Link Therapeutics株式会社

Link Therapeutics株式会社が、自己抗体を標的とする医療技術の研究開発を進める中、総額8.5億円のシリーズBラウンドを完了した。第三者割当増資には伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、京都大学イノベーションキャピタル、三菱UFJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、神戸大学キャピタルなどが参加した。
Link Therapeuticsは2022年10月創業。京都大学発の研究成果を基盤に、自己抗体が関与する疾患の解明と新規治療法の開発を事業の中心に据えている。とくに潰瘍性大腸炎といった炎症性疾患において、抗インテグリンαvβ6抗体など病原性自己抗体の役割に着目し、それら抗体や抗体産生細胞を標的とする医薬品や医療機器の開発に注力している。さらに、自己抗体が関連する他の疾患に対する探索研究も進め、事業領域の拡大を図っている。
代表取締役CEOの河村透氏は、ヘルスケア領域での事業マネジメント経験を持つ。河村氏は創業者ではなく、経営トップとして参画し、アカデミア出身の科学者と連携する体制を築いている。創業者には、京都大学消化器内科の塩川雅広医師(現・社外取締役)が名を連ねており、設立当初から基礎・臨床医学の知見を活かした事業開発を進めてきた点が特徴である。
自己免疫疾患を含む免疫関連領域は、製薬業界において重要性が増している。特に潰瘍性大腸炎や原発性硬化性胆管炎のような難治性疾患は、既存の治療法が限られるため、新たなアプローチへの期待が高まってきた。自己抗体を標的とする治療については、希少疾患などで実用化が進む一方で、病原性自己抗体そのものを除去する治療法の開発は国際的にも難度が高い分野とされている。既存のバイオ製剤や小分子薬と比較して、自己抗体そのものを狙うことで疾患の根本的な制御を目指す技術が注目される背景がある。
業界動向としては、自己免疫疾患領域でのグローバル製薬企業によるM&Aや提携が活発化している。Statistaの市場調査によれば、自己免疫疾患治療薬の世界市場規模は2024年に約1239.6億米ドルに達しており、2034年までに約 2497.1億米ドル にまで成長すると予測されている。アッヴィ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ロシュ、武田薬品工業などの大手企業が市場を牽引する一方、研究開発段階で価値を持つバイオ系スタートアップによる新規アプローチも増加。日本でも近年、大学発バイオベンチャーの資金調達事例が相次いでいる。
海外では、Selecta BiosciencesやImmunovantなどが自己抗体除去に特化した創薬事業を展開している。こうした企業は、自己抗体関連疾患の治療における技術開発や臨床データの獲得で先行している。加えて、デジタルヘルスや診断分野と治療技術を組み合わせる動きも見られ、多様な協業や提携戦略が業界の発展を後押ししている。
今回の資金調達に参加した三菱UFJキャピタルが運営するMUFGメディカルファンドは、国内でも有数のライフサイエンス系ベンチャー投資ファンドであり、シリーズB以降の成長資金需要に積極的に対応している。京都大学イノベーションキャピタルによる投資も、大学発バイオベンチャー支援の一環となる。
Link Therapeuticsによると、今回調達した資金は主に潰瘍性大腸炎関連の医薬品・医療機器の研究開発、自己抗体関連疾患の探索研究、基盤技術の社会実装推進に充てる予定としている。開発パイプラインの詳細や具体的なマイルストーンは公表されていないが、プレ臨床から臨床初期試験への進展、学術発表や特許取得による知的財産強化などが今後の主要な活動となる見込みだ。
課題としては、医療機器や医薬品としての規制当局による承認取得、自己抗体ターゲット治療に関する安全性および長期有効性データの集積が挙げられる。また、日本発バイオベンチャーのグローバル展開力の強化、大学や製薬企業との連携拡大も今後の成長に不可欠な要素となる。
Link Therapeuticsは、今回の資金調達を契機に自社技術の臨床応用や事業基盤の強化を進める計画であり、今後は医薬品や医療機器の開発進展、外部パートナーとの連携状況などが注目される。