LiLz株式会社

製造業やインフラ設備の保守点検のデジタル化に取り組むLiLz株式会社が、第三者割当増資による総額約4.3億円の資金調達を実施した。引受先は、三菱UFJキャピタル、三井住友海上キャピタル、YMFGキャピタル、鹿児島ディベロップメント、BORベンチャーファンド2号(琉球キャピタル・琉球銀行)、東銀リース。
LiLzは2017年に設立された。従来、工場やプラントの設備保全現場では人手による巡回点検が主流だったが、LiLzは完全無線型のIoTカメラと、アナログ計器を自動で読み取るAIクラウドシステム「LiLz Gauge」などを提供している。IoTカメラは長時間稼働可能なバッテリーを搭載し、設置後すぐに遠隔点検を開始できる。これにより、高所や狭所など危険が伴う現場でも点検業務を省力化し、カメラが取得した画像データをAIが解析することで、巡回点検の効率化や異常検知の自動化が可能となる。
現場の多様なニーズに対応するため、LiLzはハードウェアとソフトウェアの両面で自社開発を進めている。危険エリア向けの防爆対応カメラや、画像異常検知AI「LiLz Guard」もラインナップに加えている。さらに、音やにおいなど人間の五感を代替するIoT・AI技術の研究開発にも着手している。これは、老朽化が進むプラントで発生しやすい漏れや燃焼といった事故の早期発見を目指し、従来は人手で行っていた五感点検作業をデジタル化する取り組みである。LiLzによると、日本国内36都道府県や海外にも導入実績があり、医療・エネルギー分野の企業との共同開発や外部システムとの連携事例も進んでいる。
代表取締役社長の大西敬吾氏は、エンジニアリングや機械学習の分野で現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)に携わってきた経験を持つ。設立時から創業メンバーとして参画し、現場知見と技術の融合による業務効率化に取り組んでいる。経営陣にはCFOの高木氏らが加わり、外部パートナーとの協業やグローバル展開にも注力している。
製造業やインフラ施設の保守・点検を取り巻く環境では、人材不足や高齢化、熟練技術者の減少、設備の老朽化といった課題が顕在化している。経済産業省の調査によれば、保全要員の平均年齢は上昇傾向にあり、一人当たりの点検業務量が増加することで、故障や事故の早期発見・対応が難しくなっている。また、製造業DX推進やカーボンニュートラル、ESG経営の観点からも現場データのデジタル化と業務効率化が求められている。競合としては、IoTセンサーや計器メーカー、画像解析AIベンダーなどの点検自動化ソリューションが存在するが、現場ごとの多様な設備、既存計器への対応力、設置性やコスト面が各社の競争ポイントとなっている。
今回の資金調達により、LiLzは「五感点検ソリューション」をはじめとした研究開発体制の強化、国内外の事業拡大に向けた体制の強化及び販売促進を加速する方針だ。
製造業やインフラ施設の点検・保守現場のデジタル化は、人手不足や属人的な点検からの脱却、予防保全の効率化といった社会的課題に直結する領域である。今後も現場ニーズに即したデジタルソリューションの開発と導入が進むかどうか、業界関係者の関心が集まっている。