.jp/
京都大学発ベンチャーとして、従来の太陽電池などで利用されていなかった赤外光(熱線)を電力に変換する透明太陽電池を開発する。赤外光は太陽光の約半分を占めているにもかかわらず、エネルギー資源として利用されていない。そこで同社は、可視光をほとんど透過し、赤外光を強く吸収する能力を持つ、ナノ粒子をガラスにコーティングした太陽電池の開発を進めている。日本全国に存在する約16億平方メートルの窓ガラスを太陽電池に置き換えるとすると、年間2200万トン相当のCO2が削減可能になる。
2024年5月には、日本政策金融公庫、京都信用金庫、京都中央信用金庫、京都信用保証協会の協調融資により、総額6000万円の資金調達を実施した。
アイ・グリッド・ソリューションズ
電力エネルギー需要の最適化を目指し、自然に優しい屋根上太陽光発電のPPAサービスを提供している。施設の屋根全体に太陽光パネルを設置し、「余剰電力循環スキーム」により最大限の再生可能エネルギー発電を実現する。これにより、電力コストを削減し、再生可能エネルギーの自給率を高めることができる。また、屋根上太陽光発電、産業用蓄電池、EV充電システムなどを統合的に管理するインテグレーションサービスも提供し、導入施設の再エネ自給率の向上を実現する。
2024年6月には、三菱UFJ銀行からのローン契約により30億円の資金調達を実施した。2024年7月には、子会社のVPP Japanおよびアイ・グリッド・ラボを吸収合併した。これに伴い、CI(コーポレートアイデンティティ)を刷新し、社名ロゴ及び、自社サイトをリニューアルした。
再生可能エネルギースタートアップが牽引する脱炭素革命
今回紹介した企業は今回紹介した企業は、革新的な技術とビジネスモデルを通じて、再生可能エネルギーの普及拡大による脱炭素社会の実現を加速させている。これらの取り組みは、環境保護と経済成長の両立を示している。今後も、太陽光発電関連のスタートアップの動向にはさらに注目が集まりそうだ。
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※1 フィードインタリフ制度:再生可能エネルギーの価格を一定期間固定する制度
※2 PPA : 依頼者が持つ施設の屋根や敷地内などに太陽光発電システムを初期費用0・メンテナンス付きで設置し、依頼者が利用分の電気代を設置事業者に支払う契約形態
※3 矢野経済研究所 「PPAスキームによる再生可能エネルギー導入のサービス市場に関する調査を実施(2022年)」