「看護にスポットワークは向かない」を変える──メリーが挑む、看護現場の働き方改革

「看護にスポットワークは向かない」を変える──メリーが挑む、看護現場の働き方改革

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株式会社メリーは、看護師向けスポットワークサービス「メリー」を2026年8月4日に正式ローンチした。同サービスは、医療機関や介護施設と、単発で働きたい看護師・看護補助者をつなぐサービスで、ベータ版の提供開始から4カ月で20法人、320事業所まで導入が広がり、登録看護師は約3000人となった。

一方、同社によると、看護業界でスポットワークを広げるハードルは高い。病院への新規営業では、約9割が当初は否定的だという。医療現場では、一人の看護師が患者を継続して診る考え方が重視され、スポットワーカーの活用に抵抗感を持つ現場も少なくない。

メリーは、単に求人を掲載するのではなく、看護師で構成するチームが医療現場に入り、スポットワーカーを受け入れるための業務設計まで支援する。その先に描くのは、病院単位で人材を抱える現在の仕組みを超え、地域全体で看護人材を共有する「メディカルリリーフ構想」だ。

代表取締役の氏家 好野氏に、看護業界でスポットワークを広げる難しさやメリー独自のアプローチ、目指す医療現場の姿について聞いた。

看護師が現場に入り込む──スポットワーク導入のための業務再設計

──御社の取り組む事業について教えてください。

氏家氏:看護師向けのスポットワークサービス「メリー」を運営しています。医療機関や介護施設などに対して、看護師や看護補助者が単発で働ける仕組みを提供しています。

──サービスを開始してから、医療現場ではどのような変化が生まれていますか。

人手不足によって休床していたベッドを、スポットワーカーが入ることで再び稼働できたケースがあります。医療機関の収益確保にもつながっています。

スポット勤務をきっかけに、その看護師を常勤や非常勤として採用した事例もあります。既存職員の残業が減ったり、休憩を取りやすくなったりと、働きやすさの改善につながるケースもあります。

一方、スポットワーカーを入れれば、すぐに効果が出るわけではありません。医療機関側にも受け入れる準備が必要です。

例えば「どの仕事をスポットワーカーに任せるのか」「どのように受け入れるのか」を考えなければなりません。人手を求めていても、スポットワークという形には抵抗感を持つ現場もあります。よい効果につなげるには、まずこの壁を越える必要があります。

──現場の抵抗感は、どのようなところにあるのでしょうか。 

私が新規営業を担当していますが、特に病院では9割くらいのお客さまが最初は否定的です。スポットワーク自体を「邪道」と捉える感覚があります。登場したばかりのマッチングアプリが「誰が使うのか」と言われていた状態に近いと思います。

看護には、長い間大切にされてきた考え方があります。一人の看護師が入院から退院まで患者さんを担当することで、小さな変化にも気づき、ケアの質を高めるという考え方です。

医師よりも近い立場で患者さんを診る看護師だからこそ、その価値があります。その前提で業務が設計されてきたため、スポット人材に一部の業務を任せる考え方とは、相性が悪い部分があります。心理的な抵抗感も大きいと感じています。

──導入までの壁をどのように乗り越えているのでしょうか。

当社の看護師のチームが現場に寄り添い、カスタマーサクセスを行っています。

営業して契約した後は、担当を看護師チームに移行します。看護師が実際に現場へ行き、看護部のトップと現場の看護師の双方から話を聞きます。

医療安全への懸念が強い病院では、求人を掲載する前に、私たちの看護師が半日ほど、実際に勤務する場合もあります。現場に入り込んで業務を理解し、話し合いを重ねます。

同じ看護師が看護師の目線で話すことで、「自分たちのことを理解してくれている」という安心感につながります。一緒に働けば仲間意識も生まれるので、その後の提案も受け入れていただきやすくなります。

求人票やマニュアル、ラベルなどの資料も私たちが作成します。業務の流れや方法、働く時間帯を変えるなど、スポットワーカーを受け入れられる業務設計を現場と一緒につくっています。

──今後は、施設の業務設計や運営にもさらに踏み込んでいくのでしょうか。

そうですね。施設側では、看護部の運営や経営課題にも踏み込んだ支援を強化したいと考えています。

単に「人が欲しい」「この条件で求人を出したい」という要望を受けるのではなく、なぜ人が必要なのかまで掘り下げます。例えば、病床数を増やしたいのか、より多くの患者さんを受け入れたいのか、残業を減らしたいのか。そうした目的から逆算し、どのような人員配置や業務設計が適切なのかを一緒に考えていきます。

看護師向けには、メリーのアプリの即日即金の機能やUI/UXの改善などを予定しています。

メリーUI(図:同社提供)

──スポットワークが定着した先に、どのような看護組織をつくりたいと考えていますか。

最終的に目指しているのは、常勤・非常勤・スポットという3つの働き方が、常に看護部の中に存在して、看護師が様々な形で看護と接点を持ちながら活躍できる状態です。

現在は、常勤を採用できるまでの一時的な穴埋めとしてスポットワーカーを使うケースが多いです。しかし、私たちはスポットワーカーを一時的な存在ではなく、看護部を構成する一つの役割にしたいと考えています。

常勤だけですべての業務を担うのではなく、それぞれの働き方に応じて役割を分担する。それにより、看護師と医療機関の双方にとって、より柔軟な組織をつくれると考えています。

