3DデータをフィジカルAIの基盤に──bestatが3.1億円調達、描く「現場の共通言語」

3DデータをフィジカルAIの基盤に──bestatが3.1億円調達、描く「現場の共通言語」

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bestat株式会社は、3Dデータの取得・生成・処理・活用を一気通貫で支援するクラウドサービス「3D.Core」を提供する、東京大学松尾研究室発のAIスタートアップだ。

2023年の前回取材時、同社は、クリエイティブ・エンタメ・マーケティング領域の企業に向けて、3Dデジタルコンテンツを自社で受託制作していた。その後、市場を探り、顧客課題と向き合うなかで、事業の軸足を製造業・インフラ業へと移し、現在は、顧客が自ら撮影したデータからその場で3Dデータを生成・活用できるプラットフォーム「3D.Core」の提供へと転換している。

工場やプラント、橋梁、高速道路、電力設備など、現実空間の3Dデータ化を支援。3D.Coreは、スマートフォン、360度カメラ、3Dスキャナー、ドローンなどで取得した画像・動画・点群データをもとに、現場を3Dデータとして生成し、産業現場での共有・管理・活用までを一手に担う。

スマートフォンや360度カメラ、ドローン、3Dスキャナーなどで取得したデータをもとに、3Dデータの生成から共有・活用までを支援する「3D.Core」
スマートフォンや360度カメラ、ドローン、3Dスキャナーなどで取得したデータをもとに、3Dデータの生成から共有・活用までを支援する「3D.Core」(画像:同社提供)

同社は2026年7月、シリーズAラウンドを総額3.1億円でクローズした。今回新たに、栖峰投資ワークス、Darwin Venture Management Corporation(台湾)、NANKAI NEXT Ventures、みずほキャピタル、フィデアキャピタルなどが参画。調達資金は、同社の強みであるアルゴリズム開発を中心としたサービス開発と、採用に充てる方針だ。 

AIが現実空間で動き、ロボットやドローンが人と協働するフィジカルAIの時代に、3Dデータはどのような役割を担うのか。代表取締役の松田 尚子氏に、事業の変遷、3D.Coreが解く現場課題、そして台湾を起点とした海外展開について聞いた。

3Dコンテンツ制作から、産業現場のデジタルツインへ 

──現在の事業について教えてください。以前は3Dコンテンツを制作されていたと思うのですが、そこからどのように事業を広げてこられたのでしょうか。

松田氏:以前は、クリエイティブやエンタメ領域、マーケティング用途の3Dデータ制作が中心でした。その後、どこに大きな市場があるのか、どこでペインが大きいのかを探るなかで、現在は製造業のお客様が最も大きな割合を占めるようになっています。 

いま事業の中心になっているのは、製造業の工場におけるデジタルツインの構築です。工場に加えて、電力や高速道路などのインフラ業のお客様から、3Dデータ化のご相談をいただく機会も増えてきました。この3年で最も大きく変化したのは、クリエイティブ領域から製造業・インフラ領域へと、活用の場が広がってきた点だと思います。 

──「3D.Core」はどのようなサービスなのでしょうか。

製造業やインフラ業の企業様向けに、3Dデータの生成から管理、さらにシミュレーションやロボット学習に使う一歩手前の処理までをワンストップで提供する、3Dデータ管理プラットフォームです。 

現場でスマートフォンなどを使って撮影した画像データから、その場で3Dデータを生成し、簡単に共有・利活用できるようにしています。

工場内を3Dデータ化したイメージ。設備や配管などの位置関係を、現場に行かずに確認できる
工場内を3Dデータ化したイメージ。設備や配管などの位置関係を、現場に行かずに確認できる(画像:同社提供)

工場全体や高速道路、電力設備のように対象物が大きい場合、スマートフォンだけで撮影するのが難しいケースもあります。そのため、360度カメラや3Dスキャナー、ドローンなど、さまざまな機器で取得したデータに対応できるようにしています。 

以前は、「きれいな3Dデータができる」こと自体に価値があると考えていました。もちろん、精度の高いデータを作ることは重要です。ただ、3Dデータは眺めるだけではROI(投資対効果)が合いません。

