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フュージョンエネルギーに取り組むスタートアップ6選


フュージョンエネルギーは、日本が技術を生み出すだけでなく、産業の主導権まで握れるのかを占う試金石になるかもしれない。
株式会社Helical Fusionは、日本発の「ヘリカル方式」によるフュージョンエネルギー(核融合発電)の実用化を目指すスタートアップだ。2021年10月、自然科学研究機構 核融合科学研究所のスピンアウトベンチャーとして創業した。
フュージョンの中でも研究蓄積が豊富な磁場閉じ込め方式には、「トカマク方式」と、同社が手がける「ヘリカル方式」がある。トカマク方式は高いプラズマ性能を得やすい一方、ねじれた磁場をつくるために大電流を流す必要があり、不安定になりやすいため定常運転が課題とされている。ヘリカル方式は外部コイルだけでねじれた磁場をつくれるため、大電流に頼らず、長時間の安定運転に向く。ただし、複雑な形状のコイルや装置を実際に設計し、製造し、保守できるシステムにまとめ上げる難しさがある。
同社が掲げるのが、「装置メーカー」ではなく「システムインテグレーター」という立ち位置だ。超伝導、材料、精密加工、電源、制御、建設、保守といった要素を束ね、発電プラントとして成立させる。全国で30社を超えるものづくり企業と連携しながら、実用発電に向けた開発計画「ヘリックス計画(Helix Program)」を進めている。
執行役員COOとして、事業開発部門を束ねる久保洋介氏に、システムインテグレーターとしての役割や、日本のものづくり企業と進める技術開発、フュージョン産業の形成に向けた取り組みを聞いた。
──御社のビジネスモデルを教えてください。
久保氏:核融合の個別技術を単体で売る会社というより、ヘリカル方式のフュージョンプラントを、実用発電システム※1 として成立させるシステムインテグレーターを目指しています。発電プラントの建設や運用、量産化、そしてエネルギー利用まで。この産業基盤づくりが、事業の中核です。
今はヘリックス計画を軸に、実用発電所に必要な主要技術をまず実証しています。2025年には最終実証装置「Helix HARUKA」の製造・建設に着手しました。2027年の超伝導通電試験を経て、2030年頃に統合実証※2 を行う計画です。そして2030年代中に、発電初号機「Helix KANATA」へと進める段階です。
※1 実用発電:短時間の発電実証ではなく、実用的な発電プラントとして、プラントのエネルギー収支を成り立たせる「正味発電」、安定的なエネルギー供給を可能とする「定常運転」、高いプラント稼働率を実現する「保守性」を実現すること。
※2 統合実証:超伝導マグネットやブランケット、冷却、真空、制御といった個別の技術を、一つの装置にまとめ、全体として成立するかを確かめること。「Helix HARUKA」は発電を行わず、この技術統合の実証に主眼を置く最終実証装置と位置づけられている。
──強みはどこにありますか。
大きく3つあります。1つ目は、日本発※3 のヘリカル方式を軸にしている点です。安定したプラズマを形成しやすく、長時間の安定運転に向き、メンテナンスもしやすい。だからこそ、ベースロード電源※4 に適しています。
2つ目は、実用発電所に直結する技術の開発力です。ただ単に構想するだけでなく、ハードウェアとして実現するのが我々の強みです。高温超伝導マグネットや液体金属ブランケット兼ダイバータが代表例になります。特に超伝導では、三次元のヘリカル(らせん)形状に対応するため、曲げやすい高温超伝導ケーブルの開発を進めています。核融合科学研究所(NIFS)との共同研究や、国内製造業との連携を通じて実用化を図っています。
3つ目は、日本のものづくり企業を巻き込み、研究開発を産業化につなげる体制です。核融合発電所は、プラズマ物理だけの世界ではありません。超伝導、極低温、超高温、材料、精密加工、熱交換、電源、制御、安全設計、保守設計などの集合体です。1社では完結しない。だからこそ、装置メーカーではなく、技術を束ねて実用発電へ運ぶシステムインテグレーターであることを重視しています。
※3 ヘリカル方式の中でも、自然科学研究機構 核融合科学研究所(岐阜県土岐市)は「ヘリオトロン配位」という日本独自の方式を編み出し、世界最大級の実験装置「大型ヘリカル装置(LHD)」で発展させてきた。Helical Fusionは、同研究所の研究成果を引き継ぐ。
※4 ベースロード電源:需要の変動にかかわらず、24時間一定の電力を供給し続ける電源。安定して長時間稼働できるものが担う。
──なぜ、システムインテグレーションが重要なのでしょうか。
バリューチェーンの上流を握る者が、最も価値を生むからです。
私自身、前職の三井物産では、石油やガスの資源開発に携わりました。エクソンモービルやシェルと資源獲得を競う、国際競争の最前線です。日本国内にいると、商社は資源の勝者ともてはやされます。ただ、世界に出ると実感は違いました。お金を払えば資源を買える。払わなければ、それまでです。
一方、エクソンモービルやシェルは、自らオーナーシップを持ち、どのプロジェクトをどのように遂行するかを決められる。どの機器メーカーを選定して、どの製品を使って開発を進めるのかを判断します。そこがバリューの源泉です。
