株式会社ウタイテ

2.5次元IPの企画・運営を手がける株式会社ウタイテが、シリーズBラウンドで総額77億円の資金調達を実施した。リード投資家は中国のテンセントで、これに加え国内外の複数の事業会社やベンチャーキャピタルが新規出資者として参画した。今回の調達により、累計調達額は126億円となる。設立からわずか2年半という短期間での大型資金調達は、国内エンターテインメントスタートアップにおいても注目される動きである。
同社は、アニメや漫画など二次元コンテンツを原作としながら、舞台やライブ、バーチャルイベントといったリアルな体験と結びつけた「2.5次元IP」の開発・運営を主軸事業として展開している。2.5次元IPとは、従来の二次元作品の世界観を現実空間やデジタル空間と融合させる新しいエンターテインメント形態を指す。ウタイテでは、独自のクリエイティブチームによるIP開発や、テクノロジーを活用したファン体験の高度化を進めている。企業によれば、クリエイターが活躍しやすい環境の整備と迅速な事業展開を重視しているという。
代表取締役を務めるのは倉田将志氏。倉田氏は大学卒業後、2016年にAlpaca(旧メディコマ)を共同創業。後に同社は株式会社ベクトル(東証プライム)へ売却されている。その後も複数のM&Aを手がけ、クラタHDを立ち上げたのち、こちらも事業譲渡を実施。2022年12月に株式会社ウタイテを設立し、代表取締役に就任した。
エンターテインメント産業全体では、国内市場における競争激化とともに海外展開の機運が高まっている。経済産業省の発表によると、2023年における日本発コンテンツ(アニメ、ゲーム、映画等)の海外市場規模は5兆円超に達し、グローバル市場でのプレゼンスが増している。とくに2.5次元舞台やライブエンタメはZ世代を中心とした熱心なファン層を持ち、原作IPをリアル体験へと拡張する動きが活発化している。アニプレックス、DMM、サイバーエージェント関連各社、バンダイナムコエンターテインメントなども本領域で積極的に投資しており、競争は激しさを増している。
今回の資金調達には、テンセントに加え、日本政策投資銀行、SBVA(旧SoftBank Ventures Asia)、セガサミーホールディングス、松竹ベンチャーズ、TBSイノベーション・パートナーズ、Yostarが新たに出資。また、Sony Innovation Fund、グロービス・キャピタル・パートナーズ、バンダイナムコエンターテインメントなど既存株主からの追加出資も実施された。さらに、北國銀行、静岡銀行、三井住友銀行からの銀行融資も資金構成に含まれている。
とくに、テンセントがリードインベスターを務めた点は重要である。テンセントは中国およびアジア地域においてエンターテインメントの流通やIP協業に実績を持ち、ウタイテのグローバル展開において戦略的なパートナーになる可能性が高い。また、SBVAによる本出資は、日本企業としては初の投資事例とされており、グローバルVCの動向としても注目を集めている。
調達資金は、国内外のクリエイターやタレントの発掘・ネットワーク拡大、テクノロジー基盤の強化、海外市場向けIPの戦略的開発などに活用される予定である。人的リソース面では大規模な採用も計画しており、組織体制の一層の拡充が見込まれている。
一方で、2.5次元領域はIP管理の複雑性やファンコミュニティとの対話が事業の成否に直結しやすく、知的財産の運用とファンエンゲージメントの両立が引き続き重要な課題となる。
今後は、コンテンツ開発のみならず、ライブ配信やバーチャルリアリティ(VR)といった新たな体験型エンターテインメント分野への進出も視野に入れており、ウタイテによる今回の大型資金調達は、IPビジネスおよび2.5次元エンタメ市場における今後の企業動向を示す好例となりそうだ。