展示を民主化するバーチャリオン、多様な文化表現への貢献を目指す

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KEPPLE編集部

バーチャルミュージアムの制作プラットフォームを運営するVirtualion株式会社がシードラウンドにて、ICJを引受先としたJ-KISS型新株予約権による5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回の資金調達により、プラットフォーム開発の強化、および教育機関向けサービスの実証を目指す。

だれでも簡単に展示会を開催

同社が開発する「Virtualion®」は、誰でも展示を作って公開できるプラットフォームだ。すでに存在する展示をバーチャル空間に表現することに加え、自身のコレクションをバーチャルミュージアム化することができる。

大阪大学美術部のオンライン展覧会(2020)

大阪大学美術部のオンライン展覧会(2020)


これまでに学術機関との共同制作や、企業が自社の魅力を発信する場としてのミュージアム作成を行っている。

また、Virtualion®を用いて人がミュージアムを作成するほか、同社は生成AIを活用し、インターネット上の情報をもとに自動でバーチャルミュージアムを作成している。ウィキペディア上の情報を参照し、これまでに約10万館のバーチャルミュージアムを作成した。

作成されたバーチャルミュージアムへは、誰でもアクセスできる。学芸員などの展示に関する専門技能を持つ人向けには、AIが作成した展示レイアウトの編集権や、自分の写真や絵をミュージアム化する権利をサブスクリプションで提供する。学芸員の有資格者に対して、展示実務に関する能力の活用機会を創出し、展示制作を行う層を増やす狙いだ。

国際日本文化研究センター共同研究会

「身体イメージの想像と展開―医療・美術・民間信仰の狭間で」


また、教育現場への展開にも力を入れている。大阪府立茨木高等学校では、Virtualion®を用いた展示実習を行っており、武田科学振興財団の中学校・高等学校理科教育振興助成
に採択された。今後も教育機関向けサービスの開発に注力する予定だ。

また、企業の歴史や特徴、文化を伝える企業ミュージアムも日本では盛んだ。同社によれば、東京だけでも92館の企業ミュージアムが存在するという。大阪万博の開催も背景に、自社のストーリー発信の場として、バーチャルの企業ミュージアム作成を普及させる計画だ。

今後は、バーチャルで作品やコレクションを展示したい人と、展示作成の能力を持つ人をマッチングするシステムの開発を進めながら、世界中の情報や作品をバーチャルミュージアム化することを目指している。

今回の資金調達に際して、代表取締役CEO 五十里 翔吾氏と共同創業者兼アドバイザーの伊藤 謙氏に、今後の展望などについて詳しく話を伺った。

展示を通じて次世代に資産を残す

―― ミュージアムの運営には、どのような課題がありますか?

 五十里氏:ミュージアムの運営には、展示物の入れ替えのための輸送費や人件費など、維持にコストがかかります。さらに、お金をかけて構築した展示が充分な注目を得られないこともあります。

資料の活用や展示に関する専門技能である、学芸員という資格があります。大学で文部科学省令の定める単位取得が必要な専門性の高い資格にもかかわらず、有資格者の1%以下の人しか学芸員として就職できていないというのが現状です。文化や芸術の発信が十分にされていない中で、有資格者を有効活用できていない点は非常に大きな社会課題です。

―― ミュージアムの重要性やバーチャル化について、御社はどのように考えていますか?

 五十里氏:ミュージアムは、保存・収集した標本などを展示する場です。こうした標本や展示品は、現代の研究において大きな資産になります。展示を通じて、人類や自然が築き上げてきた知識や発見を残して次の時代に伝えていくうえで、ミュージアムには非常に重要な役割があると考えています。

伊藤氏:作品は、美術館や博物館で一般に公開されることではじめてその価値が高まることもあります。そのため、有名な美術館や博物館に、自分の作品を無料でも展示してほしいと思う方は多くいるんです。展示をより美しくわかりやすくすることで人を惹きつけ、権威を与えることもミュージアムの機能の一つだと思っています。

