新産業創出に求められる「経営者像」──これからのスタートアップの成長ストーリーとは(後編)

新産業創出に求められる「経営者像」──これからのスタートアップの成長ストーリーとは(後編)

Written by
KEPPLE編集部
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2025年5月21日から23日、札幌で開催された「B Dash Camp 2025 Spring in Sapporo」。スタートアップ業界のキープレイヤーが全国から集まるこの招待制カンファレンスは、今回も活気に満ちていた。中でもとりわけ注目を集めたセッションが、「スタートアップの成長はどこへ向かうのか」だ。

このセッションでは、コミスマCEOの佐藤光紀氏、野村證券 産業戦略開発部マネージングディレクターの武田純人氏、LINEヤフー上級執行役員の宮澤弦氏、NstockCEOの宮田昇始氏が登壇。モデレーターは、B Dash Ventures代表の渡辺洋行氏が務めた。各氏がスタートアップの今後の成長や戦略、あり方について語り合い、次のフェーズへ進むための議論が展開された。

スタートアップ市場の変化と評価軸について議論した前編、上場維持基準100億円に触れた中編に続き、新たな産業づくりやこれからの経営者の役割へと話題が広がっていった。後編となる今回はその様子をお届けする。

“ネット完結”の限界と、体験価値の時代へ

渡辺氏:ここまでの議論が100億、そこを端緒とするいろんな議論ができましたけども、次の議論としては、「新産業をどう作っていくか」という話だと思っていてですね。

どう作っていくのかっていうのは、結局経営者なんだろうなと思ってるんですけども。佐藤さん自身も、十数年間の上場企業の世界からいきなりコミックの世界に参入してやってますけども、ご経験からしても新産業を作るってどんなことだと思ってます?

佐藤氏:前段でも少し触れたんですけども、インターネットサービスに閉じたグロースの事業っていうのは、なかなか作りづらく、極めて限定的になってきてますよね。

一方で、体験の入口としてのインターネットは依然として大きくなっている。そこは変わらない。逆に言うと成熟してきたからこそ、プラットフォームがあるその上で付加価値をつけていくっていうふうになっていくので、基本的には入口はインターネットだけど、出口はいろんなフィジカルな体験というのがベース。あらゆる産業での新産業の掛け算と先ほど渡辺さんおっしゃってましたけども、そこの掛け算のフレームのベースにはなるだろうということで。

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佐藤氏は「デジタルとフィジカル体験の掛け算が新産業の鍵だ」と強調した(写真右)

一方で、プラットフォームが共通化されてくることの恩恵っていうのもあるなと思っていて。我々漫画とかアニメの事業やってますけども、日本でヒットする漫画とかアニメをIPを作ってるときに、もう瞬時に世界中でファンが増えてる状態があるわけですね。

テレビ局ってのは基本的にはローカルで分断されていて、あるテレビ局のあるコンテンツが流行ったからといって、リアルタイムに世界中にそれが入るってことはなかった。何十年も経ってほしいものが流行るっていうふうなことがあったんです。

今はもうリアルタイムになっている。これはインターネットサービスがより一般化して、マチュアになってくることの恩恵を受けているだろうというふうに思っていて。一方でそれによって生まれたファンダム(編集部注:熱狂的なファンやファンコミュニティ)っていうのが仮にあったときに、各地域、世界中のファンの方々が欲しがるものは、リアルの体験です。より自分たちの手触りのあるような体験になっていくっていう、C向けサービスっぽい話をしましたけれども。掛け算での新産業っていうことは一つそういうデジタルを入口として、フィジカル体験の組み合わせを作っていくっていうところにあるかなと思います。

渡辺氏:フィジカルが重要だと。でもそれは確かに何か一つの切り口としてはあるかもしれないですね。

うちの投資先で出すのは恐縮ですが、newmoですよね。 まさにそのパターンでインターネットにタクシーを掛け合わせて、そこにいろんな支援をすることによって大きくする。多分去年の4月に立ち上げましたけど、過去10年間、20年間のスタートアップの中でもトップクラスの成長率。あれこそある意味再編というか既存産業の再編って切り口かもしれませんけど。

佐藤氏:これも別口で見ると、誰がどのアングルでやるんだというところに巨大な産業のきっかけがあるなと。誰がというと経営者個人ですよね。起業家とか経営者個人のこの人が○○というテーマをやるんだというところに、この掛け合わせで新産業のブレークスルーが起きる、そういう期待が生まれるっていうことは間違いないかなと。

起業の“種”を探す時代の変化

宮田氏:Sansanやマネーフォワード、SmartHRとかもSaaSの会社ですけど、ただ10年前ってインターネットだけで何か便利なものをつくれる余地が大きかったなっていうふうに思ってまして。当時振り返ってみれば、ネタが結構あったなと思ってます。

佐藤さんtoCとおっしゃってくださってましたけど、ネタを探す場所はtoBのほうがむずかしいなという感覚があります。特に昨日のGoogleIOの発表のまとめを見てても、こんなのGoogleにやられたら何もやることないみたいな気持ちになっちゃうんですよね。これから先、起業するんだったら、何やろうっていうのはすごく考えます。

