本記事では、株式会社ケップルのアナリストが作成したレポート「【独自調査】宇宙産業の成長を牽引するスタートアップ」の内容を基に、近年参入が増えている民間企業による宇宙事業について触れる。本記事では、当レポートで解説されている17種類のカテゴリーのうち、3つのカテゴリーを抜粋して紹介する。
KEPPLE REPORTをダウンロードすることで以下の情報をご覧いただけます。
・アナリストによる17種類のカテゴリー別宇宙関連産業の詳細な解説
・国内外のスタートアップ135社を分類したカオスマップ
・国内外のスタートアップ135社の詳細な情報
フォームより情報を登録いただくことで、レポート全文をPDFでご覧いただけます。
フォームはこちら
宇宙市場の動向
冷戦時代を皮切りに活性化した宇宙産業は現在も成長し続けている。宇宙関連のビジネスを行う企業は世界全体で約1万社を超え、その企業価値総額は4兆ドルを超える※1。
米ソ対立のなかで両国は互いに技術力の優位性を示すために宇宙開発競争を激化させていた冷静時代、民間企業はNASAを始めとする宇宙機関や軍から委託を受け、宇宙機関の計画に沿って開発を進める仕組みを採用していた。このように政府や宇宙機関が主体的に動き、民間企業は受動的に委託を受けて宇宙開発を行うといった従来型の宇宙開発のことをオールドスペースと呼ぶ。
その一方で、近年では民間企業が独自に宇宙開発に取り組んで利益を出すニュースペースが拡大している。ニュースペースでは、サービスの方針は企業が主体的に決めることができ、宇宙機関が必要に応じて技術や製品を買い上げる。ニュースペースが拡大している背景には、米国の実業家であるJeff Bezos(Blue Originの創設者)や、Elon Musk(SpaceXの創設者兼CEO)などの富裕層の貢献、制度・技術の発展がある。
世界の宇宙市場
衛星通信など宇宙空間を活用したサービスが普及し、新しい宇宙ビジネスも誕生している。そのなかでも、世界の宇宙ビジネスを主導するのはSpaceXをはじめとする米国企業である。国別の企業数では、米国が約5600社で世界の企業数の半数を占めており、2位の英国の約10倍に達している。日本は約180社で世界第9位だ※2。
米国が他国を大きくリードしている背景には、①政府とNASAによる企業支援が活発な点、②前例が少なくチャレンジングな宇宙ビジネスに野心的な起業家が多い点、③宇宙領域では投資家もリスクを取る風土があり、宇宙産業ではVC投資が大きな影響を及ぼしている点※3などがあげられる。
一方、これまで国家主導で独自路線の宇宙開発を進めてきた中国では近年、東京大学など他国の機関と国際協力をする動きが目立っている。2019年の月面着陸の成功や2023年からの宇宙ステーションの運用など、将来的に宇宙開発でトップを走る米国を脅かす存在になりうる。
日本の宇宙市場
2022年時点での日本の宇宙産業の市場規模は約1.2兆円であり、政府は2030年代には倍
2.4兆円を目標としている※4。2022年度補正予算を含む2023年度の宇宙関連予算案の総額は6,119億円と、2022年度に比べ900億円増加した※5。
日本の宇宙スタートアップの数は欧米と比較して少なく、活躍をみせる国内の大手宇宙スタートアップも宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共創する企業がメインとなっている。こうした現状に対して、政府はスタートアップを後押しする施策や今後20年を見据えた10年間の宇宙政策の基本方針「宇宙基本計画」を作成している。
2022年では、日本の人工衛星の打ち上げロケットの成功回数はゼロである一方で、世界では過去最多を記録するなど、官民いずれも米中と比較して後れをとっていると言えるだろう。今後のさらなる躍進に期待したい。
カテゴリー別の宇宙産業の動向
「【独自調査】宇宙産業の成長を牽引するスタートアップ」では、宇宙産業を17のカテゴリーに分類して解説している。それぞれ、衛星開発・製造、衛星部品・付属品、衛星通信、衛星データ、衛生管理、ロケット開発・打ち上げ、軌道間輸送、宇宙ステーション、宇宙港、デブリ対策、宇宙ロボティクス、資源開発、宇宙船開発、宇宙事業支援、エンタメ、バイオテクノロジー、その他、である。
本記事では、衛星開発・製造、宇宙港、デブリ対策について触れる。
①衛星開発・製造
宇宙産業の市場規模をセグメント別にみてみると衛星産業が7割以上を占めており※6、自動運転やIoTサービスの普及を背景として人工衛星の活用は世界的に拡大していることがわかる。
