観光・インバウンド領域で事業を手掛ける株式会社羅針盤がプレシリーズAラウンドにて、ミダスキャピタルが運営するファンドおよび役職員を引受先として4億円の資金調達を実施したことを明らかにした。
今回の資金調達により、M&Aを通じたさらなる事業規模の拡大、および2026年ごろのIPOを目指す。
インバウンド向け事業同士の合併で設立
同社は2022年12月に株式会社インバウンドコンソーシアムとして設立。着物レンタル事業を買収し、2023年4月には社名を羅針盤に変更。その後、ノットワールド、エアトリステイと合併する形で現在の体制となった。
着物レンタルは全国8店舗で展開している(写真:羅針盤提供)
着物レンタル事業に加えてエアトリステイの宿泊管理事業、ノットワールドが展開していた訪日観光客向けのツアー企画や自治体向けのコンサルティング、メディア運営を通じて、観光・インバウンド領域で広く事業を展開する。
2024年2月には訪日外国人観光客向けのE-Bikeレンタルを開始した(写真:羅針盤提供)
今後もM&Aを通じた既存事業の規模拡大や新規事業の立ち上げなど、インバウンド領域における事業展開を加速する。
今回の資金調達に際して、代表取締役 佐々木 文人氏(ノットワールド共同創業者)に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。
観光分野で日本に存在感を
―― 後に羅針盤と合併する、ノットワールド創業のきっかけについて教えてください。
佐々木氏:私自身は大学卒業後、保険会社とコンサルティング会社で勤務していました。合わせて約8年勤め、海外への長期滞在機会がなかったこともあり、どこかのタイミングで海外を回りたいと考えていました。視野を広げて長い人生を楽しみたいと、仕事を辞めて1年間の海外旅行をしたことが2014年のノットワールド創業の大きなきっかけです。
旅行期間の一部は、ノットワールド共同創業者の河野と共に過ごしていました。旅行をする中で印象的だったのが、空港に日本企業の広告が減ってきていたことです。日本が、世界での存在感を徐々に失っている兆候を感じました。そうした中で、観光分野であれば、自分たちの力で日本を盛り上げることができるのではないかとノットワールドの共同創業に至りました。
ノットワールドとしては、訪日観光客向けのツアー企画や自治体向けのコンサルティング、訪日外国人旅行者向けメディアの運営を行っていました。
―― そこからどのような経緯で羅針盤としての再スタートを切るのでしょうか?
羅針盤の前身であるインバウンドコンソーシアムは、2022年12月にミダスキャピタルによって設立されました。設立時に代表を務めていたのは、羅針盤の取締役で、当時エアトリステイの代表だった澤畑です。
ミダスキャピタル代表パートナーの吉村さんは、大学の同級生です。そうした縁もあり、着物レンタル事業とエアトリステイの宿泊管理事業を合併させるという話が浮かび上がった際に、ノットワールドへも連絡いただきました。私と河野、澤畑の3名で、会社として目指す方向性を綿密にすり合わせ、結果的に一緒に事業をやろうという形で合意して吸収合併という決断をしました。
人口減少の日本を支えるインバウンドビジネス
―― インバウンド市場の現状や課題について教えてください。
コロナ以前の2019年におけるインバウンドビジネスの市場規模は約4.8兆円でした。2016年の時点で、日本政府はアフターコロナのインバウンド市場の拡大を見据え、2030年に訪日外国人旅行者の消費額として15兆円を目標に掲げていました。水際対策が緩和されて2023年3月には「早期に5兆円を達成すること」と目標が修正されましたが、2023年の実績は5兆2923億円と既に目標を達成し2019年を上回る力強い伸びを見せています。
日本の人口は今後も減り続けていくことが予想されます。内需に頼っていては、人口減少の分だけ消費が失われていきます。こうした状況下で観光は、日本経済を支える非常に重要な領域です。
一方で世界を見渡しても、オンラインの旅行会社や宿泊施設を手掛ける事業者以外に、規模の大きなビジネスを手掛けるインバウンド事業者はあまり多くありません。だからこそ我々がビジネスを手掛けることで、国内で消費がなされる状態を作っていきたいと考えています。
国内では事業者のデジタル化の遅れ、旅行客向けのマーケティングが不十分である点などが課題です。結果的に収益性が低くなり、優秀な人材の流入が見込めなくなります。
訪日旅行者向けビジネスの大きな利点は、国内向けの旅行商品と比較しても、良い体験・商品が提供できれば価格が高くても購入してもらいやすい点です。そこで収益性・待遇を改善することで、観光業界全体の活性化につながるはずです。
M&Aを軸に日本の観光をリード
―― 調達資金の使途について教えてください。
主には、大きく三点の使途になります。着物レンタル事業のさらなる店舗拡大や人材採用、M&Aを通じた収益機会の拡大です。着物レンタルは現在全国8店舗展開していますが、2024年には10店舗以上に増やし、年間10万人程度のゲストに提供できるよう拡大予定です。
M&Aに関しては、既存事業に関連するM&Aと、新規の事業としてM&Aする2パターンがあります。前者に関しては、同業他社の買収による規模拡大や垂直的な買収、例えば宿泊管理事業に関連して、当社が運用する部屋の清掃を行う事業者などのM&Aです。
また、訪日外国人の旅行消費額のうち、約95%が宿泊・飲食・交通・買物の4分野で占められています。残りの5%が娯楽やその他費用です。この中で当社が現在展開しているのは、娯楽と宿泊の領域に限定されます。観光分野で存在感を出すためにも、飲食や買物などに関連する事業者のM&Aを通じて成長するチャンスがあれば、積極的に事業展開していきます。
―― 今後の長期的な展望を教えてください。
日本の観光をリードするうえで、短期的な通過点としては最短での上場を目指しています。当社は観光に関する事業を行う性質上、さまざまな企業とのアライアンスが重要です。そのため上場による知名度や信頼の獲得は、それ自体が事業成長に重要な役割を果たすと考え、2026年後半ごろの上場に向けて取り組んでいます。
今後は国内・海外問わず、「インバウンドといえば羅針盤」という想起をしてもらえる存在になりたいと思っています。そのためにはサービスの拡充も必要です。当社はまだ合併直後で、それぞれの事業領域で個別のお客様にサービスを提供しています。培った顧客データベースを共有して事業同士の連携を強めることで、より多くのゲストに対して価値提供していきます。
インバウンドをきっかけに、日本の観光そのものを変革することが日本経済にとって大きな意味を持ちます。この数年が勝負です。当社にはすでにメンバーも多く集まり、しっかりと利益を出せる事業を持っています。さまざまな事業者や投資家と共に、このチャンスを活かして業界全体を盛り上げていきたいと思います。