Helical Fusion、ヘリカル型核融合炉の商用化を目指しシリーズAで23億円を調達──「Helix Program」で2030年代の実用発電実証へ


核融合発電の実現に向けては、超高温プラズマを安定的に維持するための技術が欠かせない。なかでも、トカマク型やヘリカル型など磁場閉じ込め方式の核融合炉で重要な役割を担うのが、高エネルギーの粒子ビームを炉内に打ち込み、プラズマを1億度以上に加熱する「中性ビーム入射装置(NBI)」だ。株式会社ビームフォーフュージョンは、このNBI装置の開発・設計を手がけるスタートアップである。
世界に先駆けて、負イオンビームを基盤とするNBI装置を実炉レベルで実装した技術チームを擁し、核融合エネルギーの早期社会実装に挑む。創業メンバーは、量子科学技術研究開発機構(QST)や核融合科学研究所(NIFS)で国家プロジェクトを牽引してきた研究者たちだ。国内外の核融合スタートアップ等からのNBI装置の需要に応えるべく、2023年9月に研究成果を事業化する形で同社を設立した。
同社はインキュベイトファンドを引受先とするシードラウンドで5000万円の第三者割当増資を実施したと発表。創業から約2年、調達資金を活用し、いよいよ本格的な事業展開に踏み出す。
同社の代表取締役CEOの堀池 寛氏(大阪大学 名誉教授)と取締役CTOの竹入 康彦氏(核融合科学研究所 名誉教授)に話を聞いた。
──御社の開発するNBI装置について、その特徴と独自性を教えてください。
堀池氏:核融合反応を持続させるには、「プラズマ燃料の温度 1億℃以上」「プラズマの密度 1020個/m3以上」「エネルギー閉じ込め時間 1秒以上」という3条件が必要です。この条件を外部からの加熱により達成するために、中性粒子を高速のビームとしてプラズマに入射しエネルギーを加えるのがNBIの役割です。

私たちの強みは、負イオンを用いたNBI技術を世界で初めて実炉レベルで実現したことにあります。NBIには、正イオンから中性ビームを作る方式と、負イオンから中性ビームを作る方式の2種類があります。まず正イオンあるいは負イオンを生成し、それに電圧を加えることで加速させ、薄いガス中でガス粒子とぶつけることで正/負イオンを中性粒子に変換(=中性化)し、その中性粒子がプラズマを加熱する仕組みです。
ITER※クラスの大型核融合炉には、1MV程の加速電圧が必要ですが、このような高エネルギー領域では、正イオン方式は中性化効率がほぼゼロになってしまいます(下図)。この中性化は、核融合装置の磁場の影響を受けずにビームをまっすぐ入射するために不可欠な工程です。負イオン方式でなければ、核融合による大規模商用発電は実現できないのです。
※ITER:日本、EU、米国、ロシア、中国、韓国、インドが開発に参加している国際熱核融合実験炉

竹入氏:負イオンは、水素で言えば原子に電子を1個余分に加えた状態です。電子を剥ぎ取って正イオンにするより、加えて負イオンにする方がはるかに難しい。だからこそ、30年ほど前は正イオン方式が主流であり、負イオン方式は「ほぼ実現不可能」とされていた技術でした。私たちの研究チームは、負イオンを効率よく生成する方法を確立し、これを世界で初めて実用規模で実現しました。
──負イオンによるNBI技術の開発課題は。
堀池氏:NBI装置単体で見れば、完成に近い段階にあります。現在の最高加速電圧は約100万ボルト(1MV)。これをさらに20〜50%高くする、すなわち120万〜150万ボルト程度に引き上げることが次の目標です。電圧を上げることで、ビームをより細くできるため、プラズマの加熱効率が高まります。核融合炉が大型化するにつれて、加熱効率がさらに高いビームが求められるようになるため、これは商用発電の実現に向けても重要な技術的課題です。
竹入氏:もう一つの開発課題は、中性化効率の改善です。現在はガスセル中を通過させることで負イオンビームを中性粒子に変換していますが、この方式での中性化効率は約60%にとどまります。光を照射して電子を弾き飛ばす方式に切り替えると、原理的にはこれを90%以上まで高めることが可能です。1.5倍の改善は、システム全体の効率に大きく影響します。実現した装置はまだ世界に存在しておらず、私たちの重要な開発テーマの一つです。
──創業の経緯をお聞かせください。
竹入氏:私は核融合科学研究所でNBI装置の開発を進め、所長も務めました。堀池先生は量子科学技術研究開発機構で核融合研究を牽引してきた。ともに大学・研究所という研究開発の現場で長年取り組んできたわけです。
核融合はいよいよ実用化が見える段階に入っています。70年近くかけて築いた基礎研究の成果を、今度は社会に還元する段階に来ていると感じました。研究機関では営利活動をすることができない。だからこそ、会社というかたちで産業実装に踏み出す必要がありました。
堀池氏:世界各地からNBI装置を供給してほしいという問い合わせが続いていました。求めてくれる人がいるのに、応えられる組織がなかった。そこに創業の動機があります。

