cynaps株式会社

IoTプラットフォーム開発を手がけるcynaps株式会社は、シリーズBラウンドで環境エネルギー投資および鈴与商事を引受先とする第三者割当増資により、総額3億円の資金調達を実施した。これにより、累計調達額は約5.9億円に達した。
cynapsは2020年設立のスタートアップで、IoTやAI技術を活用したビル・施設の省エネおよび脱炭素化ソリューションの開発・提供を主軸としている。
主な製品である「BA CLOUD」は、IoTを活用し、空調や換気の自動最適化を実現するシステムだ。CO₂センサーなど複数のセンサーによるリアルタイム監視と、換気装置に取り付けたIoTコントローラーをクラウド経由で遠隔監視・制御することで、空調のエネルギーロスを最大50%削減できる。人の在不在に応じた換気最適化や省エネ化を、低い工事コストで実現する点も強みだ。全国の商業施設、宿泊施設、自治体施設などで導入が進んでいる。
加えて、cynapsはIoT開発支援サービス「LIMZERO」も展開しており、エネルギー分野にとどまらず、幅広い施設運営の効率化ニーズに応えている。
代表取締役の岩屋雄介氏は、工事業界で9年間の経験を積んだのち、ベンチャー企業でIoTの新規事業を立ち上げ。国内初のAlexaスキル開発・運用クラウド「NOID(ノイド)」を開発し、2020年に「誰もが簡単にIoT技術を活用できる世界」を目指してcynapsを創業した。
IoTを活用したビルオートメーション、特に空調・換気の最適化は、国内外で市場成長が続いている。国際エネルギー機関(IEA)の試算によれば、世界のエアコン台数は2050年に現在の約3倍へと増加する見通しであり、電力消費の増大が大きな課題とされている。日本でも電気料金の上昇や脱炭素社会への転換が推進されており、既存建築物の省エネ改修ニーズは高まっている。国土交通省の「建築物ストック統計」によれば、日本の非住宅系建築物の平均築年数は伸びており、改修や省エネ工事の需要が存在する。一方で、設備投資コストや工事中の営業停止リスクが導入の障壁となってきた。
同分野にはパナソニックやダイキンなどの大手企業、ならびにModeやGA technologiesといったベンチャー企業が競合している。cynapsは「ワイヤレス」や「サーバーレス」など、施工負荷の低減を前面に打ち出し、差別化を図っている。
資金調達の背景には、BA CLOUDの顧客や問い合わせの増加、自治体や大規模施設での導入事例の拡大がある。2022年のβ版ローンチ以降、アパホテルや東京都大田区などでの実証実験を通じ、電力消費量を最大50%削減するなどの成果を示してきた。直近では東京都の「キングサーモンプロジェクト」など、行政との連携も進めている。また、cynapsは都内での実績から、公共調達における随意契約が可能なスタートアップとして認定されている。
調達した資金は、施工やパワーエレクトロニクスに精通した人材の採用、受注およびサポート体制の拡充に充てられる予定だ。導入面積を2029年までに約20倍の300万㎡規模へと拡大する計画も示されている。中規模太陽光発電所10基分に相当する電力消費削減を目指すとしている。
BA CLOUDの普及は、電力使用量の抑制と脱炭素化推進という社会的要請に沿った動きといえる。今後、自治体や民間企業双方での需要増が見込まれる一方、市場拡大に伴い大手企業の参入も続くため、ソフトとハードを組み合わせた一体型の競争力強化が求められる。