視覚障害者向け歩行ナビゲーションデバイス開発のAshirase、シリーズAで累計7.15億円を調達

視覚障害者向け歩行ナビゲーションデバイス開発のAshirase、シリーズAで累計7.15億円を調達

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視覚障害者の移動を支援する歩行ナビゲーションデバイス「あしらせ」を開発する株式会社Ashiraseは、シリーズAラウンドのファーストクローズとしてSBIインベストメント、ミライドア、本田技研工業を引受先とした第三者割当増資を実施し、累計調達額が7.15億円となった。今秋には追加調達も予定されている。

Ashiraseは2021年4月に設立されたスタートアップで、主力製品の「あしらせ」は靴に取り付ける小型デバイスとスマートフォン連携アプリを組み合わせて利用する。進行方向や曲がるタイミングなどを足元への振動で伝える仕組みで、視覚障害者が白杖や盲導犬による安全確認に集中できるように設計されている。音声ナビゲーションや地図アプリとは異なり、手や耳を塞がずに身体感覚を活用したガイダンスが特徴だ。このガイダンス手法は、視覚障害当事者による実体験とフィードバックを重ねて開発された経緯がある。

さらに、独自のアルゴリズムを用いて歩きやすいルートを提案し、横断歩道や交差点の情報を音声で案内するほか、過去の行動履歴をもとにしたマイルート登録やリコメンド機能も備える。近年はAIを活用した施設案内や画像認識による情報アクセシビリティ強化にも取り組んでいる。製品は2023年に先行販売され、ユーザーからのフィードバックをもとに改良を加えた「あしらせ2」の量産を2024年10月に開始する予定となっている。家電量販店での取り扱い拡大や法人導入も進展している。

代表の千野歩氏は本田技研工業出身で、新規事業創出プログラム「IGNITION」を通じて同社から事業をスピンアウトさせた。自動運転システム関連の研究開発経験を活かし、「歩行」を人間にとってのモビリティと再定義し、福祉領域での社会課題解決を志して起業した。創業のきっかけは家族の死亡事故にあり、視覚障害者の単独歩行時に潜在するリスクへの問題意識が事業着想の原点となっている。

視覚障害者の移動支援をめぐる業界全体の課題として、外出や通勤、日常の移動が依然として大きな障壁となっている現状がある。少なくとも22億人が近視または遠視の視力障害を抱えているとされており、日本国内でも高齢化に伴う増加が見込まれている。白杖や盲導犬などの従来手段は一定程度普及しているが、公共交通機関や商業施設を安心して単独利用できる環境は十分とは言えない。同行援護制度など社会的サポートにも限界があり、デジタル技術やIoTを活用した補助具への期待が高まっている。

競争環境としては、音声ナビゲーションアプリや障害物検知ウェアラブルデバイス、屋内外で使える独自ナビアプリ、触覚フィードバック機器など多様なサービスが展開されている。海外ではスペイン発の「NaviLens」などスマートシティ連携型アプリが公共交通や商業施設での導入を進めている。一方、日本市場では公共領域での実証が進むものの、実用化・普及に至ったソリューションは少ない。

今回調達した資金の主要な使途は2点である。第一に、2025年度内の欧州展開開始を見据えた規格取得や組織体制強化が挙げられる。人材採用や現地パートナーシップ構築、現地法規格への対応準備を本格化させる。第二に、製品・サービスのユーザー体験向上で、屋内外問わず高精度な歩行位置測位や地図データ拡充によるルート生成の最適化、生成AIを活用したユーザーフレンドリーなUI開発が計画されている。既存ユーザーのフィードバックを踏まえ、ハード・ソフト両面での進化を進める。

企業導入の動きも加速しており、2025年5月にはNTTデータだいちへの導入が決定した。視覚障害のある従業員の通勤や社内移動の支援を目的としたもので、職場環境のアクセシビリティ向上施策の一環となる。大企業や自治体との連携を通じた大規模導入の事例も増加傾向にある。

Ashiraseは2022年にグッドデザイン賞金賞、2023年にCES Innovation Awardを受賞するなど、外部からの評価も得てきた。一方で、ユーザー検証を重ねたうえでの社会実装拡大と海外市場参入が今後の課題となる。

本件は、国内スタートアップによる福祉分野でのスケーラビリティやグローバル展開の動向を示す事例となっている。今後は法規制やインフラ連携、ユーザー主導のプロダクト開発、企業や自治体との連携モデルの拡大など、多様な観点からの取り組みが求められる。

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