9000店舗が導入のデリバリー・テイクアウト向けシステム、9.5億円調達でマルチプロダクト戦略推進
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デリバリー注文の管理サービス「Camel(キャメル)」を運営するtacomsがシリーズBラウンドにて総額9.5億円の資金調達(あおぞら企業投資からのベンチャーデットを含む)を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドでの引受先は、XTech Ventures、大和企業投資、GMO VenturePartners、31VENTURES Global Innovation Fund 2号(グローバル・ブレインが運営)、NTTドコモベンチャーズ、三菱UFJキャピタルの6社。
同社が提供するCamelは、タブレット1台で複数のデリバリーサービスからの注文を一元管理できるプラットフォームだ。既存のPOSシステムと連携し、正確な売上管理と業務効率化を実現する。2021年5月の正式リリース以降、全国9000店舗以上が導入する。
11月6日には、独自の注文サイトの立ち上げや顧客が注文をする際に利用する画面の設定などを行うサービス「Camel Order」の正式リリースを発表した。飲食店が自社の注文サイトを手軽に構築できる新サービスとして、デリバリー業者への手数料削減にも貢献する。
今回の資金調達により、Camelシリーズのラインナップを増やし新たな事業領域の拡大を目指す。さらに、顧客管理やマーケティング支援などサービスの幅を広げていくという。
代表取締役CEO 宮本 晴太氏に、サービスの詳細や今後の展望などについて詳しく話を伺った。
大学生向けデリバリーをピボットして生まれた飲食店向けビジネス
―― 創業のきっかけを教えてください。
宮本氏:tacomsは学生時代に立ち上げた会社です。大学入学の当初から起業したいという思いはあり、先輩のスタートアップで働く経験もしました。それから自分でもやってみたいという思いが強くなり、2年生の時に起業に踏み切りました。
tacomsは「発明で、半径5mの人を幸せに」というミッションを掲げています。身の回りの、手触り感のある課題を解決できるプロダクトを作りたいという思いが強かったのです。まずは、大学のキャンパス周辺をターゲットにデリバリーサービスから始めました。学生として、学食の味や価格、ランチ時の混雑などを解決したいと思って。その後ピボットしてcamelの事業展開を開始しました。
―― なぜ現在の事業にピボットしたのでしょうか?
大学は一年のうち4か月ほどがお休みなんですよね。長期休みの期間は利用者数が落ち込みますし、さらにはコロナ禍でキャンパスへの人出も減ってしまいました。このままの事業運営が難しいと考えてピボットしたんです。
また、大学向けのデリバリーサービスを通じて、飲食店がオペレーションに苦しんでいるという話を聞きました。店舗での接客をしながらデリバリー注文も管理しなければならず、複数の注文システムを扱うことが大きな負担となっていることに気づいたのです。
コロナ後も残る中食文化 外食産業の基幹ビジネスに
―― 飲食店が抱える課題について詳しく教えてください。
コロナ禍の影響で、飲食店を取り巻く環境は大きく変化しました。従来のイートインに加えて、デリバリーやテイクアウトの需要が急増し、飲食店では人手不足の中でスタッフ教育や店舗管理などの負担がさらに増大しています。
多くの店舗は複数のデリバリーサービスを導入していますが、その分利用する注文管理や設定に必要なタブレットが増え、管理が煩雑になっています。機会損失を考えると、利用するデリバリーサービスを絞るわけにはいきません。電話やFAXでの注文も依然として行われており、管理がさらに複雑になっているのです。こうした問題は、個人店舗だけでなく大手チェーンにも共通する課題です。
多店舗展開している企業では、より深刻な問題が浮き彫りになっています。各店舗の売上データがクラウドで連携されていなかったり、リアルタイムでのデータ共有ができないため、本部での経営判断に必要な情報がタイムリーに把握できないのです。camelでは売上や注文情報も自動で連携し、店舗のオペレーションだけでなく経営にかかわる深い課題の解決を目指しています。
―― フードデリバリー・テイクアウトを利用する人はコロナ禍で大きく増えました。