「アプリではなく、人だった」──メンタルケア事業からのピボット

──看護業界に向き合うようになった原点を教えてください。

きっかけは、私自身が前職でメンタルを崩した経験です。そのとき友人の看護師に相談したのですが、話を聞く中で、コロナ禍の医療現場が非常に大変な状況にあることを知りました。心身の不調を理由に現場を離れる看護師が多くいたのです。

そこから看護師さんを支援したいと思うようになり、2022年の創業と同時に、看護師向けメンタルヘルスアプリ「ナースビー」をリリースしました。

ナースビーには現在も約2600人のユーザーがいます。当初は個人向けに提供しながら、医療機関に対して職員の離職や疲弊の要因を把握するサービスとしても展開していました。

──なぜ現在の事業へピボットしたのでしょうか。

看護師の方々と向き合う中で分かったのは、メンタル不調には勤務環境が大きく関係していることです。長時間のシフトや人間関係、慢性的な残業など、さまざまな問題があります。

業務改善や組織改善という方法もありますが、そもそも現場には人が足りず、改善する余裕すらありませんでした。社内の看護師とも「自分が現場にいるなら、本当に欲しいものは何か」と議論しました。

そこで出た答えは、アプリではなく「人」でした。人がいるかどうかで、現場の余裕は大きく変わります。まず働きやすい現場をつくる土台として、人が必要だと考え、メリーへのピボットを決めました。

たくさん勉強して目指していた看護師になったにもかかわらず、看護そのものではなく、働く環境を理由に辞めてしまう。さらに勤務先を変えても、構造的な働きづらさが残っていれば同じ問題が起こります。

せっかく積み上げてきた資格やキャリアを、環境の問題で手放さなければならないのは、非常にもったいないと思っています。だからこそ、一つの職場だけではなく、業界の構造そのものを変えられるものを提供したいと考えています。

「働いてみてから決める」──看護師と医療機関の出会いを増やす

──スポットワークをきっかけに本採用が決まった際に、医療機関から採用手数料を取らないモデルにしているのはなぜでしょうか。

医療機関のコスト負担を増やしたくないことに加えて、「気軽さ」を担保したいからです。

紹介会社や派遣会社の場合、転職活動中の方や、数カ月間派遣として働ける方など、候補者が限定されます。一方、「良い職場があれば転職したい」と考えている看護師さんも多くいます。

そうした方が、まず気軽に働いてみる。医療機関側も面接だと身構えず、実際に一緒に働きながら相性を見る。その方が出会いの数を増やし、ミスマッチも減らせると考えています。

──実際には、どのような看護師が利用しているのでしょうか。

さまざまですが、本業を持っている方は多いです。本業に加えて収入を得たい方もいれば、単発勤務を通じて次の職場を探している方もいます。

派遣から、より自由な働き方に移りたい方もいます。子育てなどでブランクがあり、職場復帰に向けて利用する方もいます。

また、看護師は病院からキャリアを始めるケースが多く、ほかの種類の施設を経験する機会があまりありません。「こういう施設でも働いてみたい」と、お試し勤務のような感覚で利用する方もいます。

──看護のスポットワーク市場を、どの程度の規模で見ていますか。

私たちの概算では、看護のスポットワークだけでも約6000億円の市場があると見ています。看護師の資格保持者は約200万人います。病院と介護施設だけでも全国に約3万拠点あり、クリニックや訪問診療、訪問看護などもあります。

イベント救護やツアーに帯同する看護師なども含めると、対象となり得る事業所は6万拠点以上あります。こうした場所と看護師のマッチングをさらに流動化できれば、大きな市場になると考えています。

病院単位から地域単位での人材共有へ──描く「メディカルリリーフ構想」

──メリーが普及したとき、看護業界はどのように変わると考えていますか。

一番は、業界全体の選択肢が増え、多様性が生まれることです。

これまでは、日勤と夜勤の両方ができる常勤の看護師が中心という考え方がありました。しかし人口が減る中で、その働き方を全員が続けられるわけではありません。妊娠や出産もありますし、年齢とともに体力も変わります。

そうした前提や常識自体を見直す段階に来ていると思います。実際、スポットワークを導入するために業務を整理した結果、「ここにはAIを入れよう」「ロボットを活用しよう」となった現場もあります。

スポットワークを受け入れて、「無理だと思っていたけれど、意外とできた」という経験が生まれると、ほかの新しい取り組みにも前向きになります。

業界全体の柔軟性が高まれば、看護師さんにとっては常勤以外の働き方やキャリアの選択肢が増えます。医療機関側にも、人材紹介会社から常勤を採用する以外の選択肢が生まれると思っています。

──その先に、メリーとして目指している姿はありますか。

まず目指しているのは、「看護のスポットワークといえばメリー」と言われる状態です。現在、看護師や医療機関の間で第一想起されるサービスはまだまだ確立されていないと考えています。

その先に実現したいのが「メディカルリリーフ構想」です。

医療業界には「リリーフ体制」という言葉があります。例えばA部署では人が足りない一方、B部署には少し余裕がある。その場合、B部署からA部署へ応援に行く。病院内では、こうした部署間の人員調整が行われています。

私たちは、このリリーフ体制を地域単位でも構築できると考えています。今後、病院や施設がそれぞれ単独で人材を確保することには限界が近づいています。そこで、「地域医療圏」という単位で医療機関が連携し、看護人材をみんなでシェアする。将来的には、そうした仕組みをつくることを目指しています。


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