フュージョンからVTuberまで──韓国VCが日本のスタートアップに投資する理由

フュージョンからVTuberまで──韓国VCが日本のスタートアップに投資する理由

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KEPPLE編集部
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IMM Investmentは1999年に設立された韓国のベンチャーキャピタルだ。運用資産総額(AUM)は77億米ドル超(2026年3月時点)にのぼり、ベンチャー投資からグロースエクイティ、インフラ投資までを手がける。これまで、韓国のユニコーン42社のうち半数以上に投資してきた。出資者(LP)は、公的年金や、政府系金融機関、金融機関投資家等が構成する。

2017年には初の海外拠点として日本に進出。日本法人のIMM Investment Japan株式会社が、ハードウェア・ディープテックとエンターテインメント・メディア・コンテンツの2領域を軸に投資してきた。

2026年8月には、日韓の投資家と組成したクロスボーダー型の「日韓フュージョンファンド」を通じ、フュージョンエネルギー企業・京都フュージョニアリングのシリーズDラウンドにリード投資家として参画した。同ラウンドには、製鉄・エネルギー・重工業・建設分野を手がけるPOSCO Holdings、POSCO International、Doosan、GS ENCなど韓国企業も出資している。

エンターテインメント分野でも動きは活発だ。同年4月には、VTuber事業を展開するBrave groupのシリーズEラウンド(総額80億円超)に、Kakao InvestmentやNHN JAPANなど韓国勢とともに出資した。

韓国のVCはなぜ日本に投資するのか。日韓のVC市場はどこが違うのか。日本での投資活動を率いる最高投資責任者の今泉東生氏と、プリンシパルの金範基氏に聞いた。

なぜ韓国大企業は日本のスタートアップと組むのか──日韓の投資家が京都フュージョニアリングにも出資

──韓国のVCとして日本のスタートアップに投資する理由と、そこで担う役割を教えてください。

今泉氏:韓国の金融投資家も事業会社も、日本のスタートアップへの関心はもともと非常に強いものがあります。事業会社はテクノロジーやサービスに、金融投資家はポートフォリオの分散先として、日本を組み込みたいと考えてきました。

ただ、その関心を実際の投資に結びつけ、日本市場にコミットしているプレイヤーは、これまで多くありませんでした。IMM Investmentにおいては、日本に拠点を構えて以降、日本人を責任者に据え、一件ずつ事例を積み上げていき、その積み重ねを基に、さまざまなお相手からお話をいただける関係を築いてきました。

私たちが担うのは、日本の技術・サービスと韓国大企業をつなぐハブの役割です。日本の技術・サービスを韓国側に紹介し、韓国大企業のニーズを日本側に還元する。その結節点でありたいと考えています。

韓国大企業とは、案件ごとに戦略投資家として招き入れる形で連携します。京都フュージョニアリングに投資した日韓フュージョンファンドは、その典型です。1999年から韓国で投資を続けるなかで築いた産業界との関係が、この座組みを可能としています。

 最高投資責任者 今泉氏
IMM Investment Japan 最高投資責任者 今泉氏

──投資対象を、ハードウェア・ディープテックとエンターテインメントに絞っているのはなぜでしょうか。

今泉氏:日本ではグロースキャピタルとして、投資案件一つ一つを大切に、着実に投資を成功させたいとの思いを持っています。そのため、現時点では、私共の強みである韓国大企業のネットワークを活用することで、投資先企業の成長確度を向上させられる領域にこだわって投資を行っています。

投資領域の選定の鍵になるのは、韓国大企業がグローバルで高いプレゼンスを持つ領域であるかどうかです。たとえば、韓国を代表する産業である半導体産業において、韓国大企業が我々が投資を検討している企業の技術・サービスに関心を寄せるようであれば、一気に当該技術・サービスが世界レベルに引きあがることを意味します。日本のスタートアップから韓国大企業に対する期待も、韓国大企業が持つグローバルなネットワークにあると感じています。

その発想の下、IMM Investment Japanでは、特にハードウェア・ディープテックとエンターテインメントの2領域における日韓大企業のプレゼンスに着目しています。

──エンターテインメント領域にも、同じ考え方が働いているのですか。

今泉氏:はい。エンタメは、日本と韓国で強みが噛み合う領域です。日本はキャラクターIPやアニメなど、作り手の思いを表現するような領域が強い。韓国は市場が何を求めているかを捉え、それに合わせて作り込む力が強い。

作り手の思いから広げる日本と、ニーズを起点に設計する韓国。両者の強みを掛け合わせれば、ビジネスは飛躍的に加速すると考えています。

私たち自身、韓国では「メディキューブ(MEDICUBE)」を展開する韓国のAPRや、BTSで有名なHYBE(投資時はBig Hit Entertainment)といった広く韓国消費者カルチャー関連企業に投資してきました。こうした知見とネットワークを、日本のスタートアップの支援にも生かしたいと考えています。

エンタメをもう一つの軸に据えたのには、上場戦略上の理由もあります。日本での上場を目指すなら、機関投資家だけでなく個人投資家にも振り向いてもらう必要があります。生活者に理解され、ファンがつく事業かどうかが重要になるのです。

──御社が組成した日韓フュージョンファンドは、京都フュージョニアリングのシリーズDラウンド調達でリード投資家を務めました。同社は韓国企業から、どのような期待を集めているのでしょうか。

金氏:京都フュージョニアリングは、各分野の有力機関やコアとなる機器メーカーと連携できる位置にあり、さまざまな産業情報が集まる企業だと認識しています。

フュージョンは、まだ開花していない産業です。これから核融合への参入を計画する韓国企業にとって、出資は、この新産業の技術動向や事業ネットワークに早くから接点を持つ手段になります。そうした期待が最も強いと見ています。