世界で打ち上げられた人工衛星の数は、2021年では1809機で、10年前の打ち上げ数の14倍となる。これまで世界で約1.3万機の人工衛星が打ち上げられており、国別では米国が6198機と全体の半数を占め、次いでロシアが3620機と約3割を占める。日本はこれまで301機の打ち上げを行っており、世界で5番目の打ち上げ数であるが比率では2.3%と小さい※7。
こうした衛星需要の高まりによって、国内では大学発のスタートアップが複数誕生したり、米国では独自技術を活用した小型衛星の開発と運営を行うユニコーン企業が台頭したりしている。
なお、KEPPLE REPORTでは、これらの企業を紹介するだけでなく、衛星に関連したカテゴリーとして、衛星部品や衛星通信、衛星データ活用の分野を詳細に解説している。
②宇宙港(スペースポート)
ロケットの打ち上げを行う施設を意味する宇宙港(スペースポート)では、年々増加する衛星の打ち上げ数に対して、将来的に宇宙港が不足するのではないかと懸念されている。
新規の宇宙港を建設しづらい点として、建設条件の難易度の高さが挙げられる。宇宙港を建設するには、平坦で広い敷地であり、周囲への騒音や震動が問題視されず、かつ気象条件や物資の運搬のためのアクセスが良いといった幾つかの条件をクリアする必要がある。
また、宇宙港の運営母体の大半は公的組織や非営利団体であり、営利目的の企業は少ない。国内では一般社団法人や株式会社が宇宙港を運営していたり、海外では政府からの支援を受けながら海上の浮遊発射台を開発する企業が存在する。
③デブリ対策
スペースデブリ(宇宙ゴミ)とは、軌道上にある不要な人工物体を指し、故障したり運用を終えた人工衛星、打ち上げロケットの上段や放出された部品、破片などが含まれる。現在、地上から追跡されている10cm以上の物体が約2万個、1cm以上は50~70万個、1mm以上は1億個を超えるとされており、将来の宇宙活動の妨げになることが危惧されている※8。
衛星の急増により、2022年には稼働中の衛星とデブリとのニアミスが前年の3倍にあたる月間約6000回に上ったとする報告もあり※9、喫緊の課題として対策が求められている。世界の宇宙デブリモニタリング・除去の市場規模は、2022年は9.5億ドル、2028年には16億ドルと予測されている※10。
デブリ除去に特化した企業は未だ世界でも少ないが、国内でも世界各国の企業や政府から累計400億円を超える資金調達を行う企業が存在する。また、スイスにもロボットアーム技術を活用してデブリを除去する企業が誕生するなど、今後も注目すべき分野となっている。
おわりに
これまで国家事業としての側面が強かった宇宙産業だが、ニュースペース化に伴って国内外で民間企業、特にスタートアップやベンチャー企業が台頭し始めた。それに伴い、投資活動も以前に増して活発化している。今後も宇宙産業市場は成長することが見込まれ、目が離せない。
KEPPLE REPORTでは、今回触れた3つのカテゴリーの他に、14のカテゴリー別の詳細な解説、および国内外のスタートアップ135社を調査し、カオスマップとしてまとめている。より詳細なスタートアップ情報に関心のある読者はぜひご覧いただきたい。
==========
参考:
※1 ForbesJapan 「宇宙関連企業は世界に1万社、企業価値の合計は430兆円に」
※2 PwC 「日本企業の宇宙ビジネスの可能性―序論―」
※3 BryceTech 「Start-Up Space Report 2023」
※4 経済産業省 製造産業局宇宙産業室 「第1回宇宙産業プログラムに関する事業評価検討会 中間評価/終了時評価 補足説明資料」
※5 内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 「令和5年度当初予算案および令和4年度補正予算における宇宙関係予算」
※6 Satellite Industry Association 「State of the Satellite Industry Report」
※7 日本経済新聞 「国産ロケット、再点火へ 22年打ち上げ成功ゼロ」
※8 ファン!ファン!JAXA! 「宇宙ごみ(スペースデブリ)って何?」
※9 ForbesJapan 「「未来を拓くイノベーションTOKYOプロジェクト」が後押し。アストロスケールの“宇宙版交通インフラ”が「ごみだらけの宇宙」を救う」
※10 Global Information 「宇宙デブリモニタリング・除去の世界市場予測(~2028年)」