監査法人向けAI証憑突合システム「ジーニアルAI」を手掛けるジーニアルテクノロジーがシードラウンドにて、第三者割当増資による6000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドでの引受先は、インキュベイトファンド。
調達した資金はエンジニアの採用に充て、「ジーニアルAI」の開発を加速し、大手監査法人向けにグローバル規模での導入を目指す。
AIの力により人間的でクリエイティブな業務に集中
「ジーニアルAI」は、監査法人向けに証憑突合(※1)を自動化する自己学習型の監査ツールだ。
(※1)証憑突合とは、取引の証拠資料となる書類を監査人自ら他の資料・記録と照合してその事実や記録の妥当性を検証する手続き
昨今、上場企業におけるコンプライアンス遵守や情報開示の透明性が強く求められ、監査法人の役割に期待が集まっている。一方で、未だ会計監査において紙ベースの資料にもとづく手作業が多く残っており、作業効率の面で課題を抱えている。その中でも特に、証憑突合作業が監査手続全体に占める割合は大きい。
「日本の上場企業の中でも、連結売上高1兆円以上の企業の年間監査時間は平均2万時間という統計があります。公認会計士試験合格者は増えているものの、IPOもどんどん件数が増加し監査が追いつかず、常に人材が不足しています」とジーニアルテクノロジー代表取締役CEO の阿部川明優氏は課題を指摘する。
同社が提供するジーニアルAIは、SaaSクラウドのソフトウェア。注文書、納品書、請求書などの会計記録の根拠となるさまざまなPDF書類をAI-OCR(※2)で読み取る。それらと売上などのエクセルデータを自動的に突き合わせて検証し、結果をダウンロードすることができる。これにより監査時間を削減できる。
(※2)AI-OCRとは、AI技術を活用したOCR(画像データからテキスト部分を認識し、文字データに変換する光学文字認識機能)の仕組みやサービス
今後はより多くのデータ検証を自動化することで、監査時間全体の40%以上の削減を目指している。監査現場の突合作業の負担をAIで減らし、会計士が経理部とのコミュニケーションや監査計画の立案など、人間しかできない創造的な業務により集中できるようにする。
今回の資金調達に際して、代表取締役CEO 阿部川氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
プログラミングと会計を掛け合わせ、AI同士で監査をする
――会計士でありながら、エンジニアというキャリアはどのように形成されたのでしょうか?
阿部川氏:私はもともと学生時代から趣味でプログラミングをしていました。大学時代に起業を見据えて公認会計士試験に合格した後、ITに関する事業に携わりたいと考え、システム監査のできるPwCあらた有限責任監査法人に就職しました。システム監査のなかでCAATという監査手法を活用し、一定の条件で取引データを抽出するなど監査法人でもプログラミングをしていました。
――ジーニアルAIをはじめようと思ったきっかけを教えてください。
監査用ツールは活用するものの、黙々とチェックリストを埋める単純作業は残っており、苦労して資格を取得した会計士がやるべき仕事ではないと感じていました。監査では国際基準が設けられているのですが、年々基準が厳しくなっています。それに伴いチェックリストの項目数が増加し、監査業務の負担も増えてきました。私の同期の5人中4人は会計士を辞めています。監査を面白いと感じられるような業務に携わる時間が年々少なくなっていることが背景にあると思います。
そこで私は、人間的な創意や判断を必要とする業務に専念したり、会計のルールをどのように適用するかの検討したりする業務に時間を割ける社会にしていきたいと思い、この事業をはじめました。
―― 今後、ジーニアルAIをどう進化させていきますか?
現在のジーニアルAIは、ブラウザからアクセスするウェブアプリです。これをブラウジングなしでエクセル上で使えるようにする予定です。監査法人の会計士は1日の80%の時間をエクセルを使用して作業します。ジーニアルAIをエクセル上で使うことができれば、アプリ間のスイッチングコストを削減することができます。
そして長期的には、監査業務を包括的に支えるAIプロダクトを開発し提供することが目標です。今後監査業務は大きく変わっていくと予想しています。監査される側の上場会社の会計業務のAI化や自動化に伴い、その自動化された業務のチェックもAI化していかなければなりません。それらが自動的に連携することでAI同士で監査を行うことができます。不一致が発生した箇所については、事業会社の経理部の方と監査法人の会計士が面と向かってコミュニケーションをすることで解決していきます。
つまり、単純な業務やマニュアル通りのチェックについては全て自動化され、残りは判断だけという状況になります。この中で、私たちが監査法人側のAIを開発提供することを目指していきます。
自然言語処理の専門家とともに磨いていくプロダクト
――顧客層も拡大していますね。
今後は、大手企業だけではなく中小企業にもジーニアルAIを導入いただきたいと考えています。ジーニアルAIは案件ごとに価格設定していますが、中小企業でも導入いただきやすい競争力のある価格になっています。入力作業とチェック作業、両方の自動化にぜひ活用いただきたいです。
開発のための人材採用も強化していきます。ジーニアルテクノロジーには優秀なエンジニアが在籍しています。エンジニアリング・アドバイザーの阪本は、東京大学の世界史の論述模試で受験生の平均点を超えるAIシステムを開発した経験のある、自然言語処理の専門家です。このようなメンバーのいる環境に魅力を感じられた方は、ぜひ応募していただけたら嬉しいです。
株式会社ジーニアルテクノロジー
株式会社ジーニアルテクノロジーは、会計監査手続きにおける証ひょう突合を自動で処理する『GenialAI』を提供する企業。 『GenialAI』は、会計取引に使用した契約書、注文書、出荷伝票、請求書、入金記録などの証ひょうと、対応するExcelデータをアップロードすると、自動で突合処理を行う。突合結果は、Excelファイルとしてダウンロードすることや、詳細を確認することができる。 同サービスは、会計監査手続き以外にも、データ入力チェックや、本人確認などのコンプライアンス手続きなどにおける、書類とExcelデータの突合にも使用できる。
代表者名 | 阿部川明優 |
設立日 | 2019年7月1日 |
住所 | 神奈川県平塚市紅谷町8番16号 |