戦後は、自動車メーカーやソニー、ニコンが、このポジションを取れていました。ところが近年は、それができていません。半導体も太陽光も携帯電話も、確かな技術がありながら産業化には至っていない。上流のシステムインテグレーションのポジションを取れなかったからです。
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携帯電話が象徴的です。国内には通信大手がいたにもかかわらず、主導権はアップルに移りました。かつてiPhoneのタッチパネル部分は9割が日本製とも言われた。それがいつの間にか技術的に追いつかれ、他国製品に切り替えられました。サブコンに回れば、決定権を失い、代替される側に回ってしまうのです。
もう一度、最終製品をデリバリーできる主体になりたい。それを自分たちの世代で実現したい。それが私たちの壮大なチャレンジです。
2021年頃、アメリカのMIT発のスタートアップCommonwealth Fusion Systems社が数千億円を集め、フュージョンエネルギーの商業化を掲げていた。フュージョンエネルギーは日本のお家芸なのに、ここでもまたアメリカや中国に負けるのか、と。傍観するのは嫌でした。私自身、それをきっかけにこの挑戦に加わることを決めました。
──ヘリックス計画の直近の技術的な課題を教えてください。
先ほど申し上げたとおり、フュージョンプラントは多分野の集合体です。だからこそ、個別技術そのものより、それらを組み合わせたときに全体として成立するかどうかが課題になります。装置には、ブランケット※5、超伝導マグネット※6、冷却系、電源、真空容器、制御システム、保守機構など、多くの要素がある中で、どれか一つが優れていても、熱や力、電気、冷却、安全性、保守性が噛み合わなければ、発電システムにはなりません。
航空宇宙や自動車に近い世界です。飛行機はエンジンだけでは飛びません。自動車も電池やモーターだけでは成り立たない。材料、加工、組み立て、制御、整備性、量産性まで含めたすり合わせがあって、初めて製品になります。
フュージョン装置は、さらに条件が厳しい。高温、強磁場、放射線、真空、極低温という極限環境が重なります。統合の難易度が非常に高い。だからこそ、研究者だけでなく、ものづくり企業の知見が欠かせません。

※5 ブランケット:約1億度に達する高温のプラズマを外側から覆う壁にあたる部品。核融合反応によって飛び出す中性子を受け止め、その運動エネルギーを熱に変えて回収する(最終的に、この熱で蒸気を作りタービンを回すなどして発電する仕組み)。同時に、中性子を遮って外側の超伝導マグネットなどを守ったり、内部のリチウムと中性子を反応させて燃料であるトリチウムを生み出したりする役割も担う。
※6 超伝導マグネット:コイルに電流を流して高磁場の環境を作ることで、プラズマをブランケットの内側に閉じ込める中核部品。電気抵抗によるロスを防ぐため、極低温に保つことが必要。
──具体的には、どのような企業と連携しているのでしょうか。
金属技研や菱輝金型工業、内山熔接工業をはじめ、さまざまなものづくり企業と連携しています。ただ、決まった図面どおりに部品を作ってもらう関係ではありません。フュージョンプラントには、まだ量産品も、確立した仕様も標準もない。誰も完成形を見たことがないものを、ゼロから一緒に作っています。
金属技研とは、高温超伝導マグネットや導体の加工・組み立てで連携しています。ヘリカル方式では、複雑な形状のコイルを、実際に作れる形へ落とし込む必要があります。曲げる、接合する、冷やす、強い力に耐える。こうした課題を、設計側と製造現場の知見を持ち寄って解いています。
菱輝金型工業とは、マグネットやブランケットの筐体加工で連携しています。きっかけは、当社のYouTube動画をご覧になった先方から、「うちの金属加工技術が貢献できるかもしれない」とご連絡いただいたことでした。大型の精密機械加工となると、大手重工メーカーに頼むしかないと考えていたのですが、「うちならできる」と。そこから、大型かつ高精度な加工技術を部品開発にどう活かすか、議論が始まりました。大企業の裏側で高度な加工を担ってきた技術力が、日本各地の企業に眠っているのだと実感します。
新潟・燕三条の内山熔接工業には、統合実証装置の外側を覆う真空容器を製作いただいています。直径はおよそ4メートル。2つに割れた部材を1つに溶接して仕上げます。真空を維持するため、非常に気密性の高い溶接が求められる部品です。
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これだけ大掛かりな真空容器を作れる会社は、日本に数社ほどしかありません。内山熔接工業はそのうちの1社です。
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まだ正解が決まっていないからこそ、早く参画する企業には、設計思想や製造方法そのものを一緒に作る余地があります。「自分たちの技術を設計に反映できる」「誰もやったことのないものづくりに挑める」。そうした声もいただきます。
──最近始められた公式パートナー制度について教えてください。
幅広い分野・業種の企業と、技術面・事業面・資本面で連携し、ヘリックス計画を一緒に推進するための制度です。単なるスポンサー制度ではありません。核融合という新しい産業を、パートナーと一緒に作ることを目指しています。
