畜産とヒトの不妊治療にリンパ管再生技術で挑む――LYMPHOGENiXが25万ポンドを資金調達

畜産とヒトの不妊治療にリンパ管再生技術で挑む――LYMPHOGENiXが25万ポンドを資金調達

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バイオベンチャーのLYMPHOGENiX Limitedは、第三者割当増資によって約25万ポンド(日本円で約4,700万円)のプレシード資金調達を実施した。調達した資金は、畜産動物向け不妊治療製品の2026年臨床応用、およびヒトの子宮内膜線維症による不妊治療製品の2028年臨床応用の加速に充てられる。LYMPHOGENiXが注力するリンパ管再生技術は、不妊治療と環境負荷軽減という複合的な社会課題の解決を目指している。

LYMPHOGENiXは2024年5月に設立された。社名は「リンパ(Lymph)」と「発生(-genesis)」を組み合わせたものであり、再生医療と生殖医療の技術社会実装を目標に掲げる。独自の細胞活性化技術を、乳歯歯髄幹細胞(SQ-SHED、S-Quatreが開発)に適用し、リンパ管再生を誘導する細胞外因子製剤(培養上清液)の開発に取り組んでいる。開発中の「Vessely」は、子宮内膜環境を根本から改善し、ヒトおよび家畜の不妊症治療をホルモン依存せず実現することを目指している。

LYMPHOGENiXの事業は、治療薬の開発、共同研究、研究用試薬の提供など多岐にわたる。畜産分野とヒト向け生殖医療分野を横断し、企業や研究機関との連携も視野に入れている。同社によれば、リンパ管再生によって子宮内膜の免疫バランスや線維化の改善が期待でき、これが着床率向上や治療負担の軽減につながるという。培養上清液を用いた非侵襲的な治療法であり、従来のホルモン依存治療とは異なるアプローチとなる。

代表を務めるのは岩宮貴紘氏は、東京女子医科大学(TWIns)博士課程在学中に自ら発見した線維芽細胞を基に、心不全向け再生医療製品を開発するメトセラ(神奈川県)と、不妊治療向け再生医療製品を開発するLYMPHOGENiX Ltd.(英国ロンドン)を創業した。

不妊症は世界的な課題であり、世界保健機関(WHO)は2023年4月、成人の約17.5%(世界で約10 億人超)が生涯に不妊を経験すると報告している。不妊治療の現場では、治療費の高額さや副作用への懸念、治療成績の伸び悩みといった課題が指摘されている。また、畜産業においては生殖効率の低下が生産コスト増や温室効果ガス排出増加に直結するため、特に乳牛の不妊は経済的・環境的な損失をもたらす。先進国を中心に人口減少や環境負荷低減へのニーズが高まるなか、繁殖医療の改善は持続可能な農業推進の一環とみなされている。

競合としては、再生医療や細胞治療を活用した生殖医療スタートアップや、既存のホルモン治療薬メーカーが存在する。また、乳歯歯髄幹細胞などの新規細胞ソースを開発する企業や研究機関も国内外で注目されている。畜産とヒト医療を横断する治療薬の実用化は、まだ初期段階にある。

今回の資金調達ラウンドには、慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)、S-Quatre、グローカリンク、アンドジェイホールディングスなどが引受先となった。調達資金は、製品の臨床前データ取得、臨床試験準備、製造インフラの整備に活用される。今後は英国と日本のパートナー企業との協力を進め、2026年の畜産動物向け不妊治療製品の臨床応用、2028年のヒト向け治療製品の臨床応用を目指すとしている。また、心不全や肺線維症、老化関連疾患への応用も視野に入れている。

LYMPHOGENiXの今回の資金調達は、畜産とヒト双方の分野での不妊治療に新たなアプローチをもたらすものとなる。新たな治療法の開発と実用化、研究開発体制の強化といった動きが今後も続く見通しだ。

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