原子・分子レベルで“質”を可視化するセンシング技術——ASEMtechがシリーズAで2.5億円を調達、医療機器実用化へ本格始動

原子・分子レベルで“質”を可視化するセンシング技術——ASEMtechがシリーズAで2.5億円を調達、医療機器実用化へ本格始動

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東京農工大学発スタートアップのASEMtech株式会社は、シリーズAラウンドで2.5億円の資金調達を実施した。調達方法は第三者割当増資で、出資にはみらい創造インベストメンツ、BPキャピタル、レオ電子、クオンタムリープベンチャーズが参加。

ASEMtechは、音響誘起電磁法(ASEM法)という新原理を用いたセンシング技術を開発している。超音波により生体や産業材料に誘起される微弱な電磁信号を検出することで、分子配列や結晶構造といった“質”の情報を非侵襲かつ定量的に可視化できる。

ASEM画像
生体組織の圧電効果を利用し、組織学的な性状情報を可視化・定量化する超音波画像診断機器を提供(画像は公式HPより)

医療分野では、整形外科領域を皮切りにコラーゲンの配向性や蓄積状態を評価する技術として注目されている。靱帯や腱、骨などの運動器組織の機能回復度や変性状態を測定することで、スポーツ選手の復帰判断や、膝関節変形症、骨粗鬆症などの疾患に対する早期診断や進行度評価に役立てられる。国立大学病院を中心に、複数の医療機関と臨床研究に向けた調整が進められており、薬事申請は早ければ2年以内、遅くとも3年以内の実施を目指している。

産業領域では、橋梁や鉄鋼構造物、EVモーター、重機などの非破壊検査機器としての応用が進んでおり、一部ではすでに導入が始まっている。先端素材であるカーボンファイバーやセルロースファイバーを対象とした研究開発も進行中で、今後は航空宇宙や自動車などの分野にも展開が期待される。

代表取締役の生嶋健司氏は、2005年にASEM現象を初めて報告。長年の研究と応用開発を経て、2018年以降は医療分野への応用にシフト。2023年にASEMtechを創業した。創業の原点には「MRIのような精度で、より安価かつ簡便な診断手法を届けたい」という思いがある。

代表  生嶋健司の画像
代表取締役 社長 生嶋健司(左)、副社長 新実信夫(右)(画像はプレスリリースより)

同社の装置は、従来の同等目的の装置と比べて低コストで提供されている点も特長である。価格帯については個別の協業内容や構成に応じて柔軟に調整される。販売は基本的に買い切り形式を前提としつつも、顧客の要望に応じて解析支援などのサービスも併用する形で、柔軟なマネタイズモデルを構築している。

医療機器分野では、販売に加えレンタルやサブスクリプションモデルの導入も検討中である。ただし、日本の薬機法や医療現場の実情を踏まえた対応が求められることから、ヘルスケア機器との棲み分けを視野に入れて展開していく方針だ。

海外展開も視野に入れており、特にアジア諸国における導入可能性が高いと見ている。さらにスポーツ医療分野でのグローバル展開や、難病領域への特化によるニッチ市場からの展開戦略も構想している。

中長期的には、特定疾患向けに最適化された装置から始め、将来的にはさまざまな診療科に対応する汎用型のセンシング装置として確立することを目指している。MRIやCTと並ぶ新たな医療診断モダリティとしての定着が目標である。

生嶋氏は、「クリニックレベルで高精度な質的評価が可能になれば、医療格差の是正にもつながる」と語っており、より広範な社会実装を見据えて開発と事業展開を進めていく方針だ。

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