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カイコ由来バイオ原料の研究開発を手がけるスタートアップMorus株式会社が、シリーズAラウンドで第三者割当増資による総額7億円の資金調達を実施した。今回の資金調達には、スパークス・アセット・マネジメント、みずほキャピタル、東大創業者の会ファンド、個人 投資家などが新規で参画し、既存投資家であるDG Daiwa Ventures、SMBCベンチャーキャピタル、信金キャピタルからの追加出資も含まれている。
Morusは2021年に設立された。信州大学で長年にわたり蓄積されたカイコ研究の知見をもとに、カイコを原料としたバイオ素材の研究開発と供給を進めている。主力製品の「MorSilk® Powder」は、タンパク質源や機能性食品素材、飼料、化粧品など幅広い分野で利用されている。カイコに含まれるシルクタンパク(セリシンやフィブロイン)、桑の葉成分(DNJやポリフェノール)などの成分に注目し、科学的な根拠に基づいた製品開発を推進している。製造過程におけるトレーサビリティや安全性にも配慮し、EU基準を参考にした独自規格を設けている点が特徴だ。
事業セグメントは4つに分かれている。まず「原料供給」では、粉末食品素材などを食品メーカーなどのサプライヤー向けに提供している。「受託研究」では、カイコ原料の機能性解明や共同開発を行う。「食製品開発」では自社およびパートナーと協力し、プロテインバーや機能性食品などの加工食品を開発。「OEM事業」では、他社ブランド向けの商品供給やカスタマイズ製造を手がける。2024年にはシンガポールに現地法人を設立し、ASEAN諸国を中心とした海外展開も強化している。
代表取締役CEOの佐藤亮氏は、商社やベンチャーキャピタルで新規事業開発を経験した後、食品タンパク質や栄養機能素材への関心を深め、2021年に信州大学のカイコ研究の第一人者である塩見一夫教授とともにMorusを共同創業した。佐藤氏は、国内に存在するカイコ研究や産業インフラが、持続可能な代替タンパク質や高機能バイオ素材として再評価される可能性に着目し、科学的検証と国際展開を推進している。
背景として、気候変動や資源制約を受け、畜産や農業に依存しない新たなタンパク質供給源や素材産業の確立が世界的な課題となっている。矢野経済研究所の推計によると、代替タンパク質市場は2022年時点で約6400億円、2035年には約5兆円規模に成長する見通しである。この市場では、植物由来、培養肉、昆虫由来など多様なアプローチが競合し、環境負荷やコスト、認証、消費者受容、安全性などの観点で激しい競争が続いている。
昆虫由来食品分野では、欧州を中心に食用コオロギやミールワームなどを開発・量産する企業も増加している。一方、Morusは日本で培われたカイコ研究を強みに、食品素材としての機能性や安全性を多面的に評価している。また、伝統的なシルク生産で築かれた養蚕や加工インフラも活用している。
資金調達の経緯としては、2022年1月のシードラウンドで5000万円、2023年5月のPreシリーズAラウンドで2億円を調達した実績がある。今回のシリーズAラウンドにより、グローバル市場での事業展開を本格化させる。また、イリノイ大学など海外の研究機関との共同研究や、経済産業省、農林水産省、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)など国内官公庁による支援事業にも選定されている。
今後は、ASEAN地域での試験販売や市場導入を進め、2024年にはシンガポール政府による食用昆虫の認可解禁とあわせて本格出荷を計画している。EU市場については、食品や飼料分野での新規食品規制(ノベルフード規制)に対応したうえで、安全基準や科学的エビデンスを強化して参入を目指す。食品、ヘルスケア、化粧品分野など、さまざまなメーカーや研究機関と連携して用途開発を進めている。
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