2015年11月、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において採択された「パリ協定」をきっかけに、世界各国が気候変動問題の解決に向けて、脱炭素のための取り組みを進めていることは、いまや万人の知るところだ。現在、日本を含めた150以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げている。
この大きな目標達成のために、二酸化炭素(CO2)の回収・再資源化技術を開発するのが九州大学発スタートアップの株式会社JCCLだ。同社はこのたび、シードラウンドにてJ-KISS型新株予約権の発行による2億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドでの引受先は、QBキャピタル、インクルージョン・ジャパンの2社。
調達資金により、九州大学からの特許譲渡を実施し、顧客との共創を主眼とする CO2吸収装置のさらなる開発・設計を進める。
低コストでCO2回収・分離を実現する吸収材料
同社は、アミン※含有ゲルからなる高性能なCO2吸収材料の生成をコア技術とし、CO2の回収、分離、貯蔵、再利用を低コストで実現。カーボンニュートラルの達成に貢献するための技術を開発する。また、顧客や排出源の個別の特性に合わせて最適なCO2吸収装置の開発やプロセス設計を提供する。
同社のCO2回収技術は、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)および宇宙航空研究開発機構(JAXA)の支援により、創業者である九州大学の星野 友教授の研究によって開発された。現在は、この技術に関する知的財産、ノウハウの独占的ライセンスを持ち、事業開発を行っている。
また、貯蔵したCO2を農業に活用する施用装置についても特許を取得しており、効果・耐久性・安全性も実証済みだ。
2023年春にはさらなる事業拡大を目指した経営体制の刷新を行い、日東電工株式会社で代表取締役専務執行役員を務めていたキャリアを持つ梅原 俊志氏が代表取締役CEOとして就任。合わせてCO2回収に取り組みたい企業向けに「JCCLエコシステム」を設立し、会員企業向けサービスの提供を開始した。すでに製造業を中心とした数社が参画しており、各企業とカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを進めている。
今回の資金調達に際して、代表取締役CEO 梅原氏に今後の展望などについて詳しく話を伺った。
ライフサイエンスから着想を得たCO2回収方法
―― 従来のカーボンニュートラルの取り組みにおける課題について教えてください。
梅原氏:カーボンニュートラルの実現は大きな社会課題です。日本政府は2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言し、多くの企業も同様の目標を掲げています。
しかし、温室効果ガスの排出量を算定・報告する際の国際的な基準であるGHGプロトコルでは、1つの企業から排出された温室効果ガス排出量(直接排出)だけではなく、サプライチェーン全体における排出量(間接排出)も重視し、算定・報告基準が設定されています。そのため、上流から下流までサプライチェーン全体での削減に対する取り組みが求められています。自社のみで解決できる問題ではなく、実際に達成するのはなかなか難しいため、みなさん苦労をされています。
さらに、従来のCO2吸収材は湿度が高いとCO2の吸収が出来ないという課題があります。工場などから排出されるガスは湿度を含んでいるため、乾燥処理や高熱での前処理が必要となり、それによってエネルギーコストが高くなるというデメリットもあります。
当社がCO2吸収で用いるアミン含有ゲルは、排気ガスを乾燥させるという行程が不要なため低コストでCO2を回収・分離することができるのが特徴です。
(写真中央)代表取締役CEO 梅原 俊志氏
―― CO2回収技術の開発背景と事業化できたポイントについて教えてください。
この技術の開発者である九州大学の星野教授は、元々ライフサイエンスの研究を専門としていました。人間はヘモグロビンを介してCO2を排出しています。星野教授が、このヘモグロビンの働きからヒントを得て、CO2回収方法の着想に至ったことがプロジェクトの始まりです。
星野教授は15年程この技術の開発を続けてきました。他に類を見ない、ゲルを活用したアミンによって吸収・分離のプロセスにエネルギーを必要とせず再利用までできるため、CO2回収技術における優位性を持っています。また、吸収材料だけでなくCO2排出源の特性に合わせた回収装置の開発において、日本・アメリカ・欧州にて特許を取得した技術を活用できることが当社の強みです。
カーボンニュートラルの実現で目指す社会貢献
―― 資金調達の背景や使途について教えてください。
これまでライセンス契約にて活用していた技術に関する特許を九州大学から取得し、CO2回収装置の開発と設計を行います。また、JCCLエコシステムの会員企業100社を目指してマーケティング活動にも注力します。
さらに、多くの実証機を作製する予定です。装置による実証実験は非常に重要であり、実績が全てです。各企業がどのようなガスの回収を目指しているのかというニーズに応じたシミュレーションを行い、同時に実証結果によって最適な回収プロセスを示すことがその先の事業拡大へつながると考えています。今後も装置による実証実験を進めながら、より大規模なプロジェクトに取り組んでいきます。
CO2回収の実証実験の様子
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
温室効果ガスの増加により、気候変動や大気汚染、人類への健康被害などさまざまな弊害が生じています。これらの問題解決に取り組むことは、持続可能な経済成長を促し、新たな雇用機会の創出にもつながります。私たちの提供する技術により、サプライチェーン全体でカーボンニュートラルを達成できる仕組みを作ることができると考えています。
この技術を社会実装に向けて広めていくために、特許を武器にしながら多くの方々に当社について知っていただけるよう事業を推進していきます。そして、大きな社会貢献につなげることを目指します。
(※)アミン:アンモニアNH3の水素原子を炭化水素基で置換した化合物。
株式会社JCCL
株式会社JCCLは、二酸化炭素回収・再資源化技術を用いて、二酸化排出量削減に向けた支援事業を行う九州大学発のベンチャー企業。 同社は、「技術国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」、「国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)」および「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」の支援により「九州大学」で開発された、「二酸化炭素回収技術」を持つ。二酸化炭素分離材料・回収モジュール・回収装置を開発しており、二酸化炭素排出源のガスの特性に応じたモジュールや装置の最適化を行う。顧客の求めるレベルの二酸化炭素回収ができるかどうかや、発生源調査などの「POC」から、顧客自身で同社装置での「二酸化炭素分離実証」などを行うという。
代表者名 | 梅原俊志 |
設立日 | 2020年12月2日 |
住所 | 福岡県福岡市西区九大新町4-1 |