不動産デベロッパーや投資家向けの賃料査定サービス「ポルティ賃料査定」を運営するポルティがシードラウンドにて、5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。今回のラウンドは、インクルージョン・ジャパンが引き受けた。
資金調達と併せ、同社は空き家の所有者と買い手をつなぐマッチングアプリ「ポルティ」の正式ローンチも発表した。空き家を売却したい人が物件の写真と住所を登録するだけで、アプリ上に売り物件として掲載できる仕組みで、物件に関心を持つ買い手と直接やり取りできる。物件の登録時はAIが紹介文を提案し、ユーザーの負担を軽減する。
同社は2022年から運営する「ポルティ賃料査定」で不動産デベロッパーや投資家の認知を獲得し、累計の査定回数は250万回を超える。現在、無料で提供する同サービスで培った査定アルゴリズムとユーザー基盤を活かし、今回、空き家取引市場に本格参入する。
代表取締役社長の平 瑶平氏に、新サービス「ポルティ」の特徴やローンチの背景、今後の展望について詳しく話を伺った。
「メルカリの不動産版」で、空き家の直接売買を可能に
――空き家の売買アプリ「ポルティ」について、特徴を教えてください。
平氏:空き家を売りたい人がセルフサービスで物件情報を投稿し、買いたい人と直接交渉できるサービスです。「メルカリ」の不動産版と考えていただくと分かりやすいと思います。
価格交渉や内見なども当事者同士で進め、大枠の合意が取れたところで、当社から派遣する宅建士が物件調査や契約書作成を行い、売買契約をサポートします。サービスの利用料は成約ベースで、成約後買い手側から売買価格800万円までの物件では一律30万円、それ以上の物件では売買価格の3%+6万円を仲介手数料として頂きます。
――買い手側はどんなユーザー層を想定しているのでしょうか。
主に二つの層を想定しています。一つは不動産デベロッパーや投資家です。今、訪日旅行者数が急増し、宿泊需要が拡大している一方で、建材費や人件費の上昇により、物件の新築コストが高騰しています。そこで注目されているのが空き家の活用です。
空き家の数は2023年には900万戸に上っている一方、売買市場に出回りづらい現状があります。価格規模が小さいため、1件あたりの仲介手数料も低く、仲介業者にとっては工数に見合わないのです。「ポルティ」の場合、当事者同士の合意成立までのプロセスをセルフサービス化することで、内見時の同行を含め仲介業者の工数の90%を削減できるため、空き家に多い低価格帯の物件も扱えます。
もう一つ、買い手側のユーザーとして想定しているのは、セカンドハウスやサードハウスを購入したい一般消費者です。コロナ禍以降、プライベートな空間で余暇を楽しみたいと考える人が増えており、空き家の取得に関心を持つ人も相当数いると見ています。
――「ポルティ」の正式ローンチと併せて、新たに「ポルティ空き家売却査定」のローンチも発表されました。
空き家の住所や面積、築年数などの情報を入力すると、即座に想定売却価格が表示されるサービスで、Web上で完全無料で提供します。空き家を自身の手で売却しようとした際に、最も大きなハードルとなるのが「値付け」です。AIによって算出した客観的な市場価格を誰もが見れるようにすることで、ユーザーが売却価格の当たりをつけた上で、ポルティで物件の投稿へ進むことを想定しています。売却価格の設定ミスを減らすことで、売り手が安心して物件を投稿できるようにしたいと考えています。
統計学の授業をきっかけに不動産業界で起業
――不動産業界で起業した経緯は。
「ポルティ賃料査定」の前身サービスとして、借り手目線で割安な賃貸物件を抽出するサービスを運営していました。このサービスの開発に取り組んだきっかけは、私の大学時代にさかのぼります。統計学の授業で不動産価格を推計するアルゴリズムを考える課題があり、実用化を思い立った友人が私に声をかけ、協力してくれるパートナーを探す中で出会ったのが、現在CTOを務める田中です。
エンジニアであり不動産投資家でもある田中の話を聞くうちに、不動産業界の持つポテンシャルにひかれました。都会で部屋を借りようと思うと、若者でも10万円前後の賃料がかかりますよね。一方でサブスクリプションサービスとしてみると、不動産以外の業界でそれだけの価格帯のサービスはなかなかありません。かつ、DXの余地の大きい業界であることも見えてきて、私の夢である「人の生活にインパクトをもたらす事業」を実現できそうだと感じました。
――空き家売買市場への参入に踏み切った経緯は。
不動産業界に本格的に入り込む中で、この業界でより大きなインパクトを出すためには、SaaSのような形でDXツールを提供するにとどまらず、自分たちで物件取引に関わることが不可欠だと気づきました。
さまざまなビジネスモデルを試した中、空き家売買のCtoCサービスに至ったのは、事業者として情報を囲い込むのではなく、逆にオープンにする仕組みによって一般ユーザーをサポートできる点に魅力を感じたためです。先にベータ版をリリースし、実際に物件の投稿が出てきたタイミングで正式ローンチに踏み切りました。
2030年度に4万件の成約を目指す
――調達した資金の使途は。
「ポルティ」の売り手向けマーケティングに投下するほか、「ポルティ空き家売却査定」の価格算定アルゴリズムを進化させることにも注力します。当社は「ポルティ賃料査定」の運営を通じ、「用地取得に先立って不動産投資の要である利率を推計したい」というシビアなニーズに応える中で、高精度のアルゴリズムを開発してきました。この強みを磨き上げ、他社との差別化につなげます。
人材採用も強化します。「ポルティ」上の交渉は基本、当事者間で行っていただきますが、不動産の専門知識を持つスタッフのサポートが必要な場面も出てくると想定し、宅建士の資格者を増やします。
――今後の事業展開は。
私たちは潜在的な空き家売却市場の規模を6.4兆円と見込んでおり、これはメルカリのような不用品売却市場の約3倍です。このポテンシャルの高い市場において、私たちはまず空き家を「自分で売ることができる」という認識を広め、眠っている物件を掘り起こします。
一方「ポルティ賃料査定」の運営も継続し、同サービスのユーザーである不動産投資家を「ポルティ」に誘導します。また、劣化の進んだ空き家の処分の責任を負う地方自治体や地域経済の活性化を図りたい地銀と連携し、民泊用物件の取得を促す施策にも取り組みたいと考えています。「ポルティ」は、2030年度には4万件の成約が生まれるサービスへと育てる計画です。
この事業の特徴は、ビジネスとしてのインパクトと共に、社会貢献の意義も大きい点です。空き家問題は地方衰退の一要因に数えられ、国も各種の取り組みを進めてきました。2024年度には低額物件の仲介手数料の上限が引き上げられたほか、「登記上の持ち主が何世代も書き換えられておらず、実際の所有者を特定できない」問題の対策として、不動産相続時の登記の義務化もスタートしています。こうした環境を背景に、私たちは所有者にとっても地域や行政にとっても悩みの種である空き家と、活用のアイディアを持つ人々とのマッチングを活性化していきます。