業界レポート|農業投入材市場、農業人口が多く、インターネットが普及しているインド・インドネシアでの拡大が見込まれる

業界レポート|農業投入材市場、農業人口が多く、インターネットが普及しているインド・インドネシアでの拡大が見込まれる

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written by

多田 摩耶


2月28日週に、種子や肥料、農薬などの農業投入財のB2Bマーケットプレイスを展開するインドネシアのAgriAkuが資金調達を行った。同社は、サプライヤーに対して会計・在庫管理ツール提供、商品予測支援も行っている。2021年5月の開設以降、GMV(流通取引総額)は、前月比200%で伸びているといい、現在10,000件の農家店舗がアクティブユーザーで登録されている。



また、2月にはインドのAGRIMがKalaari Capitalが主導し、シリーズAで1,000万ドルの資金
調達を行った。AGRIMはインドにて種子、肥料、作物保護、動物栄養、農機具など幅広い農業投入材を扱うB2Bプラットフォームである。Inc42によると、AGRIMのプラットフォームは2,500以上のメーカーと17万以上の小売業者が利用しているとのことだ。



そこで、今回は農業投入財の市場について取り上げる。2050年には、世界の人口は現在の79億人から98億人に達するといわれている。この人口増加の中で、問題になるといわれている分野の一つが食糧問題である。人口増加と都市化、温暖化による影響といった観点から、食糧確保は国レベルでもグローバルレベルでも重要な課題であり、その問題に挑戦するのがAgTechと呼ばれるセクターである。同セクター内では、代替肉や飼料の代替など、従来の食料への依存自体を軽減する取り組みも活発化しているが、農業生産性の向上につながる投入財(種子、農薬、肥料)の導入、農作業や加工の効率性向上、サプライチェーン内での食料廃棄の低減といった、従来の農業を改善していく取り組みも重要である。農業投入財のマーケットプレイスはその一角と言える。

今回資金調達が確認された企業が拠点を置くインド、インドネシアはいずれも農業が盛んな国である。GDPに占める農林水産業の割合が高く、それぞれ18%、14%を占める。また、労働人口4.6億人、1.4億人のうち、農業従事者の割合はそれぞれ43%、29%となっており、農業従事者が多く存在する。こうした中で、インドでは農業投入財の小売業者が100万以上存在するといわれており、非常に細分化されたマーケットとなっているのが農業投入財市場である。この細分化されたマーケットをデジタル化し、効率性を挙げるべく、近年、農業投入財のマーケットプレイスが多数勃興している。

FICCIによると、インドの農業投入財市場は2018年に50億米ドル規模、毎年8.1%の成長を誇り2025年には81億米ドル規模になると想定されている。インドでは、このうち国内消費が27.7億米ドルとなっている。Nurture.farmのB2B eコマース部門であるnurture.retail(120億ルピー(約1.6億米ドル)の在庫を1年間で販売したとしており、最大の農業投入財マーケット)や、昨年10月に1.15億米ドルを調達し、今年1月にDehaatに買収されたHelicrofter(2020年設立、2,000以上の農業資材小売業者と30の販売業者を抱え、年間5億ルピーの売上)など類似企業も多く存在している。

2019年のOur World in Dataのデータによると、農業人口数は下表の通りとなっている。



インドやインドネシアから今回取り上げた企業が勃興したことは必然と言えるとともに、同様の企業が同じように農業人口数の多いマーケットでは生じうる。

また、そもそもの前提として、農業投入財の使用状況は国によって大きく異なっている。例えば、エチオピア、マラウイ、ニジェール、ナイジェリア、タンザニア、ウガンダの22,000世帯、62,000区画のデータを用い、世界銀行を中心としてまとめられた2017年のレポート(Agriculture in Africa– Telling Facts from Myths)によると、全体の2/3が無機肥料を利用せず、84%が農薬を使っていないとのことである。ただし、ナイジェリア、エチオピア、マラウイでは比較的使用が進んでおり、無機肥料の使用世帯の比率はそれぞれ41%、56%、77%となっており、エチオピアとナイジェリアの1/3の世帯は農薬を利用しているとのことだ。

加えて、農村エリアでこうしたサービスが普及する前提として、インターネット普及率も大きなカギになると想定される。上述の各国のインターネット普及率は、World Development Indicatorによると下図の通りとなっており、中国、ナイジェリア、ベトナムなどが比較的普及しやすいと想定されるが、コンゴやバングラディシュなどではもう少し時間を要するであろう。



FMCGを中心としてE-commerce全体で小売業者とメーカーをつなぐマーケットプレイスがより幅広い国で広がる中、農業従事者の割合が低かったり、関連売上が小さい国においては、こうした投入財マーケットプレイスは現れにくいと考えられる。インドやインドネシアなどにおいても、小売業者が農業投入財のみを扱うわけではないことを踏まえると、今あるマーケットプレイスが他セクターに品数を伸ばしていく可能性も考えられ、現在農業小売業者に培っているネットワークを今後どう活用していくか、注目である。


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2015年、新卒で大和証券に入社し、新規開拓を中心に2年間証券営業。 その後、デット・キャピタルマーケット部に2017年に配属。上場企業を中心に、電力、輸送機器、電気機器、通信・サービス、金融など幅広いセクターの企業に対して、社債発行提案ならびに社債発行支援を実施。 2021年に、ナイジェリア・ケニア・エジプトにて、ケップルアフリカベンチャーズの出資先企業等への訪問を経たのち、12月ケップルに入社。アナリストチームを経て、ケップルキャピタルにジョイン。

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