【IVS2025レポート】最新ピッチから注目スタートアップ、事業創出のハブへ進化するIVSの全貌

【IVS2025レポート】最新ピッチから注目スタートアップ、事業創出のハブへ進化するIVSの全貌

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KEPPLE編集部
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2025年7月2日から4日にかけて、日本最大級のスタートアップカンファレンス「IVS2025」が京都市勧業館「みやこめっせ」とロームシアター京都を主会場に開催された。主催は株式会社Headline Japan、京都府、京都市で構成されるIVS KYOTO実行委員会。

今年は「Reshape Japan with Global Minds」をテーマに掲げ、スタートアップ、投資家、大企業、行政関係者、メディアなど、国内外から延べ13000人が来場。300社が出展した「IVS Startup Market」や186のセッション、500件を超えるサイドイベント、そして公式マッチングプラットフォームを通じて実現した3900件のマッチングなど、多彩なコンテンツが展開された。

世界的なプロダクトNotionの共同創業者 アイバン・ザオ氏が登壇した初日のWelcomeセッションにはじまり、業界を横断するトップランナーたちが次々と登壇。京都という土地が持つ「伝統と革新」の文脈のなかで、日本のスタートアップエコシステムの現在地と未来を語る場となった。

今回は、初日および2日目の模様を中心にレポートする。

グローバル潮流と日本再構築──京都から始まる問いかけ

IVS2025初日の開幕セッションでは、主催であるIVS KYOTO実行委員会を代表し、Headline Japanの島川俊郎氏が登壇。今年のテーマ「Reshape Japan with Global Minds」に込めた狙いや、全体構成について語った。

島川氏は、「世界的にスタートアップ支援のステージが変わるなか、日本に求められるのは“再定義”と“再接続”」と指摘。次世代の社会構造や産業ビジョンを描く“問いの場”としてIVSを設計したという。

実際に会場では「AI」「エンタメ」「ディープテック」などの産業別ステージが展開され、企業フェーズに応じた「シード」「グロース」「グローバル」などの分類も導入。「Empower Her」をはじめとする多様性推進型セッションも含め、業種や立場を超えた議論が交差する構成となっていた。

また、500件を超えるサイドイベントが京都市内で同時開催され、歴史ある街全体がスタートアップ・プラットフォームとして機能する構造が生まれた。島川氏は「参加者一人ひとりが“受け手”ではなく“仕掛け手”として関与してほしい」と呼びかけ、来場者に能動的な参加を促した。

写真 Headline Japanの島川氏、京都府知事の西脇隆俊氏、京都市長の松井孝治氏
左からHeadline Japanの島川氏、京都府知事の西脇隆俊氏、京都市長の松井孝治氏

後半には、京都府知事・西脇隆俊氏が登壇。伝統工芸や大学研究といった地域資源を起点とした新たな産業の可能性に触れ、「京都ならではの知見をスタートアップの飛躍に生かしてほしい」と期待を寄せた。

続く京都市長・松井孝治氏は、アーティスト・イン・レジデンス制度や創造的人材の循環に向けた施策を紹介。文化とテクノロジーが交差する都市戦略における京都の立ち位置を示した。

厳選されたスタートアップが集結する「IVS Startup Market」

IVS2025で新たに登場したコンテンツが「IVS Startup Market」だ。国内外から選ばれた約300社のスタートアップが日替わりで出展し、会場は熱気に包まれた。

この展示スペースに立つことができるのは、国内有数のVCや著名起業家からの推薦、あるいは自薦に基づき、厳しい審査を通過したスタートアップだけ。毎日およそ100社が入れ替わりで登場する総入れ替え制が導入され、訪れるたびに新たな出会いが待っている構成となった。

スタートアップブースの様子

出展企業の領域は、AIやディープテック、サステナビリティ、ローカルイノベーションなど多彩。全体の約2割にあたる60社は海外からの参加で、国際色も豊かだ。各ブースには創業者やCxOクラスのメンバーが立ち、資金調達や事業提携、採用に向けて、濃密な対話が至るところで交わされていた。

