温泉に生息する微細藻類が地球環境を改善、ガルデリアが目指す循環経済の実現

温泉に生息する微細藻類が地球環境を改善、ガルデリアが目指す循環経済の実現

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KEPPLE編集部

微細藻類はその小さな個体に多くの可能性を秘めており、現代社会のさまざまな課題に対する解決策として注目を浴びている。二酸化炭素の吸収や水質浄化など環境保全に役立つことや、バイオマスエネルギーの原料としても期待されているほか、食品や飼料にも利用され始めている。

日本では、環境問題に関する調査研究を行うために、環境庁(現在の環境省)の施設等機関から独立行政法人として発足した国立環境研究所にて、約950種、3000株を超える藻類と原生動物が保存されており、藻類保存の中核機関として活動している。また、微細藻類の産業利用と関連技術の発展を推進することを目的として設立されたIMAT基盤技術研究所では、微細藻類の栽培技術や収穫技術、微細藻類を原料としたバイオマスエネルギーの開発、食品の開発などが進められている。

国⽴研究開発法⼈新エネルギ ー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)も、IMAT基盤技術研究所の支援や微細藻類の分離技術の開発、微細藻類の生産技術の開発など、微細藻類に関するさまざまな取り組みを行っている。

政府による微細藻類研究への支援が進む中、微細藻類「Galdieria」(以下、ガルディエリア)の研究開発に取り組む株式会社ガルデリアが、シリーズBラウンドにて、第三者割当増資などによる2.5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回のラウンドでの引受先は、みやこキャピタル、環境エネルギー投資と個人投資家。

同社は、NEDOのディープテック・スタートアップ支援事業PCAフェーズに採択され、さらに約3億円の開発費支援を受けたことも合わせて発表した。

ガルディエリアは、その特性から貴金属回収、食品色素、環境浄化など多岐にわたる応用が期待されている。同社は、今回調達した資金により、ガルディエリアの生産能力向上のための新規工場の設立、貴金属吸着剤の商用化および食品事業への参入、人材採用の強化を進める。

貴金属リサイクルから食品応用までの多彩な可能性

ガルディエリアは温泉に生息し、培養効率が高い硫酸性温泉紅藻だ。高温、高酸性、高CO2など過酷な環境下でも生育可能で、生物汚染に強く、高いバイオマス量を実現する。溶液中の微量な貴金属の吸着・回収が可能だ。

同社は、ガルディエリアの特性を活かし、既存の技術では達成できない高感度で環境負荷の低い貴金属吸着剤を開発した。都市鉱山(貴金属リサイクル)および天然鉱山での応用を目指し、国内外合わせ10 件以上の PoCプロジェクトを通じた商用化への最終段階を迎えている。
ガルデリアの金属吸着技術

都市鉱山における貴金属回収プロセスイメージ


また、ガルディエリアは、大豆と同等レベルの必須アミノ酸、グリコーゲン、青色色素、エルゴチオネインなど、多くの有用物質を含むことがわかっており、同社は食品や医薬品などへの応用も検討している。

2023年10月時点で、貴金属リサイクル、金属回収技術を中心に9件の特許を取得済みであり、その他10件以上が申請中である。

代表取締役CEOの谷本 肇氏は、2000年に企業向け情報共有ソフトを開発提供するリアルコムを創業し、2007年に東証マザーズに上場。その後同社を退職し、2013年にベンチャー支援、大企業のオープンイノベーション支援を行うテネクスを創業した。そして、2015年にガルデリアを共同創業したシリアルアントレプレナーだ。

今回の資金調達に際して、谷本氏に今後の展望などについて詳しく話を伺った。

環境問題を解決へ導く金属吸着能力

―― これまでの貴金属リサイクルや、天然鉱山での金回収にはどのような課題がありましたか?

谷本氏:都市鉱山による貴金属の回収とリサイクルは、サステナビリティや経済性の観点で、天然鉱山より優れています。しかし、現行の技術では、必要な貴金属だけを完全に回収することができず、十分なリサイクルを行うことができていません。例えばパラジウムの回収は、世界の4割を生産しているロシアによるウクライナ侵攻により、安定価格、安定供給が不透明となっている中、資源が限られている日本にとって重要な課題となっています。

また、金、銀、白金、パラジウムなどの貴金属を天然資源のみに頼った場合、2050年には世界中の資源が堀り尽くされてしまうとの予測もあり、都市鉱山におけるリサイクル技術の進歩は世界的にも喫緊の課題だと言えます。

一方、小規模天然鉱山(ASGM)は、世界の金の算出の20%、約3500億円の市場規模を担っています。しかし、ASGMは大量の水銀やシアン化合物を触媒として使用し、その過程で環境問題を引き起こしています。海外には、労働環境が劣悪な無許可の採掘場も多く存在し、約1500万人の労働者が水銀による深刻な健康被害と環境被害を受けています。

水銀は蒸発すると大気中に広がり、川や土壌に溶け込むため、最終的には人間がそれを摂取する恐れがあり、大気汚染や水銀中毒の原因にもなっています。現在も、毎年約300万人から650万人の労働者が慢性の水銀中毒と診断されています。

水銀は「世界で最も有害な化学物質 Top10」に指定されている、取り扱いに注意を要する物質ですが、ASGMは世界の水銀需要の20%以上を占め、水銀による大気汚染の原因の40%以上を占めており、ASGMでの水銀利用量の低減は、そのまま世界の水銀汚染軽減につながる、重要な課題となっています。