現在は、CADソフトで配置シミュレーションを行ったり、ロボットの学習に使ったりするために必要なデータ処理まで含めて提供する形へと変わってきています。単に3Dデータを生成するだけでなく、その後の活用につながる状態まで整えることが「3D.Core」の役割です。

3Dデータを活用した干渉チェックのイメージ。設備配置や作業空間の確認など、シミュレーション用途への展開も想定する
3Dデータを活用した干渉チェックのイメージ。設備配置や作業空間の確認など、シミュレーション用途への展開も想定する(画像:同社提供)

複数ソフトをまたぐ負担をなくす 

──現場にはどのような課題があったのでしょうか。

製造業やインフラ業の企業様は、すでに3Dデータをある程度活用されています。点群データを取得したり、デジタルツインを試したりする中で、3Dデータの便利さ自体は認識されていました。 

一方で、実際の業務では複数のソフトウェアをまたいで作業しなければならないという課題がありました。撮影したデータを取り込む、データを軽量化する、閲覧する、CADソフトに取り込める形式へ変換する。こうした工程ごとに別々のツールが使われており、作業が分断されていたのです。 

さらに、3Dデータは一つひとつの容量が非常に大きいという課題もあります。ノートPCで扱うと動作が重くなり、ほかの作業ができなくなることもあります。その結果、オフィスにある特定のPCでしか作業できず、ダウンロードとアップロードを繰り返すだけで1日が過ぎてしまう。そうしたお話を、お客様から共通して伺っていました。 

また、ソフトウェアが一元化されていないため、中間ファイルが残り、データが分断されていきます。同じ現場のデータであるにもかかわらず、担当者ごとに別々のデータを見ている状態になってしまうのです。 

そこで、撮影したデータをクラウドにアップロードすれば、関係者が同じデータを見られるようにする。必要なときに検索・確認でき、ダウンロードやアップロードを繰り返す必要もない。現場の要望をもとに、そうした現在の「3D.Core」の形ができあがってきました。 

──実際に、どのような効果が出ているのでしょうか。

IHIインフラスクエア社(旧:IHIインフラシステム社)の事例では、鋼橋の保守・補修に必要な3Dデータの準備期間が、従来の5日間から1日に短縮されています。 

この1日には、データをアップロードした後、クラウド上で計算処理を行う時間も含まれています。そのため、実際に人が手を動かす作業時間で見ると、8割以上の削減につながっていると考えています。 

フィジカルAIに不可欠な「空間のデータ」

──3Dデータを生成・処理する技術は、フィジカルAIの社会実装においてなぜ重要なのでしょうか。

ロボットやドローンが自律的に動くためには、現実空間を3Dで理解する必要があるからです。

2Dでは、物との距離や奥行きを把握してスムーズに動くことができません。現実空間の中でどのように動くかをシミュレーションし、学習していくための大量の3Dデータが必要になるのです。 

フィジカルAIの社会実装を掲げる企業は、ロボット制御や自動運転のプログラムを手がける会社を中心に数多くあります。一方で、その前提となる3Dデータを準備し、活用できる環境そのものを整える企業は、まだ多くありません。 

──3Dデータ環境を整える市場の成長性を、どのように見ていますか。

潜在的な市場は非常に大きいと考えています。 

フィジカルAIが動くのは現実の空間なので、その空間の広さがそのまま3Dデータ化の潜在需要になります。

世界の陸地面積約1億4900万km²のうち、フィジカルAIが導入されうる工業・商業用地や道路などの面積は約68.1万km²、世界の陸地面積の0.46%にあたります。

そのうち、現在「3D.Core」で保有しているデータは約3.85km²で、対象空間の約0.0006%にすぎません。今後はデータ保有量を毎年10倍ずつ拡大し、2030年には、世界で産業用3Dデータを必要とする空間の6%を「3D.Core」でカバーすることを目指しています。 

さらに、デジタルツインは一度作れば終わりではありません。工場ではラインが頻繁に変わり、完成品の置き場も常に最適化されていきます。年に1回ではなく、月に1回、できれば毎日データを取得したいというニーズもあります。

