関連記事
2024年11月6日から8日にかけて、福岡市で開催された日本最大級の招待制カンファレンス「B Dash Camp 2024 Fall in Fukuoka」。その中でも注目を集めたセッションの一つが「世界で稼ぐ!スタートアップの戦い方」だ。
このセッションでは、インターステラテクノロジズCOOの熱田圭史氏、ICHIGO代表の近本あゆみ氏、NextNinja代表の山岸聖幸氏が登壇し、モデレーターを経営共創基盤の塩野誠氏が務めた。各氏がグローバル市場での成功戦略や挑戦について語り合い、実体験をもとにした知見を提供した。海外展開をする企業の人材集めに主眼を置いた前半に続き、組織制度や離職率低下の取り組みについて触れられた。
世界に誇れるIPを活かしたビジネス展開
塩野 やっぱり今アニメのIPがきてるじゃないですか。日本のアニメが同時多発で、あらゆる国で流行っている。現状を教えてください。
山岸 アニメが年間数百本作られる国っていうのはないんです、世界で。Netflixなどの映像配信プラットフォームが発達したことによって、それらが世界中に流通するので、もう80億人が同時に日本のアニメを知るという状態になったんですね。Netflixのアニメジャンルの中の9割が日本の作品なので。一方で、アニメで課金できるわけじゃないんですよ。製作委員会に入ってたりとかするモデルなので。そこでゲームコラボなどの形で、アニメ放送するときに北米で同タイミングでゲームコラボすると課金ポイントができるみたいな形で僕らはビジネスをやっています。
塩野 IPホルダー側っていうのはウェルカムな感じなんですね。
山岸 もうウェルカムウェルカム(笑)。もうどんどん作ってみたいな感じでいろんなステークホルダーの方とお話しながら、「アニメの放送があるからこれ使ってよ」とか、これだったらいけるんじゃないみたいなことを、IPホルダーの方々と話しながら計画を立てたりしている感じですね。
日本での生活は子育て世帯に魅力
塩野 人事制度をお伺いしたいですね。最初からグローバルへの進出を想定する場合、なるべく早めに人事設計した方が後から作るより絶対楽だと思うんですけれども、近本さんいかがですか?
近本 私達が外国人の従業員を採用し始めたのは確か4,5人目とか、それぐらいだったので、人事設計も制度も何もない状態で取ってしまって。なので、まず国による商習慣の違いっていうのを私達も知らないですし、従業員のその外国人の方も知らないのでそこの戸惑いがありましたね。
例えばもう本当に基本的なことで、始業時間に来ないみたいな。始業時間はもちろんどこの国にもあるんですけど、「30分くらいまでの遅刻はOK」みたいな感覚の国も世界にはけっこうあったりするので。始業時間に来ないし、終業時間よりも早く帰っちゃうし、日本人だったら言わなくてもわかることをどう伝えていくか、どういうふうに制度だったりとか社内規則に入れていくかみたいなところが、最初はすごく苦労しました。
塩野 ビザとかってどうなんですか?
近本 ビザも私たちが取得して、日本に来てもらうっていうこともしてます。先ほどの山岸さんのお話と一緒で、うちの従業員も大体アニメとか漫画とかっていうのがきっかけで日本が好きになって日本で働いてみたいとか、あとはもう既に日本に来ているような外国人の方が働いてくれているので、ビザも積極的に取ります。
塩野 山岸さんはいかがですか。
山岸 ビザも会社で取りますが、うちがちょっと違うのが、日本語検定1級を持っている外国人を採用しているので、全く日本人と同じように接していて制度も全く日本人と同じに合わせてもらってます。そこは何もケアをせず、日本人と接するのと同じようにやって、グローバルに出ていくという感じですね。
塩野 日本人と同じように接しているけれども、他の国の商習慣がわかったり他の国の言語ができたりする人ってイメージですか?