IMM Investment Japan  プリンシパル 金氏
IMM Investment Japan プリンシパル 金氏

セカンダリーと協調が根づく韓国のVC市場

──韓国と日本では、VC市場の成り立ちにどのような違いがあるのでしょうか。

今泉氏:VCを取り巻くエコシステムの形成という点では、韓国のほうが先行していると感じています。

韓国では1990年代後半から、政府主導でベンチャー企業を育成する仕組みが急速に整えられました。

1996年には中小・ベンチャー企業の資金調達を支える株式市場KOSDAQが開設され、1997年にはベンチャー企業育成に関する特別措置法が制定されました。その後、アジア通貨危機を受けて財閥の再編や産業構造の見直しが進むなか、政府は次の成長ドライバーを生み出すため、ベンチャー投資への資金供給や税制面での支援を強化しました。こうした土台の上で、2000年前後に第1次ベンチャーブームが起きています。

一方、同じ時期の日本では金融システムの安定化や不良債権処理が大きな政策課題となっていました。結果として、韓国では日本よりも早い段階でVC市場の規模が拡大し、投資から回収、再投資までを含むエコシステムが形成されていったと見ています。

──その先行は、いまどのような形で表れていますか。

今泉氏:たとえばセカンダリーファンドです。

韓国では2000年代初頭からVCの保有株式を買い取るセカンダリーファンドが組成され、20年以上にわたり市場が形成されてきました。

一方、日本でもセカンダリー取引自体は以前から存在していましたが、スタートアップ株式に特化したファンドの組成や市場整備が本格化してきたのは、ここ数年のことです※1

※1 日本では、2025年5月に施行された改正金融商品取引法により、未上場株のセカンダリー市場の整備が進み始めた段階にある。

──VC同士の関係性にも、違いがあるのでしょうか。

今泉氏:日本以上に、「みんなで勝っていこう」という協調の姿勢が強いように思います。一定のリターンが取れたら、次の投資家にディスカウントして譲る。こうした取引が慣行として定着しており、取引価格の透明性・妥当性も比較的高いと感じます。

背景には、それぞれの局面に必要なファイナンスに合わせたファンドが、体系的に準備されていることがあります。各プレイヤーが単独で動くのではなく、次の担い手と連携しながらスタートアップを支える。その体制ができているのが、韓国の特徴です。

アカデミア発の研究力が強い日本、量産とプロセスに強い韓国

──ディープテックの担い手にも、日韓で違いはありますか。

今泉氏:韓国では、大企業のR&D部門から独立したスピンアウトが多く見られます。応用的な技術やサービスを手がけていた人材が、自ら会社を立ち上げるケースです。

一方、アカデミアから何かを生み出そうという機運は、日本のほうが力を持っていると思います。基礎研究の層の厚さは、日本の強みとして残っています。

──その違いは、どこから生まれているのでしょうか。

今泉氏:韓国の大企業は、研究開発(R&D)のうち「D(Development=開発・量産)」に圧倒的な力を注いできました。技術をいかに大量に、安定して製品化するか。半導体や二次電池で世界を押さえてきた強みは、ここにあります。

一方、日本はアカデミアのシーズと連携しながら、「R(Research=基礎研究)」の層を厚く持っています。優れた技術の芽はあるものの、それを量産し、世界市場へ届ける出口が乏しいという課題を抱えがちです。

日本の「R」と韓国の「D」は、補い合える関係にあります。日本の技術を、韓国大企業の量産力と世界の販路につなげる。だからこそ、私たちのハブとしてのビジネスが成り立つのです。

──国や産業の戦略という点では、どうでしょうか。

金氏:韓国は、注力する領域を絞り込む傾向があります。AI、ロボティクス、半導体といった分野に資源を集中し、グローバルで一番を目指す。技術に対して政府系の資金が流れ、高いバリュエーションで資金調達が進む例も出ています。

一方、日本の強みは産業構造の側にあります。たとえば半導体では、装置や素材で高い競争力を持ち、どの陣営とも協力できる立ち位置にあります。周辺のサプライチェーンを固めるこの強みは、AIやフュージョンといった領域でも生かせます。

私たちが投資した京都フュージョニアリングも、その好例です※2。 特定の方式に依存せず、各社に基盤技術を供給する立ち位置は、まさにこの強みを体現しています。

※2 京都フュージョニアリングは、特定の核融合方式に依存せず、プラズマ加熱装置(ジャイロトロン)や燃料サイクル、ブランケットなど、核融合発電に不可欠な基盤技術・機器を、各国の研究機関やフュージョン企業に提供している。

──最後に、今後の展開を教えてください。

今泉氏:韓国大企業による、日本のスタートアップへの投資が、当初の想定を超えて進んでいます。韓国から日本へという流れがこれほど動くとは、正直、思っていませんでした。この流れを、さらに確かなものにしたいと考えています。

今後は、地域にも軸足を広げます。韓国の先端技術を受け入れ、地域の魅力を高めたいと考える自治体や地域金融機関が増えてきました。そうした地域のエコシステムと、韓国のエコシステムをつなぐ活動に力を入れます。

すでに福岡では、県の支援拠点「グローバルコネクト福岡」の活動の中で、日韓連携をテーマにしたイベントにも登壇しました。台湾企業との連携が進む九州では、地域金融機関とも組みながら、半導体や電子部品のスタートアップの海外展開を支援しています。

一つずつ、成功事例を丁寧に積み上げたい。仲間になってくれる方々とともに、日本と韓国のエコシステムをつなぐ結節点であり続けたいと考えています。

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