近年、「メタバース」や「アバター」関連の事業に取り組む企業が増え、それらの概念が急速に浸透し、世の中に広がってきた。その背景には、海外大手企業のメタバースビジネスへの巨額投資のニュースや、新型コロナウイルスの影響によるバーチャル空間でのリモートワーク環境の発展など、さまざまな理由が考えられ、今後もさらなる需要の拡大が予測される。
アバターには2Dのものから、自身でカスタマイズできるタイプ、AIアバターなどさまざまな種類が生み出されている中、3Dスキャン技術で自身の身体データによるアバターを生成し、そのデータを消費者が利活用するソリューションを提供するのが株式会社VRCだ。
ワコールなど大手企業と業務提携が加速
同社は、誰でも使える3Dアバターと人間の身体に関する情報を取得するソリューション、およびさまざまな分野のサービスに直結するプラットフォームと、ハードウェアを含めたサービスを支えるバックエンドの環境を提供する。取得したアバターと身体データは、シームレスに多様なサービスと連携ができるというUbiquitous Avatar Platform(ユビキタスアバタープラットフォーム)構想を提唱し、エンタメ、アパレル、ヘルスケア、フィットネス等の分野に活用できるプラットフォームになっている。3Dアバターによってユーザーのアイデンティティに関わる情報を管理し、さまざまなサービスをシームレスに行き来できる、利便性の高い総合プラットフォームを目指している。
昨年には、小学館および博報堂DYホールディングスと資本事業提携した。博報堂DYホールディングスとは、バーチャル試着サービスの「じぶんランウェイ」を展開している。また、今年5月にはワコールとの連携を発表。3D smart&try事業のボディスキャナーとして採用され、撮影されたデータはワコールが運用する公式アプリ「WACOAL CARNET(ワコールカルネ)」と連動している。 来店客自身が、専用のシステム内で一人で操作して全身のサイズを3Dで計測し、店員に相談することなくフィットする下着を探すことが可能だ。
同社の技術開発の背景や今後の展望について、代表取締役社長 謝 英弟(シェー・インディー) 氏に詳しく話を伺った。
3Dスキャンデータを価値あるサービスへ進化
―― 御社の技術的な強みについて教えてください。
謝氏:当社は、技術とマーケティング、そのどちらにも強みがあると思っています。
スキャニングソリューションの競争力はワールドクラスで、速さと全自動であることを評価されています。また、3Dソリューションとクラウド、どちらにも取り組んでおり、データに関するセキュリティの強さも特徴です。現在設計しているプラットフォームは、データ管理だけでなく、エンドユーザーの行動や体験をトレースするものです。複雑な構造設計ですが、フロントエンドサービスのプロバイダーからは、利用しやすい機能が揃っていると好評いただいています。
マーケティングに関しては、エンドユーザーの消費体験を重視して開発してきたことで、他社と差別化できていると考えています。また、当社は導入後のマネタイズや、エンドユーザーへの価値あるサービス提供についてコンサルティングしながら、お客様と一緒に事業を作っています。マーケティング専門のメンバーだけでなく、研究者出身の私自身も常に勉強しながら取り組み、これまで国内外でスキャンを行ってきた多くの実績とノウハウを基にお客様とコミュニケーションしています。
―― 従来の3D技術の開発や活用における課題について教えてください。
3Dスキャニングの技術は数十年前からありましたが、投資とリターンのバランスがなかなかとれず、あまり広がっていませんでした。これまでは、一度取ったデータの利活用はシングルパーパスで、経済的なリターンが良くなかったことで、普及が進まなかったのです。3Dスキャンデータを取るには、高価な撮影機材の導入と、スタッフによる手作業での修正など、一人ひとりに非常に多くの時間とコストがかかります。
そこで私たちは、3Dスキャンデータを利活用できるさまざまなマーケティングサービスの提供と、スキャンからデータ化まで数十秒で行える技術を開発しています。多くのサービスを展開し、撮影コストを下げることで3Dスキャンデータの利用価値を高められれば、従来の課題を解決できると考えています。
ユーザー体験とデータの真実性を重視
―― 技術開発の背景とプロダクトを実現できたポイントについて教えてください。
実現できたポイントは、アルゴリズムと並列計算の追究です。私自身が元々研究者でもあるため、博士号を持つ社内のメンバーたちと一緒に開発を進めました。最初は研究開発の延長として、「人間の体を3Dで再現できたら、いろんなこと使えるのではないか」というアイディアがきっかけでした。開発しながら、アパレルやエンターテイメントの分野でニーズがあることがわかり、エンドユーザーからの反応も良かったので、そこからどんどんプロダクトの可能性を発掘できました。
――プロダクトを開発・事業化される中で、どのような点を重視されましたか?