山岸 母国語が英語だったりとか中国語だったりとか、そういう人たちなんですけど。海外でマーケをするには、その人たちの感覚って必要なんですよね。ローカライズが必要だと。なんですけど、90%ゲームを作ってる側が日本人なんですよね。だからメイドインジャパンではあって、プロデュースを海外にする部分で、海外メンバーの力を使っていて。でもその人たちは日本語のN1を持っているので、もう日本人と同じように接してやっているみたいな感じです。
塩野 宇宙分野では、採用目線でターゲットしている国の人材などいるのでしょうか?
熱田 エンジニア領域で言うとやっぱりロケットを打ち上げている国の方っていうのはやっぱり取りたいというふうになります。ただやっぱりこの円安というか、為替の関係は結構あるんです。給与においては取り負けるなというのはかなりありますね。
塩野 そうですよね。それが普通のソフトウェアスタートアップとかでも、シリコンバレーで新卒が3000万ですよみたいな話もあります。その中でどう戦っていくんですか?
熱田 やっぱり子育てだったりとかを重要視されている方、安全とかですね、日本はリビングコストが安いっていうことですね。海外に行くとお昼ごはんで5000円みたいなことが当たり前の世界。日本だと牛丼が普通に500円とか1000円以下みたいな。そういうリビングコストが安いというところと安心っていうところで、子供が小さいときに日本で育てたいっていうニーズのエンジニアもけっこういらっしゃるというのを感じています。
リファラルによるプチコミュニティ形成で社員が定着
塩野 ちょっと前まで東京ってニューヨークや上海とかの仲間かなっていうイメージがあったんですけど、今では圧倒的に日本が安すぎるんですよね。そういう意味でいうと、日本に住むのもいいかみたいなものって本当にありますよね。離職率などはいかがですか?
近本 離職率はやっぱり外国人の方が高いかなっていうふうに思いますね。そもそも前提の考え方として、結構その外国人の方ってジョブホッピングっていう感じで、転職しながら自分のキャリアを積んでいく、自分の市場価値を上げていくみたいな考え方の方が多いので、離職率はやっぱりどうしても高くなってしまいますね。
塩野 その時のバックアップとか大変じゃないですか?
近本 私達が最近結構積極的に取り組んでいるのがリファラル採用なんですけど、例えばデザイナーのチームは全員フィリピン人のチームになってまして、1人フィリピン人の優秀なデザイナーが入ってくれたときに、「友達や元同僚で日本に来たい人いないかな?」みたいに相談したところ、本当に芋づる式に連れてきてくれて。社内で一つのフィリピンコミュニティみたいなものができてるんですね。それがすごく良いふうにうちの場合は機能していて。
日本という慣れない国に来て、母国のメンバーと一緒に働けるというところがかなりインセンティブになってくれていて、デザインチームでいうと離職率も下がっている状態です。なので今はほかのチームでも積極的にやっています。
塩野 従業員は何名くらいですか?
近本 今正社員で100名弱ぐらいです。うちの場合はどうしてもマジョリティが外国籍になってしまうので、やっぱり日本の商習慣に合わせきれないというか、自分たちの意見も聞いてほしいみたいな話もやっぱり出てくるので、100%完全に日本に合わせてねっていうわけではありません。
外国人も働きやすい制度とかはさまざま用意したりとかしてるんですけど、外国人のメンバーに評判が良いのが「ワーケーション制度」です。1年のうち30日間は世界中どこからでも仕事ができますよっていうような制度になります。日本って欧米の国とかに比べて、長期休暇が短いですよね。なので国に帰って満足に休めないみたいな意見を反映して、休みも取りつつあのワーケーションっていうことで長く故郷にいてもらえるような制度っていうのを作って。それは外国人だけで日本人も使うようにしてるんですけど、すごく取得率が高いですね。
塩野 柔軟ですね。山岸さんいかがでしょう。
山岸 あまり外国人だからという制度設計はしていなくて。日本人と同じように飲み会もやるし、パーティーもやるしみたいな。意外と離職率は低いですね。日本が好きなので、日本から離れないんじゃないかなと何となく感じています。自分が興味あるコンテンツに関わってるかのほうが、たぶんうちの場合は離職率に効いてるんじゃないかなという感じがします。