さらに、来場者から高い関心を集めたのが「VCツアー」。これは、国内外のベンチャーキャピタルやCVCがファシリテーターとなり、ブースを案内しながら解説を加える形式のツアーである。投資家や大企業の新規事業担当にとっては、短時間で推薦済みの有望スタートアップと直接向き合える、効率的かつ濃度の高い場となった。

宇宙から微生物まで──幅広い領域で挑戦するスタートアップたち

展示ブースを歩けば、多彩なスタートアップと出会うことができる。たとえば、製造業におけるナレッジ管理を支援するAI支援型PLM「PRISM」を開発する株式会社Thingsや、植物の根に共生する微生物「植物内生菌」の研究開発に取り組むバイオスタートアップ株式会社エンドファイトなど、実用性と先進性を兼ね備えた企業が存在感を放っていた。

中でも筆者が関心を持ったのは、JAXA認定ベンチャーの株式会社天地人だ。同社は「宇宙×地上インフラ」という独自領域に挑戦しており、宇宙水道局では複数の衛星データとAI解析を組み合わせ、地中に埋まる老朽水道管の漏水リスクを診断。従来に比べ最大79%のコスト削減を実現し、持続可能なインフラ維持管理のモデルケースとなりつつある。

さらに同社は、農業領域でもユニークな実証実験を展開。気温や日照、降雨などの気象ビッグデータをもとに「日本で最もおいしい米の育成地」を特定し、すでに販売ルートも構築している。今後は衛星の自社開発・打ち上げも視野に入れ、再エネやグローバル展開といった新領域への広がりも見据えているという。

天地人社展示物
人工衛星から送られてくる気象情報などのビッグデータを元に、 山形県鶴岡市の水を適切に管理して栽培されたお米、300g648円で販売

また、エンディング領域の課題に挑む株式会社tayoriは、LINEを活用したWebサービス「tayorie」を展示。生前に"最後の想い"や重要な実務情報を登録しておけば、万が一の際に自動で遺族に送信される仕組みだ。

株式会社tayoriの展示ブース
代表取締役 直林 実咲氏

今後は、信託・保険・不動産などの事業会社と連携し、ユーザーのライフエンディングに関する選択肢を拡張することを目指しており、IVSでは実際に信託銀行や金融機関関係者との接点も生まれたという。社会的関心の高まりと共に、エンディング領域の新たなスタンダードを構築しようとする姿勢が、来場者の関心を引いていた。

共感が資金と機会を動かすクラファン連動ピッチ「Top Gun FUND」が初開催

初日の午後、Update Stageで開催された「Top Gun FUND」は、リアルタイムクラウドファンディングを組み込んだ新たな形式のピッチイベントとして注目を集めた。ピッチの開始と同時に、会場スクリーンには各プロジェクトのCAMPFIREページが表示され、観客はスマートフォンを通じてその場で支援を行える。共感が即座に資金へと変わる仕組みが特徴だ。

100社を超える応募の中から選ばれた8社が登壇。教育×SNSを掛け合わせたプロダクトを展開する株式会社4kizや、地域課題にテクノロジーで挑むチームなど、多様なアプローチを持つプレイヤーが一堂に会した。

本イベントは、単なるスタートアップ支援にとどまらない。第二創業や社内起業といった挑戦も射程に含み、形式や成長ステージを問わず、"次の一手"を模索する事業者のためのオープンプラットフォームとして機能した。

2時間にわたるセッションの末、会場を熱く沸かせた上位入賞者は以下の3社:

最優秀賞:合本株式会社<BSF AFRICA>(代表:平井翔真)

アフリカ・ウガンダを拠点に、食品残渣などの有機廃棄物をアメリカミズアブ(BSF)で分解し、養鶏・養殖用のタンパク質飼料へと再資源化する循環型ビジネスを展開。現地のゴミ処理・雇用創出・農業生産を統合的に支えるこのアプローチが高く評価された。

平井氏は受賞に際し、「アフリカの地から世界の食糧問題解決に挑む挑戦を、多くの方に応援していただけて本当に嬉しいです」とコメントしている。

2位:チーム トシぞう(代表:李 雅真・他)

「老いることが怖くない世界」を掲げ、高齢者の孤立を解消する2つのアプリ「守り火」と「つつうら」を開発。学生と高齢者をマッチングする仕組みを通じて支援と雇用を両立させ、世代間の接続と地域福祉の再構築を目指す。発案者は高校生であり、彼らの地域実践と実行力が注目を集めた。

3位:株式会社日本XRセンター(代表:小林大河)

VRが普及しない“鶏卵問題”を逆転発想で打破すべく、没入型XRアトラクションを開発。AR・VRに加えて振動デバイスを組み合わせ、短時間・高単価の体験提供に挑む。第一弾の「ゾンビゲーム」は“体験動画を持ち帰れる”ユニークな設計となっている。

会場では、登壇者のプレゼンに心動かされた観客がその場でスマートフォンを操作し支援する姿も多く見られた。共感が即座に“投票”となって現れるこの仕組みは、今後の資金調達の新たな選択肢となりうる。起業家の熱と応援のリアルな接続──その可能性を感じさせるセッションとなった。

次代の飛躍を告げる発射台──IVS2025 LAUNCHPAD

カンファレンス2日目のメインイベントとして開催されたのが、日本最大級のスタートアップピッチ「IVS2025 LAUNCHPAD」。歴史ある京都の地で、未来を切り拓く15社が決勝ステージに挑んだ。

今年は国内外から350社以上が応募し、その中から選び抜かれた15社が、6分間のプレゼンテーションに挑戦。領域は素材開発、宇宙、教育、ロボティクス、地域課題解決など多岐にわたり、単なる技術力だけでなく、社会課題への洞察やビジョンの実現性が問われる場となった。

優勝:アドバンスコンポジット株式会社

未知なる素材を生み出す「溶湯鍛造法」──登壇者:AKIYOSHI氏

最優秀賞を獲得したのは、独自技術「溶湯鍛造法」により革新的な素材開発を進めるアドバンスコンポジット。従来の鉄に代わる軽量・高性能素材の開発に成功し、冷却部品を約65%軽量化。データセンターやエアコンといった省エネ領域での活用により、世界の年間消費電力の約3%を削減できる可能性を提示した。

同社の強みは、エネルギー・航空宇宙・AI・原子力といった先端産業への広範な応用力。すでに日本の主要自動車メーカーとの取引実績を持ち、グローバル企業との共同開発も進行中だ。ピッチでは顔を隠した演出や実演を交え、技術力とプレゼンテーション力の両面で観客を惹きつけた。

準優勝:株式会社天地人

宇宙×AIで“見えないインフラ”を守る「宇宙水道局」──登壇者:櫻庭康人氏

2位には、JAXA認定ベンチャー・株式会社天地人がランクイン。水道インフラの老朽化が進む日本において、テクノロジーで社会インフラを支えるその姿勢が高く評価された。

3位〜特別賞 受賞企業一覧

また、来場者による投票で選出されたオーディエンス賞にもスナックテクノロジーズが輝き、ギャル式発想法を打ち出す合同会社CGOドットコムが「インベスターZ賞」を受賞。三田紀房氏によるスピンオフ漫画化が予定されている。

「まるで映画を見ているかのような濃密な時間だった」「技術と表現力、どちらも際立っていた」──審査員からはそんな声も挙がった。

テクノロジー、社会性、そして人間らしさが交差する熱量の高いピッチが続いたこの日、IVS LAUNCHPADは、単なる発表の場ではなく、次のユニコーンを生み出す"発射台"としての存在感を確かに示した。

歴史と未来が交差する京都から、「事業実装のステージ」へ

IVS2025は、スタートアップカンファレンスの枠を超え、資本・人材・行政・産業が交差する「実装型の事業創出ハブ」へと進化した。過去最多となる500件超のサイドイベント、約300社の出展、そして全国から集まった投資家や自治体、企業担当者の熱量が、その進化を裏付けている。

今年は特に、グローバル市場を視野に入れた先進的なスタートアップや、社会課題の解決を軸に据えた事業が多く登壇。プロダクトの技術力だけでなく、事業としての実装性とスケーラビリティが、かつてないほど厳しく問われる場となった。

京都から始まったこの動きは、IVSを中核に据えながら、全国各地へと波及していく。日本再構築の突破口として、今後の展開が注視される。

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