フュージョンエネルギー産業は、世界的にも立ち上がったばかりです。技術の形、部品の作り方、産業のルール、標準、サプライチェーンが、これから決まります。だからこそ、今参画する意味は大きい。完成品ができてから関わるのでは、単なる部品供給にとどまりかねません。
宇宙産業では、黎明期に参画できた企業が大きな成長機会をつかみました。一方で、「もっと早く関われていれば」と感じる企業も多いのではないでしょうか。フュージョンエネルギーは、これから立ち上がる産業です。今回こそ黎明期から日本企業に参画してもらい、世界で一緒に戦いたい。現在は、ニチアス、長谷虎紡績、瀬野汽船に最初のパートナーとして参画いただいています。
※ インタビュー後の2026年7月、発電初号機Helix KANATAの建設に向けて、総合建設会社の安藤ハザマも公式パートナーに加わっている。
──長谷虎紡績との連携は、どのように実現したのでしょうか。
産業づくりへの想いに強く共感いただいたことが背景としてあります。日本には優れた技術を持つ中小のものづくり企業が数多くあります。一方で、産業の空洞化が進み、これまでの延長線だけでは成長が難しい。既存の技術を新しい分野に応用し、日本の中に次の産業を作る必要がある。その問題意識を共有できました。
同社は紡績やインテリアで長い歴史を持ち、耐熱繊維などの機能性素材の技術もお持ちです。フュージョンエネルギーには、高温、断熱、保護、施工性、保守性、安全性など、素材技術が関わる余地が多い。炉の本体だけでなく、周辺設備や保守、安全対策まで含めると、可能性は広がります。
強調したいのは、フュージョンエネルギーが大企業だけの産業ではない点です。巨大で最先端の装置を作り、動かし、守るには、材料、加工、断熱、シール、配管、電源、センサー、建設、輸送、保守と、多くの技術が要ります。裾野の広い産業です。長年技術を磨いてきた中小企業にも、大きな参画余地があります。
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──核融合との接点がまだ見えない企業も、参画できるのでしょうか。
もちろんです。現時点では、核融合に自社の技術がどう活きるか分からない。そういう会社にこそ、一緒に走りながら、標準づくりから関わっていただきたい。一緒に、新しい産業を作っていきたいと思っています。
──核融合産業のエコシステムを広げるために、今何が必要だと考えますか。
日本が単なる部品供給国で終わらないことです。日本には、材料や加工、断熱、電源、制御、建設、保守など、核融合に必要な優れた技術が揃っています。ただ、個別の部品や技術を出すだけの立場にとどまれば、海外プレイヤーの下請け構造に組み込まれかねません。
そうではなく、プラント全体を設計し、技術をすり合わせ、サプライチェーンを組み、建設から運転、保守まで統合する立場も目指すべきです。システム全体をまとめる側に日本企業が立つことで日本の部品メーカーの力が活きます。
──政府には、どのような関わり方を望みますか。
フュージョンエネルギーは、スタートアップ支援や産業政策の枠を超えて、エネルギー安全保障に関わるテーマです。日本は大きな貿易赤字を抱え、化石燃料の輸入だけで25兆円もの赤字で、その多くを自動車産業による貿易黒字で埋め合わせています。フュージョンには、それを大きく転換するインパクトがあると考えています。だからこそ、国全体で取り組むべき領域です。
そのうえで望ましいのは、民間の主体性を軸にした支え方だと考えています。フュージョンエネルギーでは今、民間企業が事業主体として立ち上がっています。この主体性を尊重し、政府には資金面で力強く支えていただく。その役割分担が、産業を育てる近道だと考えています。
過去には、技術はあっても産業化に至らなかった例もありました。その多くは、事業を担う主体が明確でなかったことに一因があると見ています。だからこそ、事業主体が明確な今のフュージョンエネルギーは、これまでとは違う展開を期待できる。半導体のラピダスも、民間を主体に据えた新しい進め方の一例だと捉えています。官と民が適切に役割を分け合えれば、それが日本のブレイクスルーにつながると考えています。
──フュージョンエネルギーが普及した先に、どんな未来を描いていますか。そして、その中でどんな役割を担いたいと考えていますか。
フュージョンエネルギーが普及すれば、エネルギーの前提が変わります。化石燃料が要らず、二酸化炭素も出さない電力を、安定して大量に生み出せる。その電力の上に、AIやデータセンター、さらには量子コンピューターが広がっていくでしょう。これらをいかに最適化し、連携させて社会を動かすか。2060〜2070年頃には、それが現実的なテーマになると見ています。
私たちはスタートアップです。ただ、単に技術を開発する会社ではなく、日本の次の基幹産業をつくる主体でありたい。高度成長期のソニーやニコン、自動車メーカーがそうであったように、製品とブランド、そしてサプライチェーンを備え、世界で戦える産業を、日本から生み出す。それを自分たちの世代で成し遂げたいと考えています。
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