フードデリバリー市場は2021年の緊急事態宣言下で急成長を遂げました。人々の生活様式が大きく変化する中で、デリバリーサービスは「新しい生活様式」の一つとして定着し、コロナが落ち着いた2023年においても右肩上がりの成長を続けています。
背景には、ここ数十年で進んだ大きな社会変化があります。女性の社会進出や単身世帯の増加により、従来の「自炊する文化」は徐々に減少し、その代わりとしてデリバリーやテイクアウトなどの中食が新しい食文化として定着しつつあります。そのため、外食産業においても中食需要は今後さらに高まるはずです。
企業によってはコロナ禍の期間、全店の売上の40〜50%をテイクアウトやデリバリーが占め、イートインの減少分を補いました。アフターコロナではイートインの回復に加えて、テイクアウトやデリバリーが約30%の収益率を維持しており、全店の売上はコロナ前を超える水準に達しています。消費者需要の多様化と働き手の減少が進む中で、生産性の向上は多くの企業がフォーカスして取り組んでいるポイントです。
既存デリバリーよりもお得に 自社サービス立ち上げ支援するCamel Order
―― 正式リリースしたCamel Orderについて教えてください。
Camelはこれまで、イートイン以外の店舗向けに生産性の向上やDX化などオペレーション改善のサービスを提供してきました。Camel Orderは自社で独自の注文サイトを立ち上げられるサービスです。アフターコロナでもデリバリー・テイクアウトの需要が継続する中で、店舗のデリバリービジネスの利益率改善を支援します。
コロナ後の店舗経営で飲食業界が頭を抱えているのが、デリバリーサービスの手数料率です。大手デリバリーサービスでは配達料・システム利用料・決済手数料などを含め売上の30〜40%もの手数料が発生するため、店舗の利益を圧迫してしまいます。
Camel Orderを活用した自社の注文サイトでは、受け取り店舗や日時を選択すると商品が選べるようになり、事前決済までできるようになります。クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパンなどの企業にご導入いただいています。
ポイントは、自社サイトでは商品価格をデリバリーサービスよりも安く設定していることです。自社で注文を受けるだけでなく、配達会社と連携することで各社デリバリーサービスと比較してお得に購入できるよう設計しています。
最近は、UberEatsの配達員がUberEatsアプリでの注文の配達だけでなく、企業の注文サイトからの配達も代行するようになっていて、フードデリバリー市場としては面白いフェーズを迎えていると感じています。
デジタル注文やCRMも Camelシリーズのラインナップ拡大へ
―― 資金調達の背景や使途について教えてください。
組織拡大を計画的に進め、プロダクトチームを中心とした採用を強化し、100名規模の組織を目指しています。また、「Camelシリーズ」と銘打っている通り、サービスラインナップも拡充していく予定です。
―― Camelシリーズはどのような拡大を構想しているのでしょうか。
これまでテイクアウト・デリバリー事業を中心に展開してきましたが、今後は培ったノウハウを活かして、飲食業界の中でのさらなる事業領域の拡大も目指しています。業界としての大きな課題はとにかく人手が足りないことです。デリバリー・テイクアウトに限らず、店内注文も含めて、「接客の質を落とさずにデジタルで注文できる」ようにプロダクトの幅を広げることが大きな方針の一つです。
もう一つ重要なのが、デジタルだからこそ得られる顧客情報の有効活用だと思っています。Camel Orderで自社サイトを立ち上げ、これまでできなかった顧客管理ができるようになったことは大きな躍進です。より顧客管理やマーケティング領域の支援までサービスの幅を広げていきたいと思います。
また、私たちの強みはパートナー企業との連携です。飲食店の現場では、一度にすべてのシステムを入れ替えることはなかなかできません。だからこそ私たちは、国内大手から個人向けまで、飲食店が利用する幅広いPOSレジメーカーと片っ端から連携しています。今後も強みであるパートナーとの連携を強化し、最大限の価値をお客様に提供しつつ成長を目指していきます。
―― 今後の意気込みをお願いします。
日本の外食産業は、全国に50万店舗もあり年間で25兆円近くの支出がある巨大な産業です。日本発でグローバルに競争力を持てる可能性があっても働き手がいない。産業を守りつつもテクノロジーで生産性を高められるよう、今後もチャレンジしていきたいと思います。