こうした機能はバーチャル空間でも変わらないはずです。実際に、あるコレクターの方のバーチャルミュージアムを作成したことがあります。その方は、完成したミュージアムを見て、感動で涙を流していたんです。こうした経験から、展示の場所がリアルでもバーチャルでも、人を感動させたり、作品に権威付けするような機能があることを仮説検証するきっかけになりました。

スタートアップスカウト

―― 創業のきっかけを教えてください。

 五十里氏:学生時代は、大阪大学の美術部に所属していました。大学博物館では、伊藤先生(共同創業者の伊藤氏)の指導の下、毎年美術部展が開催されており、そこではただ絵を飾るだけではなく、ストーリー展開やテーマ設定により、どのようにメッセージを伝えるかなどを試行錯誤していたんです。まさに、普段学芸員が行っているような展示実務を経験しました。

しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で、展示会の開催が難しくなってしまいました。これまで手がけてきたミュージアムの雰囲気を再現できればより楽しい体験ができるのではないかと思い、ソフトウェアの開発を始めたことが起業の大きなきっかけです。

当初は起業は考えていませんでしたが、開発からすぐに有償での依頼があったことや、博物館の関係者や伊藤先生からの後押しがあったことで、バーチャリオンの創業に至りました。私自身は博士後期課程の学生でもあり、事業をしながら研究するという学位取得後の新たなキャリアの在り方を示すことにも関心があります。

世界のすべてをミュージアムに

―― 資金調達の背景や使途について教えてください。

伊藤氏:これまでプロダクトを開発する傍ら、ビジネスとしてどのようにスケールさせて行くかは常々考えていました。そんな中、大きなターニングポイントとなったのがCSO(Chief Strategy Officer)の米倉豪志氏のジョインです。

デジタルクローンの生みの親として知られている彼は、これまでに多くの企業を興し、複数をバイアウトそして上場させた経験があります。当社が資金調達に関する進め方を検討していた際に米倉に相談したところ、彼が加わってくれたことでビジネスプランの改善や資金調達に繋がりました。

五十里氏:今後もミュージアムを増やしていくためには、展示を作成する人を増やす必要があります。そこで調達資金をもとに、展示を自分で作りたいと思う人たちを育成する取り組みの一つとして、教育機関向けサービスの実証に取り組み始めており、大阪府立茨木高校では、授業の一環として採用されています。

加えて、今後はバーチャルな展示を行いたい人と展示作成の能力を持つ人をマッチングするシステム開発も検討しています。実現すれば、文化表現の多様化に貢献できるはずです。

―― 今後の展望を教えてください。

 五十里氏:2025年には、大阪万博が実施される予定です。そこに向けて企業や自治体のミュージアムを盛り上げるなど、市場を開拓することが一つの目標です。企業や自治体の文化や歴史をストーリーとして伝えるバーチャルミュージアムの実例を作りながら、一般に普及させるための取り組みを学術機関や地方自治体、企業と進める予定です。

また、自動生成AIを用いて、すでに10万館のバーチャルミュージアムを作成しましたが、2024年中には1億館のミュージアムの作成を目指しています。この技術を用いて、言語を問わずにあらゆる情報をミュージアムの空間で体験できるようにし、新たな資料の追加や構成変更など、誰もがミュージアムを拡張できるプラットフォームを開発しています。ミュージアムがただ訪れる場ではなく、自分で作ることができるものであるという認知を広げることで、「ミュージアムというメディア」を用いたさまざまなエコシステムの循環に貢献したいと考えています。

Virtualion株式会社

Virtualion株式会社は、バーチャルミュージアムの作成を行うことができるソフトウエア『Virtualion』の開発などを行う企業。 『Virtualion』は、画像データや動画データ、3Dデータなどを用意し、バーチャル空間に展示できるソフトウエア。音声案内や、ウェブサイトへのリンクを貼ることも可能だという。「照明モード」や「順路エディット」、「キャプションモード」などの機能を備える。これまで、「国際日本文化研究センター」や「大阪大学」などの研究機関と、共同のオンライン・バーチャル展覧会開催実績を持つ。

代表者名五十里翔吾, 小林祥一
設立日2021年6月11日
住所東京都中央区晴海2丁目2番42-3612号
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