食品ラップに近い厚みの「膜」で衛星ダイレクト通信・宇宙太陽光発電に挑む──cosmobloomがシード調達

食品ラップに近い厚みの「膜」で衛星ダイレクト通信・宇宙太陽光発電に挑む──cosmobloomがシード調達

xfacebooklinkedInnoteline

宇宙構造物は、大型化と軽量化という相反する課題を抱えている。通信アンテナや発電パネルは、宇宙空間で大きく広げるほど機能を高めやすい。一方で、ロケットに搭載する際には、できるだけ小さく、軽く収めなければならない。

この課題に対し、膜やケーブルといった極めて薄く軽い部材でつくる構造物「ゴッサマー構造」の技術で挑むのが、株式会社cosmobloomだ。ごく小さく折りたたんだ状態で打ち上げ、宇宙空間で大きく展開できることが特徴だ。

同社の技術は、日本大学理工学部航空宇宙工学科宮崎研究室、現在のJAXA宇宙構造物システム研究室で育まれてきた。2010年にJAXAが打ち上げた小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」には、展開時に差し渡し20mにもなるゴッサマー構造の膜(ソーラーセイル)が搭載された。

ゴッサマー構造は「食品ラップのよう」と表現されるように、あまりにも軽薄であるため空気や重力の影響を受けやすく、その挙動を地上でテストすることが難しい。

画像:「非線形弾性力学解析コードNEDA」でのゴッサマー構造物の展開シミュレーション
同社が開発した「非線形弾性力学解析コードNEDA」でのゴッサマー構造物の展開シミュレーション(画像:cosmobloomウェブサイトより)

cosmobloomは独自のシミュレーション技術をもとに、宇宙空間でのゴッサマー構造物の挙動を計算し、宇宙ゴミ対策品や通信アンテナ、将来的な宇宙太陽光発電につながる構造物の開発を進めている。

画像:cosmobloomウェブサイトより

同社は今回、シードラウンドで総額3.3億円を調達した。調達資金は、超小型衛星向けデオービット装置「LEAF」の軌道上実証、国産ダイレクト通信向け膜面アンテナや、宇宙データセンターをはじめとする大電力宇宙機向け太陽パドル(宇宙機の発電に使う太陽電池パネル)の開発、採用強化などに充てる方針だ。出資者には、トヨタ・インベンション・パートナーズ、セガサミーホールディングス、太陽工業などが含まれる。

今回は、代表取締役CEOの福永桃子氏に、開発の進捗や今後の展開について訊いた。

宇宙ゴミ対策品「LEAF」、開発完了し打ち上げ実証へ

──直近の事業進捗について教えてください。

福永氏:一番大きなアップデートは、宇宙ゴミ対策品である超小型衛星向けデオービット装置「LEAF」の開発が完了したことです。収納時の大きさは0.3Uと、世界最小規模です。2026年末に、LEAFを搭載した衛星を打ち上げ、軌道上実証を行う予定です。

デオービット装置は、役目を終えた人工衛星がそのまま軌道上に残り続けないよう、大気圏へ落下しやすくするための装置です。衛星の運用終了後に膜を展開し、空気抵抗を受けやすくすることで、軌道を下げていきます。

※1U=1辺10cmの立方体

画像 LEAF
LEAFは、3Uや6Uといった超小型人工衛星に搭載可能であるという。(画像:cosmobloomウェブサイトより)

近年、低軌道には数千機規模の小型衛星群が相次いで投入され、軌道上の混雑と衝突リスクが高まっています。こうした中、運用を終えた衛星を速やかに軌道から外すことが国際的に求められ、とくに米国の通信規制当局(FCC)が定める「5年以内に軌道離脱」というルールへの対応が、デオービット装置の需要を押し上げています。

実証前からすでに引き合いがあり、複数の商談が進行中です。一部についてはお客様への納品を済ませています。

膜で衛星ダイレクト通信アンテナをつくる理由

──膜面アンテナの開発について教えてください。

昨年、中小企業等の研究開発を支援する国の制度であるSBIRに採択いただき、開発資金を得て本格的に開発を進めています。

背景にあるのは、スマートフォンと衛星が基地局を介さず直接通信する「ダイレクト通信」を国内でも実現したいという課題です。現在、この領域ではStarlinkの存在感が大きく、日本国内では、スマートフォンと衛星を直接つなぐ通信基盤を国産で構築する取り組みは、まだ途上にあります。

いま提供されている衛星ダイレクト通信も、テキストメッセージ程度の通信容量が中心です。私たちが目指しているのは、将来的にスマートフォンだけで、動画を快適にストリーミングできるような通信品質を実現するアンテナです。

ダイレクト通信用アンテナのイメージ画像
ダイレクト通信用アンテナのイメージ(画像:cosmobloomのプレスリリースより)

──素人目にも難しそうですが、なぜ膜でアンテナをつくるのでしょうか。

衛星通信の品質を高めるためには、10メートルを超えるような大型アンテナが必要になります。実際に大型アンテナを実現しようとしている海外企業の衛星は、数トン規模の大型衛星です。

しかし、日本の経済規模を考えても、衛星通信のために大型衛星を大量に打ち上げるのは、なかなか現実的ではありません。そこで、同じ機能を膜で置き換えられないかと考えています。膜であれば、折りたたんで小さく収納でき、軽く打ち上げることができます。

アンテナは面の均一さが性能を決めるため、普通は硬い板でつくるものだと考えられてきました。膜は真っ先に選択肢から外れる素材で、アンテナを専門にしてきた人ほど、膜でつくるという発想そのものを持ちません。私たちは柔軟構造の側から出発し、その応用先としてアンテナにたどり着いたからこそ、この発想に至れたのだと思います。