つまり、対象となる空間を一度データ化するだけでなく、継続的に更新していく必要があるということです。だからこそ、まだ大きな成長余地があると考えています。

台湾を起点に、グローバル市場へ

──今回の資金の使い道について教えてください。

大きく2つあります。一つは開発です。3Dデータの処理にはGPUなどの計算資源が必要ですし、エンジニアもまだ足りていません。世界的な水準で3Dデータ処理技術をさらに高めていくために、研究開発へ投資していきます。 

もう一つは、お客様との接点を増やすことです。これまでは、営業のような活動を十分に行えていませんでした。今後は、お客様の課題により深く向き合い、フィジカルAIの環境を準備する価値を広げていけるような体制をつくっていきたいと考えています。 

そのため、エンジニアだけでなく、お客様の現場に入り込み、課題を理解しながら導入を進められるメンバーも採用していく予定です。 

──今回のラウンドには台湾のVCも参画されています。投資家の布陣には、海外展開を見据えた狙いもあったのでしょうか。

はい。今回のラウンドには、台湾のDarwin Venturesにも参画いただきました。

海外展開を進めるうえで、その最初の足がかりを台湾に定めたいと考えており、今回の調達は、こうした海外展開を見据えた布陣です。自社の技術が世界でどこまで通用するのか、それを見極めるべき場所は台湾であると考えていたなかで、台湾のVCとのご縁に恵まれました。

──海外展開の最初の足がかりとして、台湾を選ばれた理由を教えてください。

台湾が、フィジカルAIの重要な拠点の一つだと考えているからです。NVIDIAの存在もあり、フィジカルAIに対する感度が高く、日本よりも私たちの取り組みへの理解が早かったという実感があります。

台湾には、グローバルに工場を持つ企業や、そうした企業にソリューションを提供している企業が多くあります。まずはそうした企業に「3D.Core」を使っていただく、あるいは各社のソリューションに組み込んでいただく形で、海外展開につなげていくことを想定しています。世界に向けて事業を広げる際、最初に協業する相手は台湾にいると考えています。

製造業・インフラから、建設・医療・宇宙へ 。現場の3Dデータが、AI時代の共通言語になる

──今後、事業をさらに広げる予定の領域はありますか。

現在は製造業とインフラ業が中心ですが、今後の展開先としては建設や医療を考えています。すでにお問い合わせもいただいており、可能性はあると見ています。 

医療分野では、患者ごとに異なる臓器形状に合わせた手術シミュレーションや、医療器具のカスタマイズなどへの応用が考えられます。ただし、医療分野は規制や認証への対応も必要になるため、時間をかけて取り組んでいく領域だと考えています。 

まずは地上の産業現場から、3Dデータの基盤を広げていきたいと考えていますが、将来的には水面下の構造物点検、水中ドローンによる海中データの取得や、宇宙・月面建築への応用可能性も視野に入れています。

──最後に、今後の中長期的な目標を聞かせてください。

私たちは、2030年を一つの節目として見ています。その時点で、世界的にも3Dデータを必要とする空間の6%に対して「3D.Core」を提供し、3Dデータの基盤、ひいてはフィジカルAIの基盤を広げている状態を目指したいと考えています。 

組織面では、AIが業務の一部を代替することも前提に、AIネイティブな少数精鋭の体制をつくりながら成長していきたいです。今後は、製造業やインフラ系の企業、ロボット関連企業と、さらに踏み込んで連携するフェーズも来ると考えています。 

世界中の現場には、まだ十分にデータ化・共有されていない情報がたくさんあります。

私たちは、それらを一つの空間データとしてつなぐことで、設計、生産、保守、さらにはロボット化までを支える基盤をつくりたいと考えています。

現場で働く方々からは、「現場は生き物」だとよく聞きます。日々変化する現場を継続的に記録し、共有できるようにすること。その積み重ねが、現実世界で自律的に判断し、動くAIを生み出す土台になると考えています。

今回の資金調達を機に、3Dデータを現場の共通言語として広げ、フィジカルAI時代の基盤づくりを進めていきたいです。

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