京都大学発のスタートアップ6選

早稲田大学政治経済学術院の研究成果を基に設立されたスタートアップVETA株式会社が、約2億円の資金調達を実施した。今回の出資は早稲田大学ベンチャーズが運営するWUV1号投資事業有限責任組合によるもので、同ベンチャーキャピタルが社会科学分野の大学発スタートアップに投資するのは初となる。
VETAは、価値観の不一致から生じる社会的摩擦を解消することを目的とした調査分析技術の開発とサービス提供を行っている。コア技術である「Value Elicitation法」は、従来マーケティング領域で用いられてきたコンジョイント分析に、独自のアルゴリズムを組み合わせた手法である。これにより、複数の選択肢において個人がどの要素を重視しているかを高精度に分析できるようになる。VETAはこの技術を用いて、回答者個人に自身の選好構造をフィードバックする調査ツールを開発しており、特許も出願中である。
経営体制は共同創業者3名によって構成されている。CEOの原健人氏は、日本IBMでデータサイエンティストとしてAIアプリケーションの導入やビジネスインテリジェンス領域の基盤整備に従事した経歴を持つ。CSOの山本鉄平氏は、2024年までマサチューセッツ工科大学(MIT)で教授を務め、統計学・政治学の分野で因果推論やコンジョイント分析を専門とする研究者である。CKOの日野愛郎氏は、ボートマッチの社会実装を日本国内で主導した政治学者で、全員が設立時からVETAに参画している。
VETA設立の背景には、早稲田大学における研究シーズの事業化推進と、大学発イノベーションの拡大方針がある。全国の大学発ベンチャーは2024年度時点で5074社に達しているが、経済産業省の調査によれば主な分野はバイオ・医療・環境・エネルギーなど理系が中心であり、社会科学分野での事業化は例が少ない。VETAのように社会科学研究を基盤としたスタートアップの成立は、国内においても挑戦的な試みといえる。
現代社会では、価値観の違いによる摩擦や誤解が、選挙や政策決定のみならず、不動産取引や人材マッチングなど様々な場面で課題となっている。VETAが開発したValue Elicitation法は、こうした意思決定場面において個人の重視点を可視化し、より納得度の高い選択を支援する技術として注目される。同社は2025年7月の参議院選挙に向けて日本経済新聞社と連携し、Value Elicitation法を用いたボートマッチサイトの開発を進めている。サービスは7月3日の公示後に公開予定で、有権者が自身の価値観に基づき各政党との相性を客観的に把握できる設計となっている。
また、将来的な応用領域として、不動産仲介や人材紹介といった分野が想定されている。意思決定の精度向上が社会的インパクトを持つ分野での活用を目指すほか、企業や行政のデータに基づく政策立案(Evidence-based Policy Making)を支援するツールとしての展開も視野に入れている。今回調達した資金は、研究・開発チームの拡充や調査ツール、ユーザー向けアプリケーションの開発推進に充てる計画である。
競合環境としては、海外でSurveyMonkey(現Momentive)などがコンジョイント分析を活用した意思決定支援ツールを提供している。国内でもリサーチテック系スタートアップが企業向け調査分析サービスを展開しているが、個人の価値観を可視化しフィードバックする技術の商用化は限定的である。VETAが社会科学分野の知見を生かし、どのように事業として拡大できるかが今後の注目点となる。
VETAは今後、大学研究成果の社会実装における新たな事例として、また社会科学のビジネス化という点でも業界内で動向が注目されている。資金調達後は、技術開発とサービス実証を進めながら、既存の調査分析市場とは異なる独自の立ち位置を確立することが求められている。
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