3Dスキャニングは、単純にクオリティとコストのバランスが取れればいいと思われがちです。しかし、一番の課題は、3Dスキャンをしてから、エンドユーザーにメリットのある形でどのようにサービスを提供するかまで、一連のソリューションを考えることです。
グローバル的に、フルボディの3Dスキャンにおいて関連会社が世界中に多く存在しますが、当社はスキャン技術だけでなく、Web3に向けた構造を設計したプラットフォームに基づいて、マルチ分野で、エンドユーザーにメリットのある形で事業展開しており、そういった会社は日本のみならずグローバルでも数少ないと評価いただいています。
また、当社はユーザー体験を重視していて、その場に行って体験することで生まれる価値にフォーカスしています。もう一つは、データの真実性です。生成系AIではいろいろ作れますが、当社は物理世界をセンシング技術でデータ化することで、データの真実性を元にしています。
代表取締役社長 謝 英弟氏
―― 御社の技術がもたらす消費者のメリットについて教えてください。
エンドユーザーには、短期と中長期のベネフィットを設計しています。短期的なものとしては、その場で即座に得られる娯楽性と有用性です。自分のアバターの姿を見て面白さを感じる娯楽性の高いサービスや、バーチャル試着の後に「買ってよかった」と有用性を感じさせるサービスなどがそれにあたります。中長期的には、ヘルスケア領域で、データ取得を継続することで「やってよかった」と感じるサービスの開発を進めています。
プラットフォームの中でIDを連携してさまざまなサービスをつなげる構想もあり、すでに設計は完成しています。今後はフロントエンドサイドのパートナー企業に賛同をいただき、近いうちに実現したいと考えています。
生活をより豊かにする総合プラットフォームへ
―― 今後の展望について教えてください。
3Dボディスキャンデータに、BMI、体重、体脂肪率、バイタルサイン(脈拍、呼吸、血圧、体温)などの総合的な人体データを保存することで、ヘルスケア領域での応用も可能です。それによって、当社が中長期的に目標としている健康分野へも進出できると考えています。この分野への参入はハードルがあるのですが、病気を治すためだけではなく、病気の前の段階である「未病」への対策や、自分の体についての可視化情報を提供することによって、健康意識を高めるサービスを作っていきたいと思います。
また、すでにスタートしている海外進出についても、拡大する予定です。世界的にも有力な日本企業の技術とIP(知的財産)を搭載し、トータルソリューションとして海外展開する計画があります。さらに、インバウンド事業として外国人観光客向けにバーチャル空間での日本文化体験や、アウトバウンド事業として日本の漫画、アニメ、IPの海外展開なども構想しています。
エンドユーザー一人ひとりのアイデンティティとして、3Dデータを安全に管理し、さまざまなサービスに利用できるプラットフォームを構築することで、人々の生活をより良くすることに貢献していきたいと考えています。
株式会社VRC
株式会社VRCは、3Dアバター生成システム『SHUN‘X』や、3D技術を活用したバーチャル試着サービス『Virtual try on』などを開発・販売する企業。 『SHUN‘X』は、ユーザーが同社の3Dスキャンシステムに立つと、0.2秒で撮影を行い、20秒ほどでアバター生成ができるシステム。生成されたアバターは、アパレルやヘルスケアなどで活用できる。 『Virtual try on』は、『SHUN‘X』で生成したアバターに、洋服を試着させることができるサービス。アバターは、体の隅々まで採寸しているため、購入予定の洋服の着用の雰囲気など、バーチャルで確認することが可能だという。
代表者名 | 謝英弟 |
設立日 | 2016年5月13日 |
住所 | 東京都八王子市明神町2丁目26番9号 |