ヒントになるかもなと思ったのが、数日前にY Combinatorの人たちが、リーンスタートアップ的な方法論に関するポッドキャストか何かをあげられてて。

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宮田氏は「AI時代は起業家の好奇心がより重要になる」と述べた(写真右)

リーンスタートアップって仮説検証を小さくして、早く失敗して学びを早くして、後でビジネスを探していきましょうみたいなやり方だったと思うんです。実際にSmartHRはリーンスタートアップ的なやり方で見つけたんですよね。でもAIが出てきて作るのがめっちゃ速くなって、モックみたいなのだったらすぐできるんですよ。先にデモプロダクトみたいなの作って当ててみた方が早くないかとなってるんです。

Y Combinatorの人たちは、起業家が自分の好奇心に従って、「やりたいことの中で何ができるか」から探すのがいいんじゃないみたいなことを言っていて、確かにそれはそうだなと思ってます。

ちょうど今朝福山太郎さんから教えてもらったんですけど、リーンスタートアップとの対比でハリウッド型と言ったりするらしいんですよね。最初から準備してバーンって出しちゃうみたいで、そこにはただ何か作り込んで出すっていうだけじゃなくて、何か意思やビジョンを込めた作り方みたいなのがあるらしくて。この正解がぱっと出てきやすくて、作るコストもめっちゃ下がってるんだったら、「起業家の人がこういうのを作りたい、こうなったらめっちゃ面白い」みたいなことをやっていくのがいいのかな、ウケるのかな、結局大きくできるのかなと、ヒントとして受け取ったりしてました。

渡辺氏:面白いですね。産業の作り方で言うと、もちろんディープテックやそういった分野もわかりやすいです。今日もたくさんいらっしゃいますが、宇宙で頑張るぞってこの分野だけ突き詰めていって、もちろん大変ですけど、でもそれが今は非常に高評価が得られるので。ただ、それ以外の部分というのがほとんどで、それをこれから作っていくことが我々の仕事だと思ってるんですけども、それ自体がもっと簡素化してどんどんできていくので、実はやりやすいんじゃないかっていうそういう話ですよね。

宮田氏:より自分でやる気が出るもので、最初から勝負できるんじゃないかみたいな感覚かもしれません。

AI×産業で新しいカテゴリを作る

渡辺氏:今の流れで産業をどう作っていくかって感じで言うと、宮澤さんどんな意見をお持ちですか。

宮澤氏:その前段で、この数年振り返るとグローバルプレーヤーが強くなりすぎて、Webサービス、インターネットサービスの領域でやれる余白がどんどんなくなってきて、苦しんできたっていうのが実際のところ。小さい上場になっちゃうみたいなのが現実としてあったのかなと。

ただこれが本当に今AIによってその状況がガラッと変わろうとしている。これをとらまえて、この右側の表の過去5年とかを見た代表企業でいくと、ここからプラス5年、2030年の代表企業といったときに、どういう銘柄が入ってくるんだろうなと思って見てたんですけども。

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宮澤氏は、AI×産業で新たなカテゴリーを築くことが鍵になると見ている(写真左)

そこには必ずこのAIにかけるこのカテゴリーに並んでるような領域で、もちろんこういう会社がAI化していくのもあるでしょうし、今まだ生まれてない、あるいは今生まれたばっかりみたいな会社がそういうカテゴリーを作っていくんだと思うので。そういった会社をどう生んでいくのか、ソフトウェアだけじゃなくて、周辺のロボティクスとか、AI×○○みたいなところで日本が強みを生かせるようなところを見つけていくのが、結果的に世界への道も繋がりやすくなるんじゃないかというふうに思ってます。

渡辺氏:その観点で言うと佐藤さんもおっしゃってたんですけど、それを誰がやるんですかってとこだと思うんですよね。たくさんの起業家がこれから生まれてきて、さらに多分生まれやすくなってくると思うんですよ。 本当に1人起業とかも多分生まれてくるんで。そこにVCマネーが必要かどうか気にせずガンガン盛り上がればいいと思ってるんですけど、でも結局誰がやるかというところかなと本当に思っていて。

未来を創るのは誰か——経営者の役割

渡辺氏:自分自身が10年、20年投資してる経験からいっても、分野は当然重要なんですけど、結局経営者だなと改めて最近思っていて。皆さんもそうですけど、元は起業家でやってて、ここまで来るのって、この3人の共通点って何なんだろうなと。これも改めて考えたんだけど、そんなのわからないですよね。武田さんは私と同じように俯瞰的に見てて、今の話をどのように思います?

武田氏:今お話ししていった中で、すごくインプレッシブだったのは、宮田さんからあったハリウッド型っていう新しい潮流。さっき申し上げた、過去インターネットが主導でやってきたスタートアップの20年、起業が増えた。あとAIでこれからさらに1人スタートアップみたいな、スケールするものが出てくる。その中で我々としてふっていかなきゃいけないのは、パッケージ化やストーリー化というの部分だと思います。我々エコシステムビルダーとして取り組んでいかなければいけない。

そのときの一番のアンカーになるのが経営者なんだろうと。もちろんそれは経営者1分の1であるわけではなくて、様々です。あと新産業を作っていくというところでは、市場の正しさとビジネスモデルとしてのアプローチの正しさは当然です。政策も含めて、さっき出たルールメーカーとしての話や、M&Aの取り組みも全部一つのフォーメーションの中に注ぎ込んでいきたい。その上で、ハリウッド型の一極集中ではなく、引き出しモデルのように多様な選択肢を持てる形を作りたいなと、今日あらためて強く思いました。

渡辺氏:冒頭に集約モデル、再編モデルとおっしゃいましたが、どんどん終焉化していく時代でもあるんだろうなと思っていて。お金の流れもそうだし、人の流れもそうだし、ビジネスの流れも。そういう時代が数年続くんだろうなと。そこに一気にかけていかないとでっかいものを作れないんだろうなと。 

ですから、そのときに結局旗立ててやる人は誰なんですかってそんなふうに、いつの時代もそう思って投資はしてますけども、ますますその傾向が強いんじゃないかな。

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武田氏は「新産業創出には経営者のストーリーが欠かせない」と語った(写真右)

武田氏:よりそういう新しいリーダーというか、みんなが追いかける経営者ストーリーってところが必要なんだろうなって。ここで一緒に何か描いていくのが、我々の頑張らなきゃいけないところだと思います。

突出する1社をどう育てるか

渡辺氏:今、評価されつつあるのは、もう左の上、右の上の世界観だけど、左の下からがどこをどう変わっていくのか、7割がおそらくここだというところが変わってくるのか。また別のものをやっていくのかは、いくつか切り口があったと思ってます。

「○○×AI」というところにどんどん上にいくのがわかりやすい話だろうと思ってますけども。他方それだけじゃ、なかなかみんなできる話じゃないと思います。

リーダーシップの人間がどれだけ経営をうまく回していくのか。変わっていく中でおそらく再編が生まれたり、集約がぐっと起きていく。 5年10年はずっと本当に新しい時代かなと僕自身は思ってます。その中で若いスタートアップの方々がどういうところを目指していくのか。 

佐藤氏:当時自分が起業した頃っていうのは、ベンチャーだったんですよ。スタートアップって言葉はなかった。

ベンチャーの中には、当時区別されていなかっただけで、スモールビジネスとスタートアップがあったんですよ。その中のスタートアップだけがこういう上場マーケットとかの対象になってきたっていうのが、昨今のこの「A New Beginning」の入口としても、変化なんだろうと。スタートアップとしてより流派としての強みを出さなきゃいけないんだなという。際立ったスタートアップとしての色の濃さを出していかないと。起業家だけじゃなくて、周囲を支えるエコシステムの方々も含めて、一緒になってこの流派としての強さを出していかなきゃいけないと思います。

宮澤氏:大谷翔平って高校のときからずば抜けていて、それをみんなが結構応援したんですね。監督も彼のビジョンに。世界であえて活躍するって彼の夢を大人たちみんながどう実現するかっていうのをサポートして、今の大谷翔平があるっていう。

実はこれと同じような産業政策をとっているのが韓国なんですよね。 韓国はこの領域でかかっていこうと決めて、そこに1000社ぐらいのスタートアップの中から、ずば抜けてきているやつをピックアップして、これを世界企業に育てようっていうのを結構やってるんですよね。だから、大谷翔平級のスタートアップを何社か作っていくぞっていうようなことなんだと思うんですけども。日本ってあんまりそういうのがないので、その中からすごくいいものが生まれるようで生まれてないっていう差があるのかなというふうに思っています。

渡辺氏:宮田さんお願いします。

宮田氏:ハリウッド型なんですけど、ハリウッド映画から来てるらしいですよね。制作費をバーンとかけて、一発勝負で作るみたいな。ディープテックとか非ネットビジネスみたいなものを見ると、お金が最初からいるものだなっていうふうに思ってまして。これまでのリーンスタートアップ的なやつって、小規模でもできると思うんですけど。それだけだと限界があるんで、最初から制作費をガツンと集めて作るみたいなやり方に、企業のあり方、スタートアップの始め方も変えていかなきゃいけないのかなっていうふうに改めて思いました。

渡辺氏:新産業を作るっていうのが重要なテーマだと思ってます。ただ新産業のあり方も、いろんな形があると思いますし、いろんな分野が切り口だと思ってます。他方、隙間がすごく小さくなってきてるので、隙間じゃないとこを目指してでっかい領域、ディープテックや何かを目指すのもよし。

ただ、隙間もまだまだあるし隙間をこじ開けるような、まさにフィジカルなものを掛け合わせとかいう話も出ましたが、そういった分野をもう1回自分たちで作っていくのもありですし。再編の方に身を置いて、新しいものを作ってくもあり。いろんな方法があるんだなってことが、今日整理されました。

ただベースにあるのは経営者だなと、改めて思いました。集約という言葉も出ましたけども、集約されたお金や人ででっかいものを作っていくっていう作業を、リーダーシップを持ってやることが、これからの経営者なんでしょうね。ありがとうございました。

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