シンガポールを拠点に課題解決ゲームプラットフォーム事業を展開するDigital Entertainment Asset Pte. Ltd.(DEA)は、同社の持株会社であるPlayMiningに対し、日本のZUU Funders株式会社が組成した「ZUU ターゲットファンド for PlayMining 投資事業有限責任組合」を通じ、約10億円の社債による資金調達を実施した。
3社の上場経験を持つ吉田 直人氏とテレビ東京のプロデューサーを長年務めた山田 耕三氏が立ち上げたDEAは、2020年にローンチしたWeb3ゲーム「JobTribes」が大ヒット。プレイすることで仮想通貨を稼げる「Play to Earn」コンセプトのゲームだ。
2024年からは、インフラ保守などの社会課題解決を目的とする「課題解決ゲーム」のコンセプトを新たに打ち出し、現在は課題解決ゲームプラットフォーム「PlayMining」の運営に注力。東京電力をはじめとする連携先企業とともに、各種ゲームの実証実験を進める。
Founder&Co-CEOの山田氏に、課題解決ゲームの仕組みや誕生の背景、今後の展望について詳しく話を伺った。
「陣取りゲームがインフラ保守に役立つ」仕組みとは
――課題解決ゲームの仕組みは。
山田氏:業務効率化、労働力不足の解消など、さまざまなニーズを抱える企業・団体と当社が連携し、一般ユーザーによるプレイそのものが課題解決につながるゲームを提供するものです。ユーザーは純粋にプレイを楽しみ、成果に応じた報酬を獲得する過程の中で、自然と社会課題に関わり、解決に貢献しているユニークな仕組みです。
東京電力パワーグリッドと連携している「ピクトレ」を例に取ると、これはユーザー体験としては陣取りゲームです。指定エリアの中で、参加チームが実際に電柱の写真を撮影してアップロードすることにより、自分たちの陣地を広げていきます。
東京電力から見ると、これは電柱の保守点検作業のDXです。点検員がエリア内を回る代わりに、ゲーム参加者が電柱写真を撮り集めてくれるので、会社側はアップロードされた写真をチェックすることで電柱の状況を確認できます。実証実験中に、実際に電柱上に鳥の巣ができている様子が分かる写真が上がってきて、速やかな除去作業につながったケースもあります。
マネタイズの面では、一般的なゲームと同様のユーザー課金と広告収入に加え、ユーザーが集めた写真データにも価値があることから、連携先企業によるデータ購入費が大きな柱となっています。東京都内の三区で行った実証実験では、1日あたりのユーザー数は200~300人程度。一般的なゲームと比べると少なく見えますが、この規模でエリア内の電柱撮影を完遂でき、ビジネスとして成立することを証明できました。
「ピクトレ」の核は、ユーザーが指定の場所に足を運び、写真を撮影する行動に現実的な価値を付加することです。インフラ保守のほか、観光振興や防災訓練などさまざまな応用が期待できます。
――「ピクトレ」以外のゲームについてもご紹介ください。
他に実証実験が進んでいるものとして、廃棄物処理工場でのゴミ分別作業を対戦ゲームに仕立てた「Eco Catcher Battle」が挙げられます。遠隔地からゲームに参加するユーザーの操作に連動して、工場に設置された分別ロボットがリアルタイムで分別作業を行います。労働力不足の解消と同時に、遠隔で参加できることから雇用の拡大につながる可能性も秘めており、障害を持つ人の就労形態として採用する話も出ています。
この他にも、当社では地域創生、高齢者のQOL向上、CO2削減など、さまざまな社会課題解決につながるゲームの型を用意しており、これらをDXや新規事業創出、Web3活用を図りたい事業者に提案して、共に具現化を進めることに取り組んでいます。
日本発の社会貢献エンタメで、世界に驚きを届ける
――創業の経緯は。
共同創業者の吉田とは彼にとって3社目となる上場を控えたイオレ社の代表取締役、私がテレビ東京のプロデューサー時代に出会い、共に「グローバルに展開できるエンターテイメントをつくりたい」という夢を持っていたことから意気投合しました。私が独立したのを機に具体的な事業の検討を始め、2018年に当社を設立。当時、国内では税制上、暗号資産の発行体になることができなかったため、シンガポールに本社を置く形を取りました。
2020年にローンチした「JobTribes」は、ゲームに暗号資産、仮想通貨を組み合わせ、プレイすることでユーザーが報酬を得られる「Play to Earn」というコンセプトが世に広まる前から、このアイデアを取り入れたタイトルです。
――課題解決ゲームのコンセプトはどのように誕生したのですか。
「暗号資産を掛け合わせることで、エンターテイメント体験をバージョンアップしたい」という思いから開発したJobTribesでしたが、運営を続けるうちに、そもそも暗号資産の活用でエンターテイメント性を高めようという考え方自体に無理があると気づきました。仮想世界に熱中したいベクトルと資産価値を積み上げるベクトルは言わば真逆であって、どこまで行っても交わり得ないと悟ったのです。
一方、東南アジアなどでは、「生活に困窮していた人がJobTribesで報酬を得て、一家を養えるまでになった」といった現象が起きており、ゲームという仮想世界で培われたスキルが現実の課題解決に役立つ可能性を示していました。これがヒントになり、「ゲームのプレイそのものに課題解決のベクトルを持たせれば、仮想世界と現実世界をよりスムーズに接続し、エンターテイメントの力を社会貢献に活用できる」という考えにたどり着いたのです。JobTribesの運営を続けつつ、課題解決ゲームの可能性を探る中、東京電力が最初のパートナーとして手を挙げてくれたことで、当社の新たな方向性が定まりました。
――今後の事業展開は。
今回の資金調達先であるZUUの力も借りながら、課題解決ゲームを共につくる連携先を増やすことに注力します。同時に、すでに水面下で進んでいる案件については、めどが立ち次第プレスリリースし、認知度を高めていきます。恐らく2025年中には、地域創生、高齢者のQOL向上、CO2削減の各事例を発表できると見込んでいます。
今、連携先と共に型をつくっている各種ゲームは、今後グローバルに展開する想定で、すでにピクトレに関心を持つ海外企業も出てきています。会社としてはナスダック上場を目指しており、今回の調達資金の一部を上場準備に充てる計画です。
私たちが目指すのは、「エンターテイメントとインフラ保守がつながるのか」「ゴミ分別が対戦ゲームになるのか」といった驚きとともに、世界中の人々に新しいエンターテイメントを届けること。コンテンツの力で課題解決を図る発想には、海外の人から見て「日本らしさ」を感じてもらえる要素もあると考えています。暗号資産というグローバルな仕組みに乗せ、「ゲーム×社会課題解決」のムーブメントをどこまで拡大できるか、ぜひご期待ください。
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