──アンテナに使う膜の厚さはどれくらいですか。

用途によって異なりますが、いま想定している膜の厚さは、12.5マイクロメートルから50マイクロメートル程度です。食品ラップがだいたい10マイクロメートルなので、それに近い非常に薄い膜を使うことになります。

素材については宇宙用途に耐えうる既存の素材を用いており、素材そのものの開発は行っていません。ただ、既存材料にも弱点はあるので、その弱点を補えないか、素材メーカーとも相談を続けています。

──膜面アンテナを実現する上で、一番の技術的な課題は。

一番難しいのは、計算上は理想的な電波特性が出せても、それを実際のものとしてつくったときに、計算通りにいくとは限らないことです。

私たちはもともと構造の専門チームで、通信やアンテナに特化してきたチームではありません。そのため、アンテナメーカーのスタッフ株式会社にも協力いただきながら、試作と測定を繰り返しています。

アンテナは、部品のわずかな接触やちょっとしたズレでも特性が大きく変わります。アンテナを専門にされている方々は「アンテナは生き物だ」と言いますが、本当に繊細です。膜のアンテナを扱った経験は、アンテナの専門家にもほとんどありません。だからこそ、計算した通りの電波特性に近づけていくために、試作と調整を地道に続けています。

──膜面アンテナの先には、どのような展開を見据えていますか。

膜面アンテナの次に実現したいのは、宇宙太陽光発電です。宇宙空間で太陽光発電を行い、その電力を電波に変換して地上に送り、地上側で再び電気に戻すという構想です。

家庭の屋根に載せているソーラーパネルは、天候が悪い日や夜間には発電できません。一方、宇宙空間であれば、地上の天候や昼夜の影響を受けにくい。理論上安定的な発電が可能です。

ただ、宇宙で発電した電力を地上に送るときには、電波を使います。つまり、技術的にはアンテナが必要になります。私たちはまず通信アンテナの開発を通じて、電波を出す技術をしっかり蓄積し、その先の発電システムにつなげていきたいと考えています。

なお、地上に送るだけでなく、宇宙データセンターなどの大型宇宙機用の発電もできればと考えています。

今回の資金調達にはトヨタ、セガ、太陽工業などが参画

──今回の資金調達では、どのような株主に参画いただいていますか。

今回のラウンドでは、トヨタ・インベンション・パートナーズ、セガサミーホールディングス、太陽工業をはじめとした投資家の方々に出資いただきました。太陽工業は、東京ドームの屋根などを手がける大型膜構造物のメーカーで、大型膜面構造物では世界トップクラスのシェアを持つ会社です。太陽工業とは、2025年7月から膜構造物の社会実装に向けた共同研究開発を進めており、膜材料や製造プロセスに関する技術検討も進めています。

──トヨタとの連携はどのような文脈でしょうか。

具体的な連携内容は、まだこれから調整していく段階です。

トヨタは輸送領域に強みを持ち、宇宙を含む輸送やインフラにも関心を持たれているのではないかと捉えています。私たちの技術が、そうした文脈の中で何らかの価値を出せるのではないかと期待しています。

宇宙太陽光発電へ展開 日本発の宇宙インフラへ

──海外展開についても考えていらっしゃいますか。

海外については、大きく2つの方向性があります。

アメリカやヨーロッパのように、すでに宇宙産業が自国で成立している地域では、私たちは基本的にコンポーネントメーカーとして、アンテナや構造物を部品として提供していく方針です。宇宙ゴミ対策品も、基本的には部品として販売する形です。

一方で、東南アジアやアフリカのように、衛星通信のニーズはあるものの、自国で宇宙通信インフラを構築するための技術基盤がまだ十分に整っていない地域もあります。そうした国々に対しては、日本国内で進めているような座組みづくりのノウハウを生かし、事業開発の段階から一緒に関わっていきたいと考えています。

スマートフォンと衛星が直接つながる通信は、災害時や通信インフラが届きにくい地域でも重要になります。国や地域ごとの状況に応じて、部品供給と事業開発の両面から展開していくことを目指します。

──今後の事業展開と、改めて事業にかける想いを聞かせてください。

まずは宇宙ゴミ対策品であるデオービット装置に取り組み、その次に通信アンテナ、将来的には宇宙太陽光発電につなげていきます。2026年中にLEAFの軌道上実証を行い、その後数m級の膜面アンテナおよび太陽パドルの軌道上実証、最終的に数km級の宇宙太陽光発電システム(SSPS)の実装を目指します。

膜構造は日本が先頭を走れている、数少ない領域の一つです。2010年に打ち上げられたIKAROSは、一辺14メートルにおよぶ膜を宇宙空間で広げてみせました。その成功を追って、アメリカや中国も研究を進めましたが、この展開サイズを超えるものに成功した国は、今もどこにもありません。実績として世界の先頭に立てている。これは大きな強みであり、同時に、自分たちが守り抜かなければならない責任だと考えています。

私たちと同じことに取り組む企業は、国内外を見渡してもほとんど存在しません。この独自性こそが、私たちの競争力です。

デオービット装置の実証を足がかりに、膜面アンテナ、そして宇宙太陽光発電へ。膜という技術を軸に、日本発の宇宙インフラをつくり上げていきます。

新着記事

STARTUP NEWSLETTER

スタートアップの資金調達情報を漏れなくキャッチアップしたい方へ1週間分の資金調達情報を毎週お届けします

※登録することでプライバシーポリシーに同意したものとします

※配信はいつでも停止できます

ケップルグループの事業