食品分野から環境問題まで、digzymeが解き放つ未知なる酵素の力

食品分野から環境問題まで、digzymeが解き放つ未知なる酵素の力

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KEPPLE編集部

「バイオインフォマティクス」は私たちの生活にどのような革新をもたらすのか。

バイオロジー(生物学)とインフォマティクス(情報学)の融合であるバイオインフォマティクスは、DNAやRNA、タンパク質など生物が持つさまざまな情報をITの力で解析する生命情報科学だ。1970年代頃から盛んに研究されるようになり、ITの急速な進化と共に発展してきた。バイオインフォマティクスは現在、医療や創薬、農業などあらゆる分野で活用が進んでいる。

グローバルインフォメーションの調査によると、バイオインフォマティクスの世界市場規模は2022年に114億米ドルに達し、2030年には291億米ドルに到達することが予測されている。

市場の急拡大が見込まれるこの領域で、バイオインフォマティクスによる酵素開発に取り組むのが株式会社digzymeだ。

同社は、シリーズAラウンドにて、第三者割当増資と融資、並びにNEDOディープテック・スタートアップ支援事業の助成金による7.3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

バイオインフォマティクスによる酵素革命

digzymeは、バイオインフォマティクスによる酵素開発技術を有する東京工業大学発のスタートアップだ。多種多様な酵素の探索や改良を短期間で行うことで、酵素を起点としたあらゆる事業成⻑への貢献を目指している。

同社は、バイオインフォマティクスを活用して、産業用酵素と精密発酵という2つの技術を開発している。

産業用酵素は、微生物に遺伝子情報を与えて作り出され、その酵素を含む溶液が産業分野で利用される製品のことだ。たとえば、食品加工ではパンの柔らかい食感を作り出すために使われる。また、洗濯用洗剤にも酵素が配合され、少量で効果的に汚れを分解し、環境にも優しい製品として広く使われている。

精密発酵は、微生物に特定の遺伝子を導入し、有用な化合物を生産させる技術。脱炭素化領域や石油化学製品のバイオ化などにも利用される。

digzymeの開発技術

画像:digzyme提供

同社はその酵素開発技術により、産業用途に適した酵素の遺伝子を効率的にデザインする。2023年12月には食品分野への事業拡大の一環として、フジ日本精糖との業務提携契約を締結したことを発表した。

代表取締役CEO 渡来 直生氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

未知の酵素の可能性を解き放つ

―― これまで、酵素開発にはどのような課題がありましたか?

渡来氏:今までは、何度も微生物の培養を行い、目的の用途に合うまで試行錯誤が必要でした。また、それには10年、20年という長期間を要してきました。さらに、近年の多様化した酵素開発へのニーズに対して臨機応変に対応していくことが難しいという課題がありました。

しかし、私たちは世界中で膨大に蓄積された生命科学の研究データを読み解くAI解析により、従来とは異なる方法で酵素を開発できます。

―― 御社の開発技術の強みについて教えてください。

現在、多くのプレーヤーが実用可能な酵素は1万種ほどですが、活用されていない酵素はその数の1万倍以上も存在しているのです。私たちは他社が見過ごす酵素の遺伝子に注目し、有用な遺伝子を抽出し応用する技術を有しています。さらに、遺伝子の発見だけでなく、より多くの物質を生成し実用化するための独自の酵素デザインプラットフォームも開発しています。

digzymeの酵素プラットフォーム

画像:digzyme提供

食品分野から環境問題まで幅広く貢献

―― どのような経緯で事業化に取り組まれたのでしょうか?

元々私たちが東工大でバイオインフォマティクスの研究を行っていた際、事業会社の方々から共同研究のお話をいただくことが多々ありました。「酵素を用いてこういう反応を起こしたい」など相談されることがあり、別の目的で作っていた私たちの技術を活用して試してみたところ、偶然成功したことが事業化のきっかけです。

そして、指導教員の山田先生と、同期の学生である中村(現CTO)の3人で2019年にdigzymeを共同創業しました。創業して1年ほどで産業用途にプログラムを開発し直し、並行してAI技術を採り入れることにより、技術革新の精度と速度が向上しました。

―― 御社の技術が普及することにより、社会にどのような影響をもたらすことができますか?

現在は食品製造に向けた酵素開発に注力しています。食品業界では新たな高付加価値素材が求められており、私たちの技術による新たな酵素の活用が進めば、糖質制限など健康的な生活習慣をサポートする新製品を消費者に提供できます。

今後、石油化学製品をバイオ化してCO2排出量を減らす取り組みや、廃水を酵素で効率的に分解する技術へと活用の幅を広げていけば、環境問題の解決にも貢献できると考えています。

代表取締役CEO 渡来 直生氏

代表取締役CEO 渡来 直生氏

多様な酵素の活用を目指し、海外展開も視野へ

―― 調達資金の使途について教えてください。

今回の調達資金により、酵素ライブラリ(digzyme Designed Library)の提供に向けて、技術の構築を進めます。同時に、多様な酵素プロダクトの開発を目指し、そのためのラボの設備を充実させ、より多くの可能性を追求することが目標です。

これまでは、difzymeの出口戦略の中心は、主に化学分野でのバイオプロセス開発でした。その中でも、精密発酵を出口とした天然物や石油化学品の代替生産や廃棄物分解などが焦点でした。

今後は、産業用酵素を出口とした高機能な酵素のライブラリ構築により、酵素や化合物の製品製造にも力を入れていく計画です。ニーズに合わせたソリューションを提供するため、シームレスな開発プラットフォームを目指します。

画像:digzyme提供


―― 今後の長期的な展望は?

企業やステークホルダーの皆様からのご要望に応えるため、さまざまな性質に対応する技術革新を進めます。まずは食品を中心に取り組みながら、今後成長が見込まれる化学や環境分野にも事業展開を拡大していく計画です。将来的には、新たな酵素の実用的な用途を開拓し、量産化のための設備投資や海外展開も視野に入れています。

これまでは、データ解析が中心となる事業形態でしたが、今後は酵素ライブラリの開発により我々の技術がサンプルとして容易に提供できるようになることで、多様な酵素が多くの企業や人々に活用されることを期待しています。

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※ グローバルインフォメーション「バイオインフォマティクスの世界市場-2023年~2030年

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  • #遺伝子
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