──事業モデルについて教えてください。
堀池氏:核融合装置は自動車のような量産品ではありません。プロジェクトごとに仕様が異なり、完全なオーダーメイドです。私たちは設計と全体調整を担い、製造は重電メーカーに委託する、ファブレス型のモデルを目指しています。
現在はコンサルティングモデルで、海外スタートアップや国内の核融合プロジェクトに対して設計支援や国内メーカーとの調整を行っています。今回の資金調達を経て、ファブレスのNBIメーカーへと移行していきます。
注文を受けてから納品まで2年以上かかります。設計に半年、材料調達に半年、工場製作に1年、輸送・据え付け・試運転にさらに半年。このサイクルを安定して回せる組織体制を作ることが、今の最重要課題です。将来的には、1MW級・10MW級といった出力帯ごとの標準モデルをいくつか用意することも構想しています。案件ごとの設計をルーティン化できる部分と創意工夫が必要な部分に切り分けることで、より効率的な事業運営が可能になります。
──今回の資金調達の使途についても教えてください。
堀池氏:創業から約2年、ほぼ無給で活動してきました。特許申請の準備や設計構想など、できる範囲の準備は進めてきましたが、特許1件を申請するだけで数百万円かかります。海外企業との連携のための渡航も含め、限界がありました。
調達した資金は主に、アメリカ等国内外での営業活動の強化、特許をはじめとする知財の拡充、そして次世代人材の採用・育成に充てます。核融合の社会実装には20年近くかかります。私たちが現役でいられる時間には限りがある。世界最高峰の技術を途絶えさせないためにも、若い世代への技術継承を急務として進めていきます。
──海外展開については。
堀池氏:アメリカの核融合スタートアップ企業から引き合いをいただいており、渡航して初期交渉を進めているところです。民間企業でNBI装置の設計まで一貫して担える企業は、世界的に見ても極めて限られています。多くの研究機関は事業化へのモチベーションが低く、商業化に向けて動ける民間プレイヤーがほとんどいない領域です。
──中長期的な展望をお聞かせください。
堀池氏:核融合発電が実現すれば、原子力発電と併せて日本はエネルギー輸入国から自給国へと転換できます。石油を巡る地政学的リスクが軽減され、エネルギー価格も下がる。100兆円規模の市場を創っていく時代に、私たちの技術で確かな役割を担いたいと考えています。
同時並行で実現を目指しているのが、NBI技術の医療・産業応用です。私たちのNBI技術を応用すると、高純度の中性子を効率よく生成できます。中性子は今、原子炉でしか大量に得られませんが、NBI由来の装置であれば電源を入れるだけで中性子が取り出せる。これにより、さまざまな産業応用の可能性が開けます。
一つが、BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)によるがん治療です。中性子を使ってがん細胞を狙い撃ちにするこの治療法は、再発・難治性がんを対象にした京都大学の臨床研究では、被験者100名のうち、4割程度が一旦治癒したというデータがあります。しかも、私共の装置が実現すれば、現在1時間かかる治療時間は10〜15分程度になります。
さらに中性子イメージング※への活用も見込まれており、核融合以外の領域でも広い応用可能性があります。
竹入氏:核融合発電の実現は次世代に託す部分もありますが、BNCT応用は私たちが生きているうちに形にできる。5〜10年以内の事業化を目指しています。
堀池氏:核融合発電の社会実装まであと20年、私たちが携わってきた核融合70年の歴史を思えばもうすぐです。NBI装置をさらなる完成度まで押し上げるとともに、若い世代に技術を継承していきます。
※中性子線を使用し、物体の内部観察を行う技術。水素・リチウムなどの元素に感度良く反応するため、電池開発から水素貯蔵施設管理、考古学まで様々な応用可能性が考えられている。
.jpg?auto=compress&fm=webp&w=2667&h=612)
Tag
スタートアップの資金調達情報を漏れなくキャッチアップしたい方へ。
1週間分の資金調達情報を毎週お届けします。
※登録することでプライバシーポリシーに同意したものとします
※配信はいつでも停止できます