―― 御社が着目したガルディエリアの特徴について教えてください。

当社は2015年の創業以来一貫してガルディエリアの研究開発を行ってきました。ガルディエリアは、高温、高酸性の環境でも生育することができ、光があれば光合成が可能で、暗い条件下でも栄養源があれば生育します。その培養効率は非常に高く、極限的な環境にも強いため、工場の排熱やCO2などの排ガスを再活用して培養することが実現可能です。また、生物汚染に強く、他の種類に比べて培養が迅速で、かつ設備コストを安価に抑えられるということが特徴です。

そして、その細胞壁の特性により、金属を吸着することに優れているため、金属吸着剤としての活用が可能です。これにより、工場廃液など酸性の溶液に溶け込んでいる金やパラジウムを効果的に回収することができます。また、ASGMでは水銀やシアン化合物に代わる金回収の新手法として応用できます。すでにケニアとフィリピンの鉱山で実証実験を進めています。

ガルディエリアを使用した新手法

小規模天然金鉱山(ASGM)における金回収手法


さらに、ガルディエリアには必須アミノ酸やグリコーゲンなどが豊富に含まれており、健康食品や化粧品としても利用できることも大きな特徴のひとつです。2030年にタンパク質の需要が供給を上回るだろうと予測される「プロテイン危機」といった食糧問題の解決策としても有効活用できると考えています。

―― ガルディエリアの研究開発による事業をはじめられたきっかけについて教えてください。

ガルディエリアは研究対象としてはよく知られている藻類ですが、商業化は進んでいませんでした。当社の共同創業者で技術顧問を務める丸 幸弘博士のラボの先輩が長く藻類の研究をされているのですが、ガルディエリアの金属吸着能力に着目され、同じく藻類研究者であった丸博士に相談されたのが最初のきっかけです。そして、これは面白いということで、丸博士から私に共同創業の相談を持ちかけてくれました。ガルディエリアの特性はユニークであり、オンリーワンの技術を生み出せると考え、事業化に至りました。

ガルデリア 代表取締役CEO 谷本肇氏

代表取締役CEO 谷本 肇氏

世界的な循環経済の実現へ

―― 御社の技術が普及した先には、社会にどのようなメリットがあるのでしょうか?

天然鉱山での環境問題の解決は先述の通りですが、都市鉱山におけるリサイクルの促進によって、循環経済の確立にも結びつくと考えています。

電子部品などからの貴金属のリサイクルは世界的にもまだ十分に行われておらず、その回収率は12.5%という調査結果が報告されています。日本でも40%ほどしかリサイクルされておらず、この状況が続けば2050年までに天然資源が枯渇してしまいます。そのため、金属のリサイクル率を高めることで、資源枯渇を防ぐことは環境保全や循環経済の実現につながります。さらに、資源を海外に頼っている我が国においては、経済安保の向上にもつながると言えます。

また、工場や発電所などの排熱や排ガスを活用してガルディエリアの光合成培養を加速化させることが可能で、エネルギーの効率利用とともに、CO2排出量削減ができるため、地球環境の改善にも役立ちます。

さらに、高品質食品への応用が実現すれば、食糧問題の解決のための有効手段となります。すでに一部述べましたが、ガルディエリアは必須アミノ酸を多く含み、そのレベルは大豆と同等です。植物由来のユニークなグリコーゲンも豊富です。エルゴチオネインという抗酸化作用の強い有用成分も含まれており、美肌や老化防止、アルツハイマー予防などの効果も期待されています。ぜひここも開発を進めていきたいと考えています。

ガルデリアが取り組む社会課題
―― 調達資金の使途について教えてください。

まずは、ガルディエリアの生産能力向上のための新規工場の建設を計画しています。現在は、鶴見にあるパイロットプラントで月産200キロの乾燥粉末を生産していますが、新規工場建設後は10倍から20倍の生産量を目指しています。そして、食品生産を行うための基準をクリアできる工場とする予定です。

さらに、ビジネス事業開発や研究開発の人材採用も積極的に行っていきますが、組織を急拡大するというよりは、カルチャーをしっかり浸透させながら、付加価値の高い仕事を実現できる環境づくりに取り組んでいきます。

―― 今後の展望についてお聞かせください。

まずは、都市鉱山での本格的なビジネス展開を目指しています。需要に対応する供給体制を整えるためにも、ガルディエリアの生産工場の建設をできるだけ早く進めます。その後、1-2年以内には食品の企画と製品の開発に取り組み、同時に海外の天然鉱山での成功事例を作ることも計画しています。そして、2年後には本格的なグローバル展開を進めていきたいと考えています。

藻類はこれまで主として学術研究の対象として扱われてきました。しかし、実際には地球環境改善や食糧問題の解決に活用でき、社会貢献につなげることができます。ニッチな領域ではありますが、次の世代によりよい地球環境を残し、持続的で意義のある仕事を経験できる私たちのビジネスに、多くの方々に興味を持っていただけたら嬉しいです。

株式会社ガルデリア

株式会社ガルデリアは、微細藻類「ガルディエリア(Galdieria)」の研究開発に取り組む企業。 硫酸性温泉紅藻であるガルディエリアの特性を活かし、工場廃液などから、金(Au)、パラジウム(Pd)などの貴金属を吸着・回収する、高感度で環境負荷の低い貴金属吸着剤を開発した。この技術により、貴金属のリサイクル率を向上させ、「バイオ素材による環境に優しい都市鉱山事業」の実現を目指している。また、この貴金属吸着剤を小規模天然鉱山(ASGM)において、水銀やシアン化合物に代わる金回収の新手法として応用するため、実証実験を進めている。

代表者名谷本肇
設立日2015年10月1日
住所東京都中央区日本橋浜町2丁目4番2-709号
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