日本は世界有数の金属工業国である。2023年の粗鋼生産量は世界第3位であり※1、昨年末には日本製鉄のUSスチール買収が発表され話題となった。一方で、環境省のデータによれば日本のCO2排出の12.5%は鉄鋼業によるものであり※2、製造加工時のCO2削減が喫緊の課題となっている。
業界団体である日本鉄鋼連盟は、2050年まで鉄鋼業界の実質的なCO2排出量をゼロにするビジョンを策定しているため※3、製鉄会社や自動車メーカーなど鉄鋼関連業界が注目しているのが、脱炭素を実現する新たな金属加工技術だ。
製造工程におけるCO2排出量を大幅に削減した金属資源の活用拡大に向けた技術とソリューションを開発・提供するSUN METALON Inc.はこのたびシリーズAラウンドにて、第三者割当増資と融資枠の設定による31億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
引受先は、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ、HITE Hedge Asset Management、住友商事グローバルメタルズに加え、既存投資家である東京大学エッジキャピタルパートナーズ、グロービス・キャピタル・パートナーズ、D4V、i-nest capital、Scrum Ventures、Berkeley SkyDeckの9社。日米のVCが名を連ねる。さらに、三井住友銀行から5億円を上限とする融資枠の設定を行った。
今回の資金調達により、日米拠点の拡充、人材確保、装置の改良を進め、さらに米国で新たなパイロットプラントの設立を計画しているという。
脱炭素を実現する金属リサイクル技術
CEOの西岡氏をはじめとした元日本製鉄のエンジニアが2021年に事業を立ち上げた同社は、独自の金属加熱技術により、CO2排出量を大幅に削減しながら、高いコスト効率を実現する金属製造プロセスを開発している。金属廃棄物から不純物を除去し、高純度素材として再利用する金属リサイクル技術を中核事業に据え、日本と米国を拠点に事業を展開する。
同社が開発する金属加熱の特許技術は、特徴的な小型の装置により、資源価値の低い金属切屑のスクラップから不純物を取り除くことができ、新原料を生成できる。化石燃料を必要とせず電気で稼働するので、既存の工場内での運用が可能だ。
同社は創業当時、金属3Dプリンター技術を開発していたが、その加熱技術を応用してCO2排出量の少ない金属の製造・リサイクルに注力領域を転換し、事業を拡大してきた。4期目を迎えた現在は、金属業界における費用対効果の高いカーボンニュートラルの実現を推進している。
すでに国内の大手事業会社と共同で実証実験を行っており、工場内で出た金属スクラップを独自の金属加熱装置で焼成し、新原料を生成してそのまま現地で再利用する取り組みを行っている。
今回の資金調達に際して、同社日本法人代表の瀧澤 慶氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
独自技術で金属リサイクルのサプライチェーンを革新
―― これまで金属業界にはどのような課題がありましたか?
瀧澤氏:金属産業が排出する温室効果ガスは世界の全排出量の約10%を占めています。しかし、環境負荷の削減に対する技術的な投資はまだまだ道半ばです。
一般的に金属が製造・再利用される際、油や酸化物などの不純物を取り除くために超高温で加熱処理を行います。そこで使用されるのが、ロータリーキルンという巨大な筒状炉施設なのですが、稼働に大量の化石燃料を消費するだけでなく、炉がある施設まで重たい金属を輸送するのにも多くのCO2を排出しています。
しかし、これらの課題を解決するための技術開発が積極的には行われてきていませんでした。
―― 御社の技術の特徴について教えてください。
我々の技術は、電気で稼働する小型の金属スクラップの加熱装置です。
従来のロータリーキルンと違い化石燃料を使用せず、電気のみで稼働するため、クリーンエネルギーを使用すれば、温室効果ガスが排出されません。加えて、装置は超小型であるため、工場内に設置して金属スクラップをその場で再利用することができます。
さらに、鉄だけではなく、アルミや銅等あらゆる金属種類に対応が可能です。
―― どのような経緯で現在の事業にピボットされたのですか?
CEOの西岡は米国で材料工学の研究をしていた際に、高効率の加熱技術を開発しました。2021年にSUN METALONを創業し、その技術を活用した金属3Dプリンターの開発を始めました。
しかし、顧客へこの技術を提案する中で、より需要があり実装しやすい金属リサイクルに活用するのはどうかとアドバイスをもらい、現在のビジネスに転換するきっかけとなりました。
―― 米国で法人化した背景は?
創業当時、金属3Dプリンターの主な市場が米国でした。そして、3Dプリンター関連技術を持つ人材や、資金調達の機会も集中していたことから、我々は米国で起業することを選択しました。金属リサイクルにおいても米国での事業展開は重要だと考えています。
金属業界をクリーンに変革し、カーボンニュートラルに貢献
―― 御社の技術が普及した先には、どのようなメリットがあるのでしょうか?
我々のリサイクル技術が普及すれば、産業廃棄物として捨てられていたり、施設に運搬して処理していた金属スクラップが、工場でそのまま再利用できるようになります。特に当社の技術は、金属切屑や金属切粉といった細かい金属加工屑の再生を得意としています。これによって、今までの加熱処理に使われていた化石燃料や、運搬にかかるCO2排出量の大幅な削減につながり、カーボンニュートラルを一層進めることができます。特に金属業界は温室効果ガス排出量10%を占めているので、そのメリットは大きいでしょう。
―― 今回の資金調達の背景や使途は?
大手事業会社との実証実験の成果や、リサイクル関連の売り上げ、技術開発のスピード感について投資家の皆様から評価いただき、今回の資金調達に至りました。
そして、資金調達の主な目的に一つには、米国VCとのつながりが挙げられます。我々はグローバルでの事業拡大を見据えているので、海外の取引先を増やすためのパイプラインとして米国VCとも関係構築を進めたいと考えています。
使途に関しては装置の改良の他に、チームの拡充と研究開発費を予定しています。日米両国で組織を拡大予定で、日本のチームに関しては約2倍の増員を見込んでいます。
―― 今後の展望を教えてください。
脱炭素は世界的に真っ向から取り組んでいかなければならない重要な課題です。我々は「金属業界をクリーンに変革し、人類の進歩を促進する」という使命を掲げ、2050年のカーボンニュートラル達成へ貢献することを目指しています。
金属だけでなく、脱炭素やリサイクル、材料工学など、幅広い分野で共感し、参画してくれるメンバーがどんどん集まってきていますので、ぜひ当社の取り組みに賛同してくれる仲間をさらに増やし、事業をグローバルに拡大していきたいと考えています。
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※1 グローバルノート株式会社「世界の粗鋼生産量 国別ランキング・推移」
※2 環境省「2020年度(令和2年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について」
※3 一般社団法人 日本鉄鋼連盟「我が国の2050年カーボンニュートラルに関する日本鉄鋼業の基本方針」