ファイトリピッド・テクノロジーズ、シードラウンドで2.2億円を調達──藻類油脂の社会実装に向けて

ファイトリピッド・テクノロジーズ、シードラウンドで2.2億円を調達──藻類油脂の社会実装に向けて

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株式会社ファイトリピッド・テクノロジーズが、シードラウンドで総額2.2億円の資金調達(第三者割当増資)を実施した。

出資には京都大学イノベーションキャピタル、リバネスキャピタル、広島ベンチャーキャピタル、フォーカスインキュベート、京都キャピタルパートナーズ、三菱UFJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタルが参加している。

ファイトリピッド・テクノロジーズは2021年設立のスタートアップで、東京工業大学(現・東京科学大学)発のディープテック企業である。微細藻類「ナンノクロロプシス」を用いた油脂生産技術に強みを持つ。主な事業領域は、食用油脂やω3脂肪酸、燃料油脂などの有用脂質の生産、これらの生産プロセス技術のライセンス提供、さらに藻類関連の脂質分析や研究開発の受託など多岐にわたる。

微細藻類は、高い光合成能力と成長速度を持ち、単位面積あたりの物質生産性が穀物などの一般的な作物よりも高いとされる。特にナンノクロロプシスは油脂生産能力が高く、ファイトリピッド・テクノロジーズは高密度培養や脂質抽出・分離に関する独自技術を開発している。

代表取締役CEOの太田啓之氏は植物脂質科学分野で30年以上の研究経験を持ち、東京科学大学名誉教授でもある。三井植物バイオ研究所や国立基礎生物学研究所での実務経験を経て、アカデミアと産業界の双方で豊富な実績を積んできた。Terry Galliard Medalの日本人受賞者としても知られ、2021年にファイトリピッド・テクノロジーズを創業した。太田氏はこれまでの学術的な知見とネットワークを活かし、企業との共同研究も数多く主導している。

環境対応型素材やバイオ燃料の分野では、世界的に研究開発と投資が拡大傾向にある。2050年のカーボンニュートラル実現に向け、バイオ燃料の生産量を拡大する必要があるとされている。その一端を担う技術として、微細藻類によるバイオ資源生産が注目されている。

国内の藻類バイオ産業では、ユーグレナなどが先行しているが、商業化やコスト低減、大規模供給体制の構築といった課題が残る。微細藻類はCO₂固定によるカーボンリサイクル、資源循環、高付加価値素材の供給といった観点から、さまざまな産業用途への展開が期待されている一方、実用化には技術的・経済的なハードルも多い。

今回の資金調達により、ファイトリピッド・テクノロジーズは微細藻類の培養技術や脂質抽出技術の高度化、自社培養施設の新設に取り組む。同社によると、新たな培養施設は瀬戸内沿岸部に設置され、食用油脂やω3脂肪酸、食用たんぱく質資材の生産を本格化させる計画である。これにより、食品企業などへの安定供給体制の構築を進めるとしている。また、今後はバイオ燃料や飼料、化学原料分野などへの原材料供給にも事業領域を拡大する可能性がある。

競合状況については、ユーグレナが食品原料やバイオ燃料を自社培養・生産するモデルを展開している一方で、ナンノクロロプシスのような高生産性藻類に特化した事業者は限られている。藻類由来油脂の世界市場規模は2023年に約2.8億ドルとされており、今後も成長が見込まれている。技術革新や規制動向、市場拡大が業界の今後を左右する重要な要素となる。

ファイトリピッド・テクノロジーズは今回の資金調達を機に、企業連携や生産体制の強化に注力する。大規模生産施設の稼働や安定供給体制の整備により、事業の拡大を図る構えだ。カーボンリサイクル分野におけるスタートアップの事業展開の一例として、今後の動向が業界内で注視されている。

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