株式会社カケハシ

クラウド型電子薬歴・服薬指導ツールの「Musubi」などを開発する株式会社カケハシが、シリーズDラウンドで約140億円の資金調達を実施した。
今回のラウンドではゴールドマン・サックスがリード投資家を務め、第三者割当増資およびベンチャーデットなど複数手法を組み合わせている。
カケハシは2016年創業のヘルステック企業で、薬局業務のデジタル化を軸としたSaaS型プロダクトを展開している。主力サービス「Musubi」は、クラウドベースの電子薬歴・服薬指導システムであり、薬剤師の記録業務を効率化するとともに、患者とのコミュニケーション支援機能を備える。加えて、薬局経営者向けのダッシュボード「Musubi Insight」や、患者フォロー用アプリ「Pocket Musubi」、医薬品在庫の最適化を支援する「Musubi AI在庫管理」など、複数の製品ラインナップを持つ。これらのサービス群によって、薬局現場の業務効率化のみならず、患者の体験向上や医療連携の促進も目指している。
2024年時点で、Musubiは日本国内の約14,000店舗の薬局に導入されており、これは全国の調剤薬局の20%強に相当する。日本の調剤薬局市場は実店舗数が約6万、年間延べ利用者数が17億人超とされており、カケハシのサービスは一定規模の普及を見せている。
代表取締役社長の中尾豊氏は、医療従事者の家系に生まれ、武田薬品工業でMRを経験後、2016年にカケハシを創業。ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテストやB Dash Campで優勝、内閣府「次世代ヘルスケア」有識者としても活動。東京薬科大学薬学部 客員准教授を務めている。
薬局業界は近年、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の重点分野と位置付けられ、政策的にも効率化と質向上が求められている。背景には、薬剤師による服薬指導の義務範囲拡大、在宅医療や地域包括ケアへの対応強化、薬価改定による収益構造の変化、さらにジェネリック医薬品の供給不安やサプライチェーンの混乱といった課題がある。こうした状況に対応するため、厚生労働省や日本薬剤師会は業務効率化や患者アウトカム(治療効果や生活の質)の向上、新しい患者フォロー体制の整備を提唱しており、薬局現場へのDX需要が高まり続けている。
調剤薬局向けITベンダーは複数存在し、従来はレセプト(調剤報酬請求)に特化したオンプレミス型システムが主流であった。しかし、医療現場ではクラウド技術やデータ活用、業務横断的なプロダクトが求められるようになり、SaaS型のサービスが徐々に市場に浸透しつつある。
カケハシは、経済産業省が推進するPHR(Personal Health Record)利活用事業の実証プロジェクトへの参画や、大学・医療機関との共同研究、薬局DXカンファレンスの主催など、多面的な取り組みを進めている。また、薬局スタッフの業務負荷軽減や患者アウトカム向上に関する実証データの蓄積と外部公開、薬局間・医療機関間の連携強化にも取り組んでいる。これにより、患者主体での医療データ活用や、業界全体のデータ基盤整備が進みつつある。
今回の資金調達によって、カケハシはM&Aや新規技術獲得、プラットフォーム機能拡充への投資を進めるとともに、エンジニアや営業、カスタマーサポートといった人材採用体制を強化する計画だ。
今後も、服薬期間中の患者フォローを通じて治療効果の最大化を図るとともに、市中在庫の可視化や医薬品の安定供給を支援する。また、薬局や医療機関など多様なステークホルダーと連携し、より良い医療の実現に向けたプラットフォームを構築する方針だ。