高齢化社会に届ける完全栄養食アイス、LacuSが1億円調達で叶える豊かな食体験
高齢者向けの完全栄養食を製造・開発するLacuSがプレシリーズAラウンドにて、1億円超の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回のラウンドの引受先はケップルキャピタル、Future Food Fund、Canon Marketing Japan MIRAI Fund(グローバル・ブレインが運営)、アスクキャピタル、その他エンジェル投資家。
LacuSが開発を進めるのは、厚労省の定める栄養素が摂取できる完全栄養食「Me TIME FOODS」。1食あたりに摂取することが望ましい33種類の栄養素を凝縮する。
第一弾として販売しているのがカップアイスの「Me ICE」だ。味はきな粉・抹茶・チョコレートの3種類。Amazonでのオンライン販売に加え、有楽町マルイのエシカルショップ「エシカルな暮らしLAB」などで期間限定販売している。今後は甘酒やスープといったラインナップの拡充も予定する。
調剤薬局などの小売店舗や介護施設向けにも提供する。これまでに約1万個を販売した。今後は自社ECサイトでの販売も計画する。
代表取締役社長の古津 瑛陸氏に、製品開発の背景や今後の展望について詳しく話を伺った。
看取り期にも心体満たす食体験を
―― 栄養食の提供で解決を目指す課題について詳しく教えてください。
古津氏:介護施設などで一般的な食事が取れなくなった人は、いわゆるミキサー食と言われるようなペースト状の食事をとります。それが取れなくなると栄養補助食品を食べる。それでも栄養が足りないと、医薬品や点滴、最終的に胃や腸に穴を開けてチューブを通して栄養剤を注入するようになります。必要なことではありつつも、食体験としてはさみしいですよね。
事業開始前の市場調査として、私自身、約180施設を訪れて高齢者とコミュニケーションを取りました。多くの施設では、学校給食に似た配食が提供されています。メニューや栄養が考えられていて、それ自体の満足度は高いんですよ。一方で、全体最適からこぼれていく方々への食提供にギャップを感じていました。
そもそも高齢者の中で、必要な栄養を十分に摂取できている人は多くありません。私たちは、少量の食事でも栄養素がとれる食の提供にトライしていかなければいけないと考えています。
――完全栄養食ブランド「Me TIME FOODS」として、なぜアイスから提供を開始したのでしょうか?
必要な栄養素を少量の食事で摂れることに加え、アイスクリームの冷感による刺激もメリットです。咀嚼や嚥下の機能が低下した高齢者には、飲み込む際に気管に入ってしまいむせたり、誤嚥性肺炎になってしまうリスクがあります。口腔内で冷感刺激があることで唾液量が増え、飲み込みを促進するのです。
また、看取り期の人は体温が上昇します。インフルエンザの風邪をひいたような感覚に近いかもしれません。そうした状態でも嗜好品のアイスは口に含みやすいのです。
また、大きなきっかけとなったのはひいおばあちゃんの存在です。亡くなる直前の食体験があまり良くなくて。牛丼やお寿司が大好きなのにも関わらず、胃ろう(チューブの挿入)や点滴による栄養摂取が増えていきました。わかりやすく落ちたんですよね、生命力というか。こうした経験も経ながらアイスの開発を進め、今年の3月から販売を開始しました。
――創業のきっかけについて教えてください。
私がLacuSを起業したきっかけの一つは、タイミーの小川さんに憧れたことなんです。以前はプロ野球を目指していました。肘を2回手術してドクターストップもかかるようなタイミングで知ったのがタイミーです。当時大学生だった小川さんが数十億を調達したというニュースを見て、「大学生でもこんな社会インパクトを起こせるんだ」と感化されて。それから起業に興味を持つようになりました。
当初は食品ロス削減の取り組みを検討していました。社会起業やインパクト投資が注目されだしたタイミングです。アルバイト先でドーナツが大量に廃棄されていたんですよ。「ディスカウントして提供してもいいのに」と思っていました。
アプリをローンチして加盟店は増えましたが、あまりお金になるモデルではありませんでした。急成長する競合もいましたし、会社としての持続可能性は高くないなと。それから社会のスタンダードを築けるようなビジネスを改めて検討し、現在の事業にピボットしました。
自社工場でニーズに合わせた商品開発へ 事業拡大加速
―― 資金調達の背景や使途について教えてください。
これまではファブレス(委託)で製造していました。そうすると、規格がOEM工場のラインに依存してしまうわけですね。たとえば、アイスでいうとカップの容量です。世界的な規格に合わせた100mlなどの容量では、私たちのターゲットユーザーである高齢者は食べきれないかもしれません。一方で自社工場ではないので、ニーズに合わせて小さい容量にすることはできない。こうした課題を解決すべく、自社工場に投資をすることでニーズに応えていくことが大きな目的です。
また、人材採用も本格化しなければいけません。今までほぼ1人だったので、CXOクラスやセールスを採用して組織化していきます。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
これまでですでに累計約1万個の販売実績ができたとはいえ、ターゲットしている事業所の1%にも届けられていません。まだまだ開拓余地があります。泥臭く、介護事業所などBtoB領域を広げながらも、それを起点としたBtoCにも展開していく。直近はしっかりと利益体質な企業を作りながら、甘酒やスープなどSKUの拡大も柔軟に進め、少しでも早く月間1万個の販売達成を目指していきます。
介護食・嚥下食は、まだまだニッチなジャンルですが、高齢化の進む日本だからこそ今後グローバルスタンダードになると確信しています。「しっかりとした食体験の提供」というコンセプトメイクの中で戦うことを目指しながら、地方から国内へ、国内からグローバルへ展開できるようなブランドを